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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.89】『FUNAN フナン』

2020.12.25


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
気付けば年末。この連載も、今年は今週が最後です。2020年の映画界を振り返ると、外せないのが「鬼滅の刃」(と言いつつまだ見ていないのですが)。子どもだけでなく大人の心も掴んでこその大ヒットですよね。ここ数年、大人が楽しめるというか大人のためのアニメ作品が多いように感じますが、この『FUNAN フナン』もまさにそう。
1970年代、ポル・ポト政権下で激動のカンボジアを生き抜いた、1人の女性と家族のストーリー。実写よりむしろアニメだからこそ、その壮絶さが伝わってくるような気がします。忘れてはいけない歴史、人間の弱さ、そして強さ……国を問わず、世界中の人がそれぞれの形で心に刻むことができる作品です。


戦時下における市井の人々を描いた作品の代表と言えば「火垂るの墓」。パリで生まれ、カンボジアにルーツを持つ今作の監督も、インタビューでこの作品に言及しています。「火垂るの墓」は前半で清太と節子の心なごむ場面があるぶん、後半がどんどん辛くなる劇的な展開。対して「FUNAN フナン」は、最初から最後まで辛い。
1975年。原始共産主義を掲げるポル・ポトによって制圧された、カンボジアの首都プノンペン。家や財産のはく奪、都市から地方への強制移住、過酷な労働や理不尽な虐殺など、彼が率いる武装組織「クメール・ルージュ」による蛮行に人々は苦しんでいました。プノンペンで幸せに暮らしていたチョウもその1人。夫のクン、3歳の息子ソヴァンとともに地方へと移動させられる途中で、不運にもソヴァンとはなればなれに……。


日本の連合赤軍事件の「総括」を思わせる自己批判の強制や、少しでも食糧を回してもらうために監視役の気をひこうとする女性など、目を背けたくなるシーンが淡々と続きます。とはいえ、ポル・ポト政権の残忍さを伝えることだけがこの映画の目的ではないように思います。全編を通して映し出されるのは、水と緑をたたえるカンボジアの自然。強制労働のシーンも、再会した家族が逃げる場面も、人間の愚かさと反比例して自然の美しさがいっそう際立ちます。水浴びする子どもや、オートバイが行き交う道路。映画の冒頭で一瞬だけ描かれる、平和だった頃のプノンペンも印象的です。それは、カンボジアが「暗い歴史を持つ国」というイメージだけで語られることへの、監督なりの抵抗なのかもしれないと思いました。


どんなに追い詰められても、息子との再会をあきらめないチョウ。母親という存在の強さを示しているとも言えるし、この時代を乗り越えた全ての人の象徴とも言えるし、正解はありません。自分の国の歴史と重ね合わせる人もいれば、親としてチョウの気持ちが理解できる人もいるはず。この作品を見る人の数だけ、ストーリーが生まれるのではないでしょうか。残酷な描写が大半を占めながらも、僕は床に座ってチョウ一家が笑顔で食事をする、冒頭のシーンがいちばん印象に残りました。

「FUNANフナン」  12月25日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、シネ・リーブル池袋他にてロードショー

Les Films d'Ici - Bac Cinéma - Lunanime - ithinkasia - WebSpider Productions - Epuar - Gaoshan - Amopix - Cinefeel 4 - Special Touch Studios © 2018

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

次回は1/8(金)です。お楽しみに!

文/編集部・小松正和

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