お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
【泣いてスッキリ】声を上げて泣くほど心が揺さぶられる涙本5選。プロの書店員お薦め

今月のお客様のご依頼は……
最近疲れぎみなので、涙を流してスッキリしたい。声を上げて泣くほど心揺さぶられる本を教えて!
今回の選書担当

書店員芸人 カモシダせぶんさん
芸人活動と並行し、2つの書店に勤める現役書店員。9 月19日には初小説『探偵はパシられる』(PHP研究所)発売予定。
公式X:@kamo_books

「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
書店勤務のかたわら、店舗も商品もない「エア本屋」・いか文庫を発足。リアル書店での選書やイベントを通じ、本との出会いを提供している。
書店員芸人 カモシダせぶんさん
おすすめ2選
悲しさではなくやさしさに涙する

カフネ/
著:阿部暁子 講談社 1870円
今年の「本屋大賞」受賞作。溺愛していた弟を突然亡くした主人公の薫子は、ひょんなことから、弟の元恋人・せつなが所属する家事代行サービス「カフネ」でともに活動することに。メンタルが弱ると食事と部屋の汚さに表れるものですが、そんな限界なときでも、自分でやれるほんの少しのことを思い出せたり、人に頼ってもいいと気づかせてくれるお話です。ごはんの描写もよくて、豆乳とコンソメのあったかいそうめん、甘いみそで卵を煮た「卵味噌」など、食べたことないけど読・・・・・むからにおいしそうな料理も出てきます。悲しい場面も正直ありますが、登場人物たちのやさしさのほうが何倍も泣けます。ぜひ「やさしさ号泣」してほしい。涙もよだれも出る素敵な一冊です。
弟の遺志に従い、彼の元恋人・せつなに会った薫子。その無愛想な態度に憤るが、疲労で倒れた薫子にせつながふるまう、温かな料理に心身がほぐれていき――。
15歳の少年少女にあのころの自分を重ねる

くちびるに歌を/
著:中田永一 小学館文庫 770円
舞台は長崎県五島列島の中学校。合唱部の少年少女と、その合唱部に東京から赴任してきた顧問の先生が主人公です。物語の軸になっている曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」は、アンジェラ・アキさんの実在の名曲。先生がこの曲の理解度を高めるために、部員に15 年後の自分あてに手紙を書かせるシーンがありますが、じつはこの物語自体、本当にアンジェラ・アキさんと五島列島の中学生がこうした交流をした際のエピソードが着想の一つになっているそうです。後半さまざまな人間の事情が明るみに出て、胸が張り裂けそうになりますが、最後にはきれいな涙があふれて読後スッキリ。中学生という多感な時期を思い出し、「よく頑張ってたね」と自分の昔と今を肯定できる、そんな一冊です。
五島列島の中学合唱部を指導する柏木。コンクールの課題曲にちなみ、15 年後の自分に手紙を書く宿題を課すが、そこにつづられたのは部員の等身大の秘密だった。
「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
おすすめ3選
やなせたかしが描く「希望」の物語

やさしいライオン/
作・絵:やなせ たかし フレーベル館 1595円
アンパンマンの生みの親、やなせたかしさんの絵本の代表作である本書は、みなしごのライオンと母親代わりの犬の、悲しくも温かい物語。初めて読んだときは衝撃のあまり涙が出たのですが、二度三度と読むうちに、やなせさんが繰り返し言葉にしてきたという「絶望の隣は希望」につながるお話だと気づきました。離れ離れになる2 匹のように、人生には望まない出来事も起きます。もうダメだと思うことも何度も味わいます。でも希望が寄り添ってくれていると思えば、乗り越えられるはず。この2 匹も、実の親子ではなくても遠く離れていても、お互いを希望として思いつづけます。その姿に、自分のまわりにいる愛する人たちを思い浮かべては、温かい涙が止まらなくなります。
みなしごライオンのブルブルは、お母さん代わりの犬のムクムクに育てられ、やさしく、立派なライオンに成長していく。そんなある日、別れが訪れて――。
どう生きたい?「生」に思いをめぐらせる

美しい距離/
著:山崎ナオコーラ 文春文庫 737円
読むといつも泣いてしまうのですが、単に「泣ける本」というのは違うなと思います。末期がんの妻と語り手である夫とのやり取りには当然悲しみがにじんでいるし、別れを想像すると苦しい。ただ印象的なのは、妻の仕事相手が見舞いに来る場面で、弱っているはずの妻が明るく元気なこと。家族よりも大事な人たちではない、向こうも、家族ほどにはこちらを大事に思っていない。でも、関係をつくりたい。妻のそんな言葉から、彼女が妻や娘としてだけでなく、一個人として社会で生きているのだと思い知らされ、「じゃあ私は? どう生きたい?」と思いが駆けめぐる。だから涙が出るのかもしれません。死だけでなく、生きることについて考えるきっかけをくれる物語です。
サンドウィッチ屋を営む妻が、ある日診断された末期がん。医者が用意した残りの人生ではなく、妻自身の人生を全うしてほしい。そう願う夫と妻の、最後の日々。
弱音を吐く自分ごと肯定していいんです

ヨイヨワネ うつぶせ編/
著:ヨシタケ シンスケ ちくま文庫 924円
絵本作家・ヨシタケシンスケさんの弱音+絵が詰め込まれたイラスト集。これは絶対「泣ける本」ではなく「笑える本」で、私も本屋さんで思わず笑っちゃうほど楽しかったので買ったのですが、疲れているときに読んだら、なんと泣いてしまったんです。落ち込む自分を〈弱音〉で全方位から肯定してくれたから。「身体のしんどさと気持ちのしんどさの見分けがつかない」「ネガティブな人間だけが開発できる有益なものは、あると思う。」「日々、『できなさ』にむきあうつらさ。そんなもの、できなくたっていいはずなのに」……そうだよね、そう思うよね、そう思っちゃってもいいよね、と涙を流したら、明日からまた頑張れる気がします(目は腫れちゃうから冷やしてくださいね)。
弱音を吐くことで気持ちを健全に保てるとして、他人の弱音が次々に出てくる本は何かに貢献できるのか? ヨシタケシンスケの弱音が詰まった実験的イラスト集。
⃝商品の価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。
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イラスト/河原奈苗

















