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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】ハロオタ歓喜!『おついたちのお赤飯』を小林カツ代の愛弟子に習う。

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第38回  【柚木麻子連載】ハロオタ歓喜!『おついたちのお赤飯』を小林カツ代の愛弟子に習う。

詳しくは『オレンジページ』本誌を読んでいただきたいが、恒例となった本田明子さんから直々に授けていただく、小林カツ代レシピ講座3回目。今回は私たっての希望で、お赤飯である。(点心料理である大根パイもならったが、それはまた後日くわしく解説する)
なぜ、お赤飯かといえば、本田明子さんのInstagramに「おついたち」として、登場したカツ代さんレシピのお赤飯、餅米一粒一粒がピカピカ光っていて、じつに美しく、それをどうしても作りたく(食べたく)なったのと、私がハロヲタだからである。
ハロプロのサウンドプロデューサーで生みの親でもあるつんく♂さんも、月初めになるとお赤飯を「おついたち」としてSNSにあげていたことがあるのだ!
本田さんいわく、カツ代師匠の生まれは大阪の商家で、月初めの1日(ついたち)に、ひと月商売がうまくいくようにと縁起物の赤飯を炊く風習があったそう。
その話にインスパイアされて、本田さんが作りつづけているのだそうな。
そういえば、以前つんくさんと対談した時に、確か「実家は東大阪で『乾物屋』をやっていた」とおっしゃっていたから、彼もまた実家の習慣である可能性は高い。
カツ代さんと大好きなハロプロへの共通項に胸高鳴る思い! 確かに才能の出し惜しみなさと確かな実力からくる惜しみなきサービス精神には、似たものを感じる。
さて、いつものように風通しの良いキッチンを訪れると、本田さんはすでに水につけてある餅米を見せてくれた。ささげは一度強火でゆでこぼした後、しっかりと色が出るまで煮る。この煮汁をつかって、餅米を2回に分けて蒸し器で蒸し、しっかり赤く「染めていく」のだそう。
ニコニコ頷きつつ、内心「えっ……今回はいつになく、わりと面倒臭い?」と動揺した。カツ代さんのことだから、ささげと餅米を炊飯器に入れたらボタン一つで炊き上げるような簡単工程を期待していたのである。こちらの気持ちを見透かしたのか、本田さんは、「蒸し器で蒸すお赤飯はべちゃっとしなくて、お米が立ち上がってとても美味しい。慣れれば簡単」と教えてくれた。そうなの……??
ささげの煮汁をまわしかけた餅米を、中心をあけたドーナツ状に広げて蒸す1回目の蒸し工程の間、本田さんはこんな話をしてくれた。
今でも高いが、これから餅米はどんどん高騰し、おそらく町にある和菓子屋さん、ことにお赤飯を和菓子と一緒にならべるような実直なタイプの和菓子屋さんの経営は厳しくなるのではないか、とのこと。
まさに、お赤飯を店頭に並べるタイプの商店街の和菓子屋さんが大好きな私は、悲鳴をあげた。米の高騰化がそのまま餅米にも影響しているようだ。なにか私に和菓子を買い支える以外でできることは……!
あっ、そうだ、餅米をたくさん買い、赤飯を炊いて、まわりに食べさせよう。面倒臭いなどといっている場合ではないのだ。
1回目の蒸し時間が終わり、蒸し器の蓋をあけるとうっすら赤くなった餅米。これに残りの煮汁とささげを混ぜて、さらに蒸す。最初はシャバシャバしていたが、餅米がすごい勢いで煮汁を吸っていくので驚いた。喉がかわいた児童が麦茶をがぶ飲みする時並みの吸引力。
再び蒸し器に戻し、しばらくすると餅とささげの甘いにおいが漂う。町の和菓子屋さんのにおいだ! 本田さんは、かつてカツ代さんと虎屋菓寮に出かけた時、なんでここ「とらや」のお赤飯はこんなに綺麗な赤なのか、そして蒸したてのピカピカをそこまで待たせず出てくるのか、不思議に思い、2人であれこれと予想されたのだという。(ちなみにこのレッスン後、1回作ってから、虎屋菓寮 赤坂店に行ってお赤飯を頼んでみた。確かにその赤さと明らかに温め直しではない、炊きたての風味に感動した)
さて、蒸し器の蓋をあけると、ピンク色のお赤飯が一粒一粒、くっきりした輪郭を保ちながら、輝いている。はやる気持ちを抑えながら、お碗を受け取るなり、即箸を取る。まるで光が体の中に入ってきたようなピカピカの甘みとつややかな食感に、ややショックを受けてしまう。
お赤飯というのはベチャッとしたものでも、コンビニのギュッと詰まったおにぎりでも、わりとみんな美味しい。しかし、水をしっかり吸わせ、蒸し器で作ったものは、こんなにみずみずしく、こんなにふくよかな味わいなのか。
「まずは3回作れば、うまく作れるようになる」と、本田さんは最後にそう言ってくれた。お赤飯にあわせたカツ代流鉄板メニュー、きじょうゆでいただく天ぷら、冷たい高野豆腐といんげんのだし煮、濃厚ごま和えも並べていただき、サクサクともっちり、アツアツとひんやり、香ばしさと甘さ、相反する味わいにもう箸が止まらない。
レッスンを終えた後、私は必ず3回作ると決め、即実践に移した。
1回目はもちよりパーティーで、カツ代さんのカスタードクリームを使ったタルト、大根パイとともに。
2回目は朝井リョウさんとでか美ちゃんとのハロプロ鼎談の時に、カツ代さんのミートソースとコロッケをアレンジしたチーズミートソースコロッケと一緒に。
3回目はエトセトラブックスさんで、とうとう、天ぷら、ごま和え、高野豆腐も一緒に再現した。
本田さんのおっしゃった通り、一回作るごとに緊張しなくなり、面倒さが薄れ、もうレシピを見ずとも、手が勝手に動く。
なによりも、お赤飯はいつ作っても世代問わず喜ばれ、あっという間に消えてしまう。餅米をどんどん買い、消費しつつ、私は新たに装備したこのスキルをめいっぱい活用して、お赤飯ファンをどんどん増やそうと思っている。
次回は7/25(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子、山田冨起子

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