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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】雪の日曜の総選挙。沈んだ気持ちと体をサバイブさせてくれた小林カツ代のおでん

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第34回  【柚木麻子連載】雪の日曜の総選挙。沈んだ気持ちと体をサバイブさせてくれた小林カツ代のおでん

この日曜日は選挙だというのに、高確率で雪が降るという。
軍拡に傾いている現政権にNOを伝える重要な局面だが、この天候では投票率が下がってしまう、と暗澹たる気持ちで週末を迎えた。
本連載で何度も触れているように、小林カツ代さんは平和主義者で、憲法9条死守を訴えてきた。大手企業のCMもテレビ番組もバンバン出る家庭料理のパイオニアでありながら、女性議員ともコーラス活動を通じて付き合い、政治的信条をはっきり打ち出していて、何故だか目立ったところでは批判を受けない、日本では珍しいタイプのスターだった。
カツ代さんを真似して、私もせっせと色々なところで立場を表明しつつ、しれっと「オレンジページ」さんみたいな、誰からも愛される媒体での連載を続けさせてもらっている。
今回の選挙では、大勢のテレビや映画の人気者たちがちゃんと意見を表明していて、明らかに数年前より政治をオープンに語る空気が醸成されてきたのが、とても良い面だったと思う。
そんな風にポジティブばかり語っておいてナンだが、降雪の予兆でうっすら頭も痛い上、私が事前投票で投じた一票ではどうにもならない流れも感じていて、土曜日の私は明日、明後日はどんな気持ちで過ごしているんだろうな、と街頭演説が反響する、駅前の灰色の空をぼうっと見上げていた。毎週通っているマンツーマンの英会話の先生はアフリカ系男性なのだが、移民排斥の風潮に恐怖を感じると言っていた。
とにかく、明日はママ友と一緒に子連れで外出する予定があるし、もしかすると帰りはみんな我が家にやって来るかもしれない。雪の中、走り回る子どもたちを追いかけるだけで、だいぶ体力は消耗されるだろう。選挙結果によっては、なんのやる気も起きない可能性もある。
こんな時は数日過ごせるよう、おでんとカレーを大量に作っておくに限る、と閃いた。英会話学校を終えた後、私はスーパーマーケットに寄って、いつものジャワカレー中辛のルーと、スマホで「カツ代レシピ」を検索して、提示してある分量の2倍の材料をカゴに放り込んでいった。前から作ってみたかった、具材を別々に下茹でする、手がかかる方の「おでん」に挑戦である。ちなみに、下茹でなしの簡単バージョンもあり、カツ代さんはだいたいどんな料理も2通り提示してくれるところが、改めてありがたいなあと思う。今回のように前向きとは言い難い状況の方が、難しいレシピにチャレンジしたくなるのが不思議なところだ。
関西出身のカツ代さんだけれど、ちゃんと私が一番好きなちくわぶを入れてくれるので、信頼度がさらに増した(神戸に住んでいた時、ちくわぶがどのスーパーにも置いていないので、慌てた経験がある)。ジャガイモと、イワシのツミレ、他には全体的に練り物多めなのが、カツ代さん流の様子。以前、カツ代さんの実家のそばにある行きつけの黒門市場の専門店で、ほの甘くほろほろ、出来立ての玉ねぎ入り薩摩揚げを食べた経験を書いたが、カツ代さんはどうやらおでんに限らず、練り物が大好きなようだ。
煮干しと昆布を浸して、火にかけ、沸騰する前に引き上げ鰹節を入れる。大根と練り物は別々に茹でる。普段の私は、生の大根と蛸と牛すじを中心にあく抜きなしで、同時に水から茹で、オイスターソース、醤油、砂糖で強めに味をつけてしまい、それはそれで美味しいのだが、カツ代さんのおでん出汁は澄んだ黄金色でとても上品。レシピに忠実に180分かけて作ったおでんは、見た目からして繊細な色合いだ。ちくわぶは強めの茶色に染めてこそ、というか蛸を一緒に煮ないと味が決まらないと思い込んでいたのだが、淡白な出汁にちゃんと油を抜いた数種類の練り物のコクのみが染み出し、それを受け止めた白いちくわぶはいつもと一味違う、滋味深さだ。何より、おでん出汁を吸い込んだほろほろのジャガイモってこんなに美味しいのかと目を見張る。
翌日は案の定雪が積もり、子ども達はハイテンションで、親たちはへとへとという予想通りの流れだったのだが、家におでんとカレーが待っていると思うと、子どもにぶつけられる硬い雪玉も余裕で打ち返せた。その夜から翌朝にかけて、予想していた通りの開票結果が報道された。
一瞬、今日は仕事しなくてもいいかな、と思いかけたが、おでんを温め直すと部屋中にいいにおいが広がり、三日目の味が染みたちくわぶとジャガイモ、燻製化した堅い卵に夢中になり、夜、またこれを食べるのが楽しみで、順調に原稿が書けた。火曜日の今朝は最後のおでんを平らげ、今夜は久しぶりに家族で焼肉に行く予定である。明日は祝日なので、今夜はちょっと夜更かしをして、みんなでマリオカートをするつもりだ。
カツ代さんの溌剌と第一線に立ち続けながら、言うべきことを伝えるエナジーが、澄んだおでん出汁に溶け込んでいたからかはわからないが、とにかく私はサバイブできた。
今、沈んだ気持ちで何も手につかない人も、クリエーターの政治的な思想に拒否反応を覚える人も、どっちにも読んでもらえるような文章をこれからも書いていきたいなと思うし、そのためにはおでんのような丁寧な下準備と多様な具材が大切だな、と気持ちを改めているところである。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「肌寒い日の、おすすめのあったかメニュー」

『下ごしらえなしおでん』のレシピ

材料(4人分)
大根……1/2本(800g)
こんにゃく……1枚(250g)
じゃが芋(メークイン)……4個(400g)
太ちくわ……2本
さつま揚げ……4枚
ゆで卵……4個
水……7カップ
煮干し……6~8尾
昆布……20cm

【A】
塩……小さじ1
砂糖……大さじ1
醤油……大さじ2
日本酒……大さじ2

溶き辛子……適量

作り方
(1)
大根は2~3cmの厚さの輪切りにする。
こんにゃくは半分に切り、それぞれ三角形に切って、厚みを半分に切る。
ちくわは斜め2つに切る。
昆布は水でザッと洗う。
check point! 三角に切ってから厚みを半分に
こんにゃくは三角形に切ってから、厚みを半分にすると切りやすい。全部で8枚になりますよ。
(2)大きい鍋の中を水でぬらし、昆布を敷く。
大根、こんにゃく、丸ごとじゃが芋を入れる。
(3)ちくわ、さつま揚げ、ゆで卵をのせて、煮干しを散らす。
(4)分量の水と【A】の調味料を加え、蓋をして中火にかける。フツフツしたら、ごく弱火にして45~60分煮込む。溶き辛子をつけて食べる。

POINT
鍋にどんどん入れてコトコト煮るだけ。じゃが芋は煮崩れしにくいメークインが作りやすい。男爵系のじゃが芋の場合は火が通った段階でいったん取り出しておくと、煮汁が濁りません。煮上がる少し前に戻し入れて温めましょう。

「だしの味がしみこんで、じんわり旨味が味わえます。」

『おでん』のレシピ

材料(2人分)
大根……10cm
むすび白滝又はこんにゃく……2~4個または1/2枚(100g)
ゆで卵……2個
焼き豆腐……1/2丁(150g)
じゃが芋……2個
むすび昆布……2~4個
茹でたすじ(あれば)……適量
もち巾着……2個

【練りもの】
ちくわぶ……1本
焼きちくわ……1本
さつま揚げ数種……適量
つみれ……2個
はんぺん……1枚
水……7カップ
昆布……15cm
煮干し……7~8尾
削り節……1つかみ

【A】
日本酒……1/4カップ
塩……小さじ1
砂糖……小さじ2
醤油……小さじ1/2
淡口醤油……小さじ1/2
溶き辛子……適量

作り方
(1)だしをとる

鍋に煮干し、昆布、分量の水を入れ、30分ほど浸しておく。
鍋を強めの中火にかけ、フツフツしてきたら、弱火で15分ほど煮出し、煮干しを取りだす。
フツフツしているところに削り節を加えて1~2分煮出し、濾してだしがらをギュッと絞る。
(2)材料の下準備
・大根は2~3cmの厚さの輪切りにする。
・餅巾着を作る。
・じゃが芋は皮をむいて水につけておく。
check point!餅巾着
油揚げを2つに切って口を開く。 餅は2つに切る。 油揚げに餅を入れて、かんぴょうで巾着になる様に口をキュッと結ぶ。
(3)・こんにゃくを使う人は三角形に切り、厚ければ厚さを半分に切る。
むすび白滝の人は水に浸けておく。芋と一緒でかまわない。
・ちくわぶは半分に切って、たっぷりの水に浸けておく。芋や白滝と同じ水でいい。
・ゆで卵は殻をむく。
・焼き豆腐、はんぺん、ちくわは2つに切る。
(4)鍋に大根とたっぷりの水を入れ、45分位中火で下ゆでする。
(5)竹串がなんとか通ったら、大根をザルに引き上げる。
同じ湯で、白滝(こんにゃく)、すじ、揚げた処理をしているさつま揚げや餅巾着、練り物をサッと茹でる。
(6)大きい鍋にだし汁とAの調味料を入れ、大根を入れて中火にかける、フツフツとしてきたら、豆腐、芋、むすび白滝(こんにゃく)、ゆで卵、ちくわぶ、ちくわ、むすび昆布、すじを加える。
(7)ゆっくり45分くらい、ごく弱火で煮る。火加減は、ゆらゆらしてる状態。
(8)最後に練りものを加え、10~15分程、ごく弱火で煮る。
餅巾着はお汁のあるところに浸す。
(9)途中で汁が少なくなったら、常にだしか湯を1/2~1カップ足しながら煮る。
器に盛りつけ、溶き辛子を添える。

POINT
♪練りものやつみれは湯にくぐらせると余分な油や臭みがぬけてすっきりします。
♪大根とこんにゃくは前日から煮ておくと、味がじわ~っとしみこんでおいしいですよ。
♪おでんの具はお好みで!
次回は3/28(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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