「調理室池田」の、おうちで本格『ブイヤベース』のレシピ

連載3回目となる今回は家で作る「ブイヤベース」。初めての「家のテーブル」の話です。
たくさんの人に食べてもらえたらどんなにいいだろう。切り身ではなく丸物の魚の姿は何よりおいしそうだし、料理をしようという気持ちをかきたてる。ブイヤベースは市場に通うようになっていちばんに作りたかった料理かもしれません。
日本にもあら汁という料理がありますが、始末のいい料理というか、すべてをきれいに食べ尽くすということは、ぜいたくとは違った満たされるものがあります。大がかりな料理に見えますが、もとはマルセイユの漁師の料理。むずかしいことはそれほどありません。

今回のレシピのヒント
あらでだしをとり、最後に身と合わせる鍋料理
魚はぜひ一尾まるごと買って

大きな丸物の魚を買ってもなかなか食べきれないと思うでしょうが、半身は刺し身で、残りは揚げて……とやりくりを考えるのも楽しいものです。そして、なんといってもあらでだしがとれるというおまけがあります。
だしはどんな料理にも通ずるベースとなるもの。ここではみなさんにだしをとることの楽しさを知ってほしいという思いもあります。心ひかれる白身の魚に出会ったら、ぜひまるのままで買ってきて試してください。
魚をおろし、身とあらに分ける

魚はうろこを引き、内臓を除いて 三 枚におろします。身は具として、中骨や頭などのあらの部分はスープに使いますので、魚屋さんでおろしてもらう場合は骨と頭を必ずもらうようにしてください。いっしょに煮る香味野菜は大きく切り、ハーブはたこ糸で縛っておくと取り出すときに楽です。
鍋は2つ。だし用と仕上げ用
少ない魚でもしっかりと味わい深いだしをとり、身はふわっとおいしく食べるために、だし用の鍋と仕上げの鍋を別に用意します。

あらは汚れや臭みを取るために一度湯通しします。だしの材料が準備できたら、大きめの鍋に入れて 1〜2 時間煮込み、しっかり味を出します。

仕上げ用の鍋では香味野菜を炒めて味のベースを作ります。バターではなくイタリアやスペイン料理のようにオリーブオイルをたっぷり使うのもマルセイユらしさかもしれません。最後にこの2つの鍋を合わせ、具を加えかるく煮たら完成です。
より本格的に

料理をもうワンランク上に仕上げるために「ルイユ」 を作りましょう。にんにくをきかせたマヨネーズのようなもので、パプリカやサフランを加えるのが特徴です。ゆでた野菜やパンにつけてもおいしいので、店ではルイユだけお代わりするからもいらっしゃいます。

それからもう一つ紹介したいのは、風味づけのお酒「パスティス」です。白ワインでも代用できますが、アニスやハーブを使ったこのお酒を使うといちだんと香りよく仕上がります。
本場マルセイユでは「ブイヤベース憲章」なるものがあって、現地でとれる指定された魚介を4種類以上使うのがお決まりのようですが、今回のように私は白身の魚を2種と貝、甲殻類を組み合わせています。
あらが少ないといいだしが出ないので、たりないときには冷凍しておいたあらを使っていますが、スーパーでは鯛のあらだけでも売っていますね。もっと簡単に作るなら、具は切り身はもちろん、「寄せ鍋セット」や「パエリアセット」といった数種の魚介の盛り合わせなども活用してもいいでしょう。ぜひ気軽な気持ちで、冬の鍋料理に加えていただければと思います。
次のページでは詳しい作り方を紹介します。
–{ブイヤベースの作り方}–
『ブイヤベース』のレシピ

材料(4~5人分)
好みの魚介(今回は下記のとおり)
たち魚1尾
めじな1尾
きんき2尾
えび(有頭のもの)5尾
ムール貝5個
〈だし用〉
玉ねぎ1/2個
にんじん1/2本
セロリ1/2本
ねぎの青い部分1本分
あればタイム6枝
ローリエ3枚
〈具用〉
玉ねぎ(大)1個
ねぎ1本
セロリの茎1本分
イタリアンパセリ1パック(約15g)
にんにく2かけ
じゃがいも(メイクイーン)3個
白ワイン(あればパスティス)大さじ1
カットトマト缶詰(400g入り)1/3缶
ルイユ(下記参照)適宜
好みのパン適宜
オリーブオイル 塩 こしょう
作り方
(1) だしの下ごしらえをする
玉ねぎは縦半分に切る。にんじんは幅1㎝の斜め切りにする。セロリは茎と葉に分ける。セロリの葉、ねぎの青い部分、あればタイムはたこ糸で縛る。めじなときんきはうろこと内臓を取り除いて三枚におろす。たち魚は頭を落としたら内臓を取り除き、背ぶれを切り落として、長さ7~8㎝のぶつ切りにする。身は冷蔵庫に入れ、あら(頭と中骨)はだし用にとっておく。
(2)だしをとる
口径26㎝の鍋に湯を沸かす。あらを熱湯にくぐらせ、表面の色が白く変わったらざるに上げて水けをきる。鍋を洗い、あらとだし用の材料を鍋に入れ、水1.25lを加えて中火にかける。湯が沸いたら弱めの中火にし、ときどきアクを取りながら1~2時間煮る(鍋が小さい場合はひたひたの水で煮て。最終的に1l必要なので、ときどき水をたしながら煮る)。
(3)香味野菜を切り、炒める
玉ねぎは縦半分に切ってから横に薄切りにする。ねぎは斜め薄切りにする。セロリの茎は筋を取り、横に薄切りにする。イタリアンパセリはみじん切りにする。にんにくはかるくつぶす(香味野菜)。じゃがいもは皮をむき、大きければ半分に切る。
仕上げ用の別の鍋にオリーブオイル大さじ3を中火で熱し、香味野菜、塩小さじ1/2を入れて炒める。しんなりとしてかさが半分くらいになったら、白ワイン(あればパスティス)を加えて強火にし、アルコールをとばす。水50mlを加え、ふたをして弱火にし、15分ほど蒸し煮する。
(4)だしを加える
にんにくがへらでつぶせる柔らかさになったら火を止める。(3)の鍋にざるをのせ、(2)のだしを注ぐ。カットトマトを加えて混ぜ、じゃがいもを加えて中火にかける。
(5)魚とえび、ムール貝の下ごしらえをする
(1)の魚の身の両面に塩を多めにまぶし、オリーブオイル適宜をなじませておく。えびは殻つきのまま竹串で背わたを取り除く。ムール貝は金だわしで洗い、足糸を取る。
ムール貝は冷凍ではなく生のものがおすすめ。足糸(そくし)と呼ばれる糸のようなものを骨抜きなどでひっぱって取る。
(6)魚、えび、ムール貝を煮る
じゃがいもがやや柔らかくなったら魚の身、えび、ムール貝を加え、弱めの中火で煮る。じゃがいもに火が通り、貝の口が開いたら味をみて、塩、こしょう各少々でととのえる。器に盛り、ルイユとパンを添える。
『ルイユ』の作り方

材料(作りやすい分量)
卵黄1個分
にんにくのすりおろし(大)1かけ分
フレンチマスタード小さじ1
塩小さじ1/4
砂糖小さじ1/2
オリーブオイル大さじ1
こしょう適宜
パプリカパウダー小さじ1/4
サラダ油1/2カップ
酢小さじ1/2
作り方
(1)大きめのボールに卵黄、にんにく、フレンチマスタード、塩、砂糖、オリーブオイルを入れ、泡立て器(あればミキサーやハンディブレンダーがおすすめ)で筋ができるくらいまでしっかり混ぜる。パプリカパウダーも加えてさっと混ぜる。
(2)サラダ油の1/2量を少しずつ加え、そのつどしっかり混ぜる。マヨネーズくらいの堅さになったら酢を加えて混ぜる。残りのサラダ油を数回に分けて加え、そのつどしっかり混ぜる。清潔な保存容器に入れ、冷蔵で3日ほど保存可能。
次回は2/2(金)更新。日替わりの肉メニューとして提供してる『コックオヴァン』を紹介します。
撮影よもやま話
撮影では先日、調理室池田ギャラリーの企画展にて皆さまにお披露目した南イタリア・プーリア州の陶器を中心にスタイリングしてみました。「今日はどんな気分で食事を楽しもうか」とあれこれ考える楽しい時間です。
この手の古陶はいわゆる生活に根ざした民藝ですから、欠けや直しが当たり前のようにあったりします。それは長い年月大切な道具として日常的に使われつづけられてきた、心づかいの表れでもあるのです。モノへのいたわりから家族で食卓を囲む幸せな情景が目に浮かびます。
そもそもブイヤベースはフランスの郷土料理なので、国こそ違いますがこのような飾らない料理には、おおらかで温かみのある、白錫釉の土っぽさを感じるシンプルな器がよく似合います。さぁ、お気に入りのリネンをテーブルに目いっぱい広げて初春の食卓を楽しみましょう。(池田講平)

2018年12月に川崎市にある中央卸売市場北部市場内に開店。アンティークショップ・アートギャラリーを兼ねた、市場には珍しいスタイルのカフェ。早朝から働く人がコーヒーを片手に手軽に食べられるようにと作った焼き菓子や、ツナサンド、フリットといった市場で仕入れる新鮮な魚介類を使ったランチが人気。
公式HP 公式インスタグラム
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟 45
営業日/月・火・木・金・土曜
営業時間/7:00~13:30
(ラストオーダーは13:00、土曜日のみ14:00)
ランチタイムは 11:45~ 休みは市場に準ずる(原則、水・日曜と祝日)
※一般のかたの市場への入場は8時から。来店の際は必ず上記HPかインスタグラムを確認してください。

料理・文/池田宏実 撮影・スタイリング/池田講平 編集/小林