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けえけえくうくう くどう れいん

「けえけえ(食べな食べな)」「くうくう(食べる食べる)」盛岡在住の作家・くどうれいんさんが、おいしいもの好きなみなさんにお届けする、食エッセイです。

【くどうれいん書き下ろし食エッセイ連載】vol.11ロックアイスのよろこび

 ロックアイスには格別のよろこびがある。美しく透き通っていて、溶けるのも冷凍庫の氷より遅い。グラスと擦れたときの音も凜としている。わたしは学生時代、ロックアイスを買うことを夏の贅沢としていた。

 氷にお金を払うなんてお金の無駄遣いだ。そう思っていた大学四年の暑くてたまらない夏、コンビニやカフェで冷たいドリンクを買って飲みまくっていては破産すると気付き、わたしはいわゆるおうちカフェを充実させようと試みた。牛乳とコーヒーが二層に分かれた綺麗なカフェオレを作ってみようとすると、気泡が入った冷凍庫の氷はグラスの上部にびっちりと浮いてきてしまいなんとも見た目が決まらない。クリームソーダを作ってみようとしても、バニラアイスがすぐに沈んで炭酸が泡立ってしまう。もしかすると、しっかりした氷が敷き詰められていることで初めて完成するドリンクがあるのかもしれない。それで思い切ってロックアイスを購入した。

 氷を買おうとするまで気にも留めていなかったが、スーパーやコンビニには必ずロックアイスの売り場があり、ロックアイスのためだけの冷凍庫が置かれていることもある。四百グラムで百五十円ほど、一キロの大袋になると三百円しないくらい。値段を見ると高いと思ったが、持ち上げてみるとこんなに重いのならば安いような気もして、えいやと大きなほうを買う。

 帰宅して早速炭酸水を入れてみると、これが、あまりの透明度で氷を入れているとわからないほどだった。グラスごと宝石になってしまったように美しい。七十円の炭酸水なのに、数度しか行ったことのないバーのドリンクのようでどきどきした。飲み干した後のすこし小さくなった氷がもったいなくて口に含むと、とびきりなめらかに舌を転がって驚く。歯を立ててみるとしっかりと硬い。わたしは口に氷を入れたまま、残りの氷を取り出して手のひらにのせてしばらく眺めた。水晶のようできれい。渓流のせせらぎをそのまま固形物にしたように輝いていて、あまりにも詩的だと思った。

 それからは、夏になると二、三度、大袋のロックアイスを購入している。家でも球体や真四角の大きな氷を作ることが出来る製氷器を買って何度か試してみたけれど、家の水道水と冷凍庫では売り物の氷とおなじくらいの純度の氷はどうしても再現できなかった。

 自分が見るだけ、飲むだけの物なら製氷器の氷でいいのだけれど、気分を上げたいときは一人でもロックアイスを使ってアイスティーやカフェオレを作る。おいしい氷は溶けてもおいしい水になるから、しばらく仕事をしていて薄まり切ってしまっても野暮ったくない味がしてうれしい。ましてや夏の暑い日に来客があれば(ロックアイスを買うチャンス!)と思う。誰かの家に遊びに行くとき、ロックアイスを買っていくのも結構喜ばれる。わざわざ買わないけれど、もらえるとありがたい。
 かろん、とグラスの底を鳴らす氷の音。耳から涼しい。透明な氷でお茶を飲むと、その清らかさを借りて集中力が上がる。透き通れあたま。そしてこころの純度を上げるのだ。わたしはどんなパワーストーンより、ロックアイスのことを信じている。

著者プロフィール

くどうれいん
作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に『氷柱の声』(講談社)、『桃を煮るひと』(ミシマ社)など。エッセイ集『湯気を食べる』(小社)は、第12 回料理レシピ本大賞【料理部門】「入賞」を受賞。

文/くどう れいん イラスト/秋山 花 デザイン/広瀬 匡(FEZ)

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