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「シスターフッド、いいよね」って消費する人たちに、ちょっと意地悪したい。柚木麻子さんが新刊で描く新境地

2023.07.04

作家・柚木麻子さん

女性どうしの関係性を書かせたら右に出るものなし! 強い絆からのグチャグチャの嫉妬心まで、女性なら共感必至の作品を次々と送り出してきた作家・柚木麻子さん。作品中の巧みな料理描写もさることながら、ご本人も相当な料理上手。なんと5月からわれらがオレンジページnetで新連載「柚木麻子の『拝啓、小林カツ代様』~令和のジュリー&ジュリア~」が始まりました!

その少し前には新刊『オール・ノット』も上梓。貧困にあえぐ苦学生と、かつて栄華を誇った一族の生き残りであるパートの〈おばさん〉との友情を描き、新境地を開拓した柚木さん。

新刊とnet連載にこめた思いは? 最近の料理事情、どうですか? ファンなら気になるあれこれを直撃インタビュー。「先生、それ記事にできません!」なエピソードも(たびたび)飛び出す絶好調の柚木節を、2回にわたってお届けします。まず前半は『オール・ノット』のお話から。

新刊のタイトルでもある『オール・ノット』の技法で作られたアコヤパールのネックレスを身につけて登場した柚木さん。お似合いです!
 

人生の早い段階で、人を信頼する勇気を得ることは大切だと思う

 ――新刊『オール・ノット』の主人公の一人・四葉さんは、試食販売のパートで生計を立てる40代。手のこんだ料理や部屋のインテリアなど、つつましい中にもかつての豊かさがにじむ暮らしぶりが素敵で、四葉さんの魅力にひかれていく苦学生・真央の気持ちがよくわかります。このキャラクターが生まれるきっかけは?

その前に書いていた本が歴史もので、ものすごい資料の量だったんです。コロナで取材もできないから、ずっと資料を読んでひたすら書く生活が続いて、もう本当にきつくなっちゃって。作家としてこれ以上やっていけないんじゃないかと思って、他の仕事を検索してたんですよ。これまでやった仕事のなかで一度も怒られなかったのが試食販売だったから「面接受けてみよう」と思って。

――ええ⁉

そうしたらコロナの影響で求人がないんです! 今も復活したとはいえ、カプセルに入ったサンプルを配るという方法が主流で。「やっぱり私には作家の仕事しかないんだ、はあ……」と落ち込んだんですけど、そのときに試食販売の40歳の〈おばさん〉の話が書きたいなと思ったのがとっかかりですね。

――想像以上に意外なきっかけでした。柚木さんといえばシスターフッド小説のイメージがありますが、今回描かれるのは年の離れた女性たちの関係性。糸が切れてもバラバラにならない〈オール・ノット〉加工のパールネックレスをはじめ、彼女たちに受け継がれる宝石が象徴的に描かれます。

もともと好きなのは『若草物語』や『小公女セーラ』みたいな少女小説なんです。富める者から貧しい者に財産が渡っていくとき、昔だと謎の後見人が現れたり送り主のわからないお金が届いたりしても違和感ないけど、現代なら後見人も口座もたどればわかっちゃうじゃないですか。それをどう現代に落とし込むか、ちっちゃくて高い宝石にすればスマートだなとふと思ったんです。

でも私、宝石全然くわしくなくて。手始めに上野の宝石展を見に行ったんですけど楽しくないんです、「大きいとあめみたいだな~」って感じで(笑)。そんなとき母から「あの人の話を聞いたら絶対おもしろいよ」って紹介されたのがジュエリーデザイナーのTさんでした。もうこのTさんの話が抜群におもしろい。なんでかって、Tさんがこれまで大量に失敗をしてきた人だからなんですよ。

オール・ノット技法のパールネックレスは、Tさんから購入した逸品。「小説に書いた宝石の知識も、全部Tさんを通じて知ったものです」。

――〈失敗〉ですか! たとえばどんな……。

自分でものすごい額のジュエリーを作ったけど全然売れなかったり、だまされているとわかりつつその人といっしょにお店をやったり。裕福で余裕があるから、「このおもしろい女が私をどうだますのかしら」って楽しくなっちゃうみたいな(笑)。今は宝石を買う人も少なくなってきていて、Tさんの失敗談はなんなら究極に無駄な話かもしれないけど、すごくありがたみがあるなと思ったんです。

『オール・ノット』の最後、四葉さんが宝石の話をするくだりは、Tさんの言葉をそのまま書きました。四葉さんは控えめでTさんはめちゃ陽キャだから、キャラは全然違うんですけど。

――四葉さんは40歳、真央は19歳。年の差がある女性どうしの交流も印象的でした。違う時代を生きてきた私たちと若い人では、享受してきたものも違う。そのギャップをどう埋めればいいのか考えさせられました。

昔ってよく「失敗を恐れず何でもやってみよう!」って感じで、変な恋愛でも肥やしにするみたいな感覚ありましたけど、今だと写真をSNSに拡散されるとか、それで人生終わりかねないじゃないですか。私は若い友人が多いほうだと思うんですけど、こんな時代だからこそ、ちゃんと無駄なことや失敗ができる安全な場所に誘ってあげたいというのがあって。

全然お金がない若い子と遊ぶ時は、お金出すだけじゃなくて、誰か仕事に繋がる人や情報を紹介するようにしたり、コスパがよい店や買い物方法をおしえたりするようにしてます。でも、若い方の方が私より全然情報をもってますけどね(笑)。私もそんなに生きる知恵があるわけじゃないけど、その場限りのごちそうではなく、次につながるものを与えられたらいいなとは思うんですよね。

あと、そういう時間は私もすごく楽しいんですよ。四葉さんもそうで、真央に何かしてあげようというより、ごはんをおいしく食べてくれる真央を見て楽しんでいるんだと思います。

話の後半でも、40代になった真央が、四葉さんと同じように佐々木さんという苦学生を支援します。佐々木さんは人生の早い段階でそういう人に出会えたおかげで、人を信頼する勇気を手に入れる。それは彼女にとって大きいことだと思うんです。

撮影/馬場わかな 文/唐澤理恵

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