なぜリスはいつも、堅いものをカリカリかじっているのか
特殊な機能を持つ動物はさまざま存在しますが、よく引き合いに出されるもののひとつに、「トカゲのしっぽ」があります。身に危険が迫ると、トカゲはみずからしっぽを切り落として逃げ、
失ったしっぽは、程なくしてまた生えてくるという話です。
なぜそんなことが起きるかというと、
切断した部分の筋肉にある「幹細胞」(かんさいぼう)から、新しくしっぽが生まれる命令が出ているからです。
ネズミやリスなど齧歯類(げっしるい)の歯も同様です。リスが木の実のような堅いものをいつもカリカリとかじって削っているのは、彼らの前歯が、一生伸び続けるため。そしてそれは、幹細胞が前歯の根本に、死ぬまで存在し続けるからです。
人間の場合、手足や歯が欠損したとき生えてこないのは、幹細胞の量と質が、トカゲやリスのそれとは異なるためだといえます。
子供の傷の治りが早いのは、幹細胞の数が大人と違うから
この幹細胞は近年、各方面から注目されていて、「夢のような細胞」とも称されています。それは、次のような驚くべき機能を持つからです。
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自己複製能:分裂して自己と同様の細胞を作る能力
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多分化能:分裂して違う種類の細胞に変化する能力
先ほどのトカゲやリスの話は、まさに「自己複製能」によるもの。細胞が死んで入れ替わるときに、幹細胞が分裂して新しい細胞を生み出し、補給や修復を行います。
そして、自分を増やすことで数を一定に保ちつつ、別の種類の細胞に変化することもできる。それが「多分化能」です。
たとえば、転んでケガをしたとき。皮膚の細胞が傷つけば、幹細胞は皮膚の細胞に分化します。出血して赤血球が不足したら赤血球に、骨折していたら骨になる細胞に分化します。
気がついたときには傷口がかさぶたになって、新しい皮膚ができていたというのは、まさしく幹細胞のはたらきです。大人よりも子どものほうが傷の治りが圧倒的に早いのは、子どもは大人よりも幹細胞が圧倒的に多いためです。
歳をとっても、幹細胞ひとつひとつの力はほぼ同じ!
加齢により幹細胞が減ると、細胞の補給や修復が十分に行われなくなり、体の機能が低下してしまう。これが老化や病気の要因となっているわけですが、反対からいえば、
幹細胞を減らさない、あるいは増やすことで、老化を遅らせたり、ストップさせることができるということです。
「でも、歳をとると幹細胞の機能も衰えるのでは? 数が増えてもあまり意味がなさそう」と思われたかもしれません。しかし、さにあらず。
幹細胞ひとつひとつの力は、年齢によって損なわれることはないと考えられています。
人の気質や体質がそれぞれ異なるように、幹細胞の力や数の個人差は否めません。ただ、
ひとりの人の中で、赤ちゃんのときと30代、50代、80代のときを比べて、幹細胞ひとつひとつの力が変わるかというと、そんなことはないのです。
「幹細胞が減っていくのだから、老けるのも仕方がない」とガッカリしている方にはむしろ、この幹細胞ひとつひとつの強さに着目していただきたいのです。日々の心がけ次第で、老化を遅らせることもできるのですから。
人でも趣味でも、「推し」を作ろう
「日々の心がけ」として、特に大事なのが、ポジティブであることです。
笑いや楽観主義はNK(ナチュラルキラー)細胞を増やして免疫力を高め、がんの再発リスクを減少させるとか、
楽観的な人は悲観的な人と比べて、家族の死などのあとでも病気休暇の増加が少ないといった報告は、枚挙にいとまがありません。幹細胞移植をした患者さんのうち、治療に悲観的な方よりも楽観的な方のほうが、移植後の健康度が高いという研究実績も存在します。
といっても、私たちには生来の気質というものがあり、悲観的傾向を持つ人がポジティブさを保ち続けることは、容易ではないかもしれません。
また、ネガティブな予測によって回避できるリスクもありますから、悲観的な人がダメというわけではないのです。
そこでおすすめしたいのが、「
推し活」です。
推し活はいわば‟リトル恋愛“。恋をしているとき、脳の中では「喜び」をつかさどる領域(報酬系)が刺激され、ドーパミンが分泌されます。恋人の写真を見ると、ドーパミン神経が活性化するというデータもあります。
推しの情報を収集したり、会いに行ったり、‟推し友“と交流したり。こうした行動は、脳への良い刺激になります。もちろん、
推し活以外でも、ポジティブな感情が高まる活動はおすすめです。
教えてくれたのは……
三島雅辰先生
1961年東京生まれ。日本医科大学医学部卒業後、日本医科大学付属病院第一外科(消化器外科)および同救命救急センターにて外科的な医療技術を習得。2008年、神奈川県川崎市に三島クリニックを開設。のべ20万人以上の患者を診療し、地域医療に貢献。その後、都内の再生医療クリニック院長として、多くの幹細胞治療に携わる。2019年に再生医療提供計画第2種の認可を取得、Gクリニック理事長及び院長に就任。自己脂肪由来幹細胞や培養上清液により、慢性疼痛や脳梗塞など1000人以上の患者治療実績を持つ。