
料理好き、そして玉子好きな小説家の井上荒野さんが、 気楽に作れておいしい「目玉焼き」のせ料理を紹介する連載エッセイ。今回のレシピは、パクチー好きにはたまらないエスニック風焼きそば。まわりをカリッと香ばしく揚げ焼きにした目玉焼きをのせていただきます。
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パクチー焼きそばに目玉焼き
パクチーは好ききらいが分かれる食材である。
それも「どんぶりいっぱい食べたいくらい好き」か、でなければ「見るものもイヤ」かというふうに、二極に分かれる傾向がある(自分調べ)。そういえば私の友人に「前はきらいだったけど、最近どうにか食べられるようになってきました」という人がいるのだが、さるタイ料理屋でパクチーぎっしりの生春巻きをパクッと食べて「ウェッホ」とむせたところを私は目撃したことがある。
つくづく、不思議なことだと思う。つまり誰にでも「パクチーを生まれてはじめて口にした瞬間」があったはずで、その瞬間に、同じ日本人で同じ世代であっても、パクチーのあの香りにうっとりする者と、ウェッホとなる者に分かれるわけだから。遺伝子的な問題だろうか。とすれば、パクチー好きの遺伝子は食に関しての許容範囲が海のように広く、かつ大変豊かな遺伝子であり、だからたとえば腐った大豆を「納豆」というすばらしい食品としてこの世に流通させたのは、この遺伝子の恩恵なのではあるまいか……と私(パクチー好き)などは考えるのだが、どうだろうか。
というわけで私は、今日の昼は夫(パクチーぎらい)が仕事でいない、という予定を知るや否や、いそいそとパクチー料理を作る女である。今日は焼きそば。パクチーに合わせてエスニックな味つけで。
もちろん目玉焼きものせます。目玉焼きを料理に追加すると、「豪華になる」「具がひとつ増える」という利点のほか、ときに「ジャンクな感じになる」という効能もあるわけだが、焼きそばにのせた場合、まさにこの三つすべてが具現化されると思う。
一緒に寝てます
私の誕生日に
夫が作ってくれた
肉料理飲み会にて。
すごい姿で
出てきたワイン。
ちなみに後ろにいるのは角田光代さんです。
レシピ
パクチー焼きそばに目玉焼き

目玉焼きを揚げ気味に作っておく。なんと今回は、割ってみたら黄身が2つ!
- 焼きそばは袋入りの中華蒸し麺を使用。フライパンに油をひかずに、袋から出した麺をほぐさずにのせて、中火でじっくり両面を焼く。焼いているうちにほぐれてくる。
目玉焼きを作ったフライパンをざっと拭ってそこで焼いてもOKです。 - 麺を焼いている間に、隣のコンロにべつのフライパンをのせて、具を炒める。今回は、豚こま切れ肉、えび、エリンギ、ねぎ、パプリカ。
ナンプラーとオイスターソース、砂糖少々で味つけ。(麺に付属しているソースを使う場合も、半量くらいをしょうゆやナンプラーに替えるのが私は好きです) - ほぐれた麺を炒めた具に合わせる。火を止めてからパクチーのざく切りをどさっと混ぜる。
- 皿に焼きそばを盛り、目玉焼きをのせ、好みで粗びき黒こしょうをふる。
※作り終わってからの反省点……どうせなら具は潔くパクチーだけにしたほうが2つの目玉が引き立ったかもしれません。

撮影/三原久明
- 井上荒野(いのうえ・あれの)
- 1961年生まれ。89年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞、2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、16年『赤へ』」で柴田錬三郎賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞受賞。著書に『夜をぶっとばせ』『ママがやった』『綴られる愛人』『あちらにいる鬼』など多数。新刊『あたしたち、海へ』(新潮社)発売中。
現在は東京と長野を拠点に生活。インスタグラムに手作り料理や愛猫との暮らしの写真などを投稿している。
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文・写真・料理/井上荒野 構成/掛川ゆり