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料理の楽しさも感じられるし、お手軽。「ちょうどいい料理」にSNSで大反響! 話題の料理家・長谷川あかりさんインタビュー

へとへとに疲れ果て、もう料理なんかしたくない……。そんな日でも作ってみたくなるレシピ投稿がSNSで大反響を呼び、一躍注目の存在となったのが長谷川あかりさんです。

パパッと手軽に作れるのに、気がきいていて見た目もすてき。何より、疲れた体にじんわりと染みるおいしさには、抜群の癒やし効果が。そんな料理の数々に助けられた人も多いのでは?

このたび、オレンジページnetで新連載「長谷川あかりの日々の料理  これでいいのだ」がスタートするにあたり、長谷川さんに特別インタビューを敢行。日々のごはんのこと、食べることの原点、レシピにこめた思い……SNS投稿の裏側にある、長谷川さんの素顔に迫ります。


一人暮らしの学生から主婦まで、幅広い世代にファンを持つ長谷川さん

「私ってすごいかも!」。料理のおかげで、そう自分を肯定できた

――長谷川さんといえば、子役タレントとして活躍後に料理の世界へ転身した、ちょっと異色の経歴の持ち主。ぜひ、ご自身の食の原点から教えてください。

私の父が料理好きだったんです。ステーキをフランベして焼いてくれたり、ホットプレートでちょっとイベント的な料理を作ってくれたり。初めて見るような調味料を買い込んでは、海外の料理を自分で調べて作るようなチャレンジャーなタイプで。

チーズタッカルビもカオマンガイも、はじめて食べたのは実家だったんですよ。炊飯器のふたを開けたら、ドンと鶏肉がのってるみたいな。平日は母の家庭料理を、休日は父の珍しい料理を食べるのが日常でした。

どちらも本当においしかったですし、料理のバリエーションが豊富な家で育ったのはよかったと思います。

――フランベですか⁉ レストランみたい。お父さまの探求心がすごいです。

「なんじゃこりゃ」っていう料理もありました(笑)。でも父はレシピを見ながら、材料もきちんとスケールで量って作っていて。

子どもながらに、「レシピどおりに作ると、こんなふうに食べたことのない味に出会えるんだ。レシピってすごい!」と驚いたのを覚えています。

――当時、ご自身で料理をすることはありましたか?

食べるだけで、作ってみたいという気はなかったです。子役で出ていたテレビ番組で、「だれがおにぎりをいちばんおいしそうににぎれるか」みたいな企画があったんですけど、全然うまくできないから〈料理ができないキャラ〉になっちゃって。むしろ、そうやってちょっと笑われるくらいがおいしいと思っていました(笑)。

作るようになったのは高校生になってから。子役を卒業するタイミングでぱっと仕事の量が減ったら、急に打ち込むものがなくなって、ストレスで食欲が落ちてしまったんです。そんなとき、今の自分でも食べられるものって何だろう? とレシピ本を見はじめたのが最初でした。

根がミーハーで(笑)、しかもやるならちゃんとやりたい! というタイプなので、かなりむずかしいレシピを作っていたんですよ。でも手順さえ踏んで書いてあるとおりにやれば、答えにたどり着く感覚がすごく楽しくなってきて。


子ども時代は、両親が作るおいしいものに囲まれて育ったそう。うらやましい!

――子どものころにお父さまを見て感じていたことを、実体験されたのですね。

そうなんです。それからだんだんごはんを食べられるようになりました。

料理が楽しくなったら、作りたくて作りたくてしょうがないから、自分の胃袋だけじゃ足りなくなって(笑)。当時は芸能活動をしている同級生が多かったので、上京して一人暮らしでおなかを空かせている子や、ギャラが少なくて節約している子に、「ここにあいてる胃袋いた!」とおにぎりを配って喜ばれたりしていました。

凝ったレシピの料理ができ上がることも、人に喜んでもらえることも、「私ってすごいかも!」という自己肯定感につながって。いい意味での勘違いかもしれないけど、そういう気持ちにすごく救われたんですよ。

――長谷川さんのレシピで料理を作ると、「疲れているのにこんなにおいしいものが作れるなんて、私ってすごい!」と思うときがあります。すごいのは、本当はレシピなんですけど(笑)。

わあ、うれしいです! 先日Twitterで、コスパならぬ〈手間パ〉と書いてくださったかたがいたのですが、「この人を信じて書いているとおりやってみたら、おいしいものができた! すごい!」と思ってもらえたら。

高校時代に私が作っていたのは、時間も手間もものすごくかかるレシピだったんですが、今はもう少しインスタントに気楽な感じで、その感覚を味わえるレシピを発信したいんです。

私は学校で栄養学を学びましたが、調理の専門家ではないので、調理方法や技術を教えたいというよりは、みんなに「私ってすごい!」と自分に思ってほしくてやっているところがありますね。

何かを生み出す喜びって、普通はなかなか感じることはできないと思うんです。たとえば、いきなり絵画を描けといわれてもむずかしいですよね。でも料理だったら身近だし、挑戦しやすい。料理は「生み出す喜び」を気軽に体験できるものだと思うんです。

–{激務の学生時代から、SNSで今のレシピが発信されるまで}–


ごく普通の家事である料理という行為から、喜びを感じてほしいと長谷川さん

――長谷川さんはご自身の発信の中で、あまり〈時短〉という言葉を使わないのも印象的です。

時短料理自体は、私も大好きなんですよ。でもちょっと〈作った感〉がある料理のほうが、生み出す楽しさを感じられると思うんです。

そもそも料理は楽しいものだと思ってやっているので、楽しくない前提でレシピを作り始めるのが少し悲しい気がして。

でも私も大学に入学した当時は忙しくて、時短料理や買ってきた総菜ばかり食べていたときもありました。

――22歳で大学に進学されて、本格的に栄養学を学ばれるようになったのですよね。進学のきっかけになったことは何でしょうか。

婚約を機に芸能界引退を決めたのですが、それまで将来の夢は何かなんて考えたこともなかったんです。本来なら高校とか大学とか、しかるべきときに進路について考えるタイミングがあるはずなのに、ずっと芸能活動に一直線で、それをすっ飛ばしていたので。

あらためて将来何がしたいか考えたとき、大学に行ってみたい、せっかく行くなら好きな食のことを学ぼうと思いました。

これがもう、入ってみたら大変で。家事をしながら大学に通っていたのですが、カリキュラムがパンパンなんですよ。朝9時から夕方6時まで授業が詰まっていて、その後8時まで課題をやらないと間に合わないくらい。

――ええ! 家のことをこなしながらそれをやるという……ちょっと想像がつきません。

これ、夫にだまされたんですよ(笑)! 「大学なんて、テスト直前にノートを暗記すれば単位取れるよ、楽勝だよ」って言ってたのに。聞いてた話と全然違うって抗議したら、「そんな世界があるなんて知らなかった」ってドン引きしてました(笑)。

授業では覚えなくてはいけないことも多かったのですが、それ自体はあまり苦ではなかったんです。でも家事との両立が物理的にむずかしくて。帰宅してから作るとなると、ことこと煮込むような時間のかかる料理なんてできないし、これは無理だ! ってなっちゃって。それまでは趣味で料理を楽しんでいただけだったんだと実感しました。

それで、最初は「時短料理」と「総菜」に頼っていたんです。


2年間短大に通った後、4年制大学に編入。勉強に家事に、ハードだった学生時代

――その状況では、なかなか料理を楽しむことも難しそうです。

でも時短料理は簡単でありがたい反面、同じ20分かけて作るなら、もうちょっと〈やってる感〉欲しいんだよなぁとか思いはじめて、ストレスがたまっちゃって。

 ――がっつり料理するのはむずかしいけれど、ほどよく作る楽しさも欲しい、と。

はい。私がそれまで好きだったすごく専門的で凝った料理と、忙しいとき簡単にすませたくて作る時短料理、その中間のちょうどいい感じのレシピがないなと思ったんです。

私としては、時短料理でショートカットされている部分の楽しい作業を、もうちょっと味わいたいんですよ。それで「よし、そういうレシピがないなら、自分で作ってみるか」って。

言語化しにくいんですけど、私が思う〈ちょうどいい〉レシピを発信したいんです。

――長谷川さんが発信するレシピは、でき上がった料理の写真もすてきですよね。おしゃれなのに手が届く感じがして、「これなら私でもできそう」と思わせてくれます。

料理の写真もレシピと同じで、やっぱり〈ちょうどいい〉感じにしたいんです。

じつは、レシピの発信を始めた当初は、もっとおしゃれに作り込んだ写真をあげていたんですよ。でもだんだん、その写真を見て、「余裕があってすてきな暮らしをしている人の話だから、私には関係ない」と思うかたもいるのではと思うようになって。

私だって毎回すてきに作り込んでいるわけじゃないし、実際に料理を「作りたい」と思ってもらわないと意味がないので。

今はうちの食卓で、食べる直前にパパッと撮った写真を載せています。

――あれは長谷川家の日常の食卓の写真なんですね!

そうです、そうです。

カメラも最初は一眼を使っていたけど、今はiPhoneなんですよ(笑)。


〈PROFILE〉
長谷川あかり
1996年埼玉県生まれ。料理家、管理栄養士。10代で芸能界入りし、NHK『天才てれびくんMAX』などで子役タレントとして活躍。20歳で引退後、料理の道を志し、大学で栄養学を学ぶ。卒業後の2022年4月からSNSで始めたレシピ投稿が瞬く間に注目を集め、大きな話題に。「なんでもない日を幸せにする、シンプルで豊かなごはん」をテーマに、食べ疲れないのにちょっぴりおしゃれで自己肯定感の上がるレシピを発信中。同年11月、初のレシピ本となる『クタクタな心と体をおいしく満たす  いたわりごはん』(KADOKAWA)を上梓。

『長谷川あかりの日々の料理これでいいのだ』毎月27日更新・過去の連載はこちら>>>

撮影/キッチンミノル 取材・文/唐澤理恵