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55歳、最近涙もろくなったのは何故?50代からの脳やホルモンの変化と対処法

年をとると涙もろくなる?何気ない場面でもすぐ涙してしまい、少し困っています。

最近、自分でもびっくりするくらい涙もろくなってきました。昔は泣くことなんてほとんどなかったのに、今ではちょっとしたことですぐ涙が出てしまいます。テレビや映画の感動シーンで号泣してしまったり、日常の何気ない出来事でも胸が熱くなったり。友達や家族から「どうしたの?」「大丈夫?」と心配されることも。年をとると涙もろくなるといいますが、感情のコントロールがきかなくなっているのでしょうか。ふだんの何気ない場面でも涙が出てしまうことが増えて、少し困っています。
(55歳・女性)

阿部知代さんの回答

涙が出るのは、心と体がつながっている証拠。心が震えて泣けるってとても幸せなことです。

 私、泣くのはとてもいいことだと思うんです。心がまだちゃんと動いているということですから。逆に、泣けなくなるほうが心配なくらい。相談者のかたは、これまで「人前で涙を見せるなんて恥ずかしい」と、自分を律して生きてこられたのかもしれませんね。でも年齢を重ねると、固く閉めていた〈感情のふた〉が少しずつゆるんで、涙になって出てくることがあります。それは決して悪いことじゃない。むしろ、心が震えて涙が出るなんて、とても幸せなこと。心と体がちゃんとつながっている証拠です。
 私なんて大好きなオペラやバレエを見て涙するのはしょっちゅうです。気になる相手からLINEの返信が来ないだけで泣いたりします(笑)。中学生か! って自分にツッコミを入れつつ、それでいいと思っています。もしだれかに「どうしたの?」ときかれたら、「最近、涙腺がゆるくなっちゃって」と笑って返せばいいんです。「また泣いちゃった〜」って笑える大人、素敵だと思いませんか?
 オペラの歌詞の中に「涙は流さないと心に戻ってくる」※1というフレーズがあります。泣くとすっきりするのは、心にたまった何かが外に出ていくから。心に涙の泉があるとしたら、豊かに水をたたえているほうがいい。枯れたら大変です。泣きたいときは、どうぞ泣いてください。近くにいたら、「悩む必要ないわよ!」って肩をポンとたたいてあげたい(笑)。自分の感情に素直に、もっとラクに生きましょう。

※1 「涙は流さないと心に戻ってくる」
オペラ「アイーダ」の第4幕で、地下牢に閉じこめられたラダメスとアイーダが歌う二重唱「さらばこの世よ、涙の谷よ」の中のフレーズ。この場面は、二人が死を覚悟し、愛を誓い合う感動的なシーンで、抑えた感情は心にたまりつづけ、やがて苦しみになることを示唆している。

お悩み回答者 阿部知代さん

1963 年、群馬県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、フジテレビに入社。アナウンサーとして「FNNニュース」など多くの報道番組に携わる。「なるほど!ザ・ワールド」「笑っていいとも!」などバラエティ番組でも活躍。2015 年に報道局に異動。初の句集『それとも雨』(編)が発売中。X @abechiyo_Ho

山田悠史さんの回答

脳の「前頭葉」の変化と共感力の高まりが〈涙もろさ〉に関係しています。

 「年齢を重ねるにつれて、涙もろくなった」。この現象は、脳と心の両面から説明ができます。涙もろさに関係するのは、脳の前方にある「前頭葉」※2という部位。前頭葉は、怒りや悲しみ、喜びといった感情にブレーキをかける役割を担っていますが、加齢とともに少しずつ萎縮し、機能が低下していきます。前頭葉の働きが弱まると、感情を抑えるブレーキがききにくくなり、涙が出やすくなると考えられます。
 また、人生経験を重ねることで共感力が高まることも、涙もろくなる要因のひとつ。長い人生で、喜びや悲しみ、身近な人との別れなどさまざまな経験を積むと、他人の体験に自分の過去の記憶を重ねやすくなります。そのため、ドラマや映画、日常のちょっとした場面でも、以前より強く共感し、感情が揺さぶられやすくなるのです。これはだれにでも起こりうる自然な変化。涙を流すこと自体は悪いことではありませんし、むしろ感情をため込まずに発散できていると前向きにとらえていいでしょう。
 ただし、「感情の起伏が激しくなった」と感じる場合は、生活習慣を見直すことが大切です。アルコールは前頭葉の萎縮を促す※3ため、飲酒習慣がある場合は量を控えるようにしましょう。また、筋力トレーニングは、感情コントロールの改善やうつ症状の予防に効果があるという研究報告があります。有酸素運動と組み合わせれば、脳の血流もよくなり、認知症予防にもつながりますよ。

※2 前頭葉
大脳の前方に位置し、思考、判断、計画、創造、感情の制御、社会的行動などをつかさどり、「人間らしさ」を支える部位といわれている。この部分の働きが低下すると、注意力や意欲の低下、感情の起伏が激しくなるなどの変化が見られることがある。

※3 前頭葉の萎縮と酒量の関係
前頭葉はアルコールの影響を受けやすく、日常的かつ大量の飲酒は脳の慢性的炎症や萎縮をまねくことが知られている。ある研究では、1日あたり缶ビール(350㎖)2本分を超えるアルコール量を摂取することで、将来の認知症リスクが高まることが指摘されている。

お悩み回答者 山田悠史さん

米国老年医学専門医・同内科専門医・医学博士。マウントサイナイ医科大学(米ニューヨーク)老年医学・緩和医療科アシスタントプロフェッサー。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。2015 年に渡米。現在は高齢者医療を専門に診察や研究に従事している。最新刊は『認知症になる人 ならない人』(講談社)。

(『オレンジページ』2025年9月17日号より)

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取材・文/太田順子 イラスト/松元まり子