お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
飽きっぽくても絶対夢中になれる『長いけどおもしろい本』6選【本の目利きが選書】

今月のお客さまのご依頼は……
飽きっぽくても夢中になれる、「とにかく長いけどおもしろい」本、ありますか?コツコツ読んで達成感を味わいたいです!
今回の選書担当

俳優・エッセイスト 美村里江さん
俳優としてドラマ、映画、舞台等で幅広く活躍。無類の読書家でもあり、新聞や雑誌でのエッセイ・書評の寄稿や連載も多数。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
旅の本屋「BOOK246」、選書集団「BACH」を経て独立。オフィスや病院等、書店にとどまらないさまざまな場所のブックディレクションを手がける。
紹介する本 一覧
俳優・エッセイスト 美村里江さん
ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
俳優・エッセイスト 美村里江さん
おすすめ3選
まずは短い99の物語で長編に臨む準備を!

百物語/
著:杉浦日向子 新潮文庫 1100円
飽き性ながら長編を! チャレンジ精神にあふれた依頼者さんに、張り切って良書をご紹介します。とはいえ、不慣れな冒険は少し準備して臨むほうが楽しめるもの。まずは前菜的に「数をこなした達成感」を味わうのはどうでしょう。江戸文化に詳しい杉浦さんバージョンの『百物語』は、漫画ながらずしっとくる重さの文庫。怖さ控えめ、味わい深いタッチの絵でたった2~3ページでもじんわりと余韻があり、次々と興味深く読めることうけあいです。「蒙昧(もうまい)」「頑是(がんぜない)」など、言葉づかいから物語の時代を感じられるのもいい。私のお気に入りは其ノ九十「狢(むじな)と棲(すむ)話」。この世は人だけのものではない、当たり前のことを思い出しておおらかな気持ちになれます。
江戸の時代に生きる人々と、その前に表れる魑魅魍魎(ちみもうりょう)たち。恐怖とともに、滑稽でい
とおしさもある怪談99 編を、文筆家、漫画家として活躍した杉浦日向子が描く。
やっぱりすごい!世界で愛される児童文学

ハリー・ポッターシリーズ 全20 巻/
作:J.K.ローリング 訳:松岡佑子
絵:おとないちあき 静山社 ハリー・ポッター文庫〈新装版〉 682円~ ※箱入り全20巻セット15796円
超有名作でも、未読のかたは存外多いのですよね。私も映像版で満足して読みそびれた作品はけっこうあります。ハリー・ポッターシリーズは日本語版の発売に飛びついて読みきりましたが、最近映像版の見直しとともに本を読みなおしたら、やはりすごいんです。内容以外にもいろいろなことを想像して楽しむなら、作品のマーケティングの背景を探るのもお・つ・。楽しませる工夫、飽きさせない工夫、子ども・大人関係なく、今もコンテンツやアトラクションを世界中が楽しんでいる根源は何か……。たった1 冊で2 億部、今も毎年200 万部以上発行されているという『星の王子さま』も驚異ですが、85の言語に翻訳され、6 億部以上という記録は、しばらく打ち破られないでしょう。
両親を亡くし、孤独に育った主人公のハリー。11 歳の誕生日に「ホグワーツ魔法魔術学校」から入学許可証が届き、自分が魔法使いの血を継いでいることを知り――。
人気作家の現代語訳で古典文学の世界へ

源氏物語 全8巻 /
訳:角田光代 河出文庫 各880 円 ※箱入り全8 巻セット7040円
さあラスボスです! と紹介したくなりますが、ご安心を。角田光代さんの現代語訳版は、私たちを平安時代にやさしく送り出してくれます。世界最古の長編小説と謳われると読んでみたくなりますが、文章のプロの編集さんでも未読のかたがいらっしゃる作品。私も高校生のとき、格好つけて読みはじめた谷崎潤一郎版で敗退しました(笑)。でもこの角田版は、読みやすい、わかりやすい、それでいて当時の空気が伝わる。読破したときはうれしくてたまりませんでした。こんなふうに、昔挫折した長編への再挑戦は達成感が得られオススメ。サスペンス劇の鈍器になりそうな分厚い単行本も満足感が高いですが、素敵なカバーの文庫全8巻になったのも推せるポイントです。
平安時代中期、紫式部によって書かれた、1000 年読み継がれる古典文学の名作。恋と波乱に満ちた光源氏の運命を、小説家・角田光代が現代的な言葉で生き生きと描く。
ブックディレクター・good and son代表
山口博之さん
おすすめ3選
東京に生きるだれかの膨大な人生の記録

東京の生活史/
編:岸 政彦 筑摩書房 4620円
喫茶店でふと耳に入ってきた隣の席の話に聞き入ってしまうこと、ありませんか? ある個人の生い立ちや人生についての語りを聞き取る、社会学の調査手法のひとつ「生活史」。本書は社会学者の岸政彦が旗振り役となり、一般からの応募者を聞き手に、知り合いのだれかの話を聞き取る、そんな生活史の記録を約1 万字ずつ150 人分集めた本です。都市に暮らすということは、知らない人に囲まれ生きるということ。この本の語りはまるで東京で生きることそのもののようでもあります。本音や秘密を聞き出そうとするのではなく「積極的に受動的」になって聞き、集められた話は、話し手の情報もなく、まさに喫茶店で偶然居合わせただれかの話を聞くような感覚があります。
偶然に居合わせ、それぞれの必然を生きる東京の人々。名前すらも明かされない、無名な個人の固有の生活史を、150 万字に詰め込んだ膨大なインタビュー集。
熱狂的なファンを生む100巻超えの大作

©荒木飛呂彦/集英社
ジョジョの奇妙な冒険 第1~9 部/
著:荒木飛呂彦 集英社 572円~
1986 年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まり、掲載誌を変えながら今なお連載が続く100 巻超えの超ロングラン漫画。知っている人は知っている、というか愛しているし、苦手な人はずっと読んでいなかったりする、人気作なのにカルト的でもある作品です。「スタンド」という守護霊的な存在、スタンドの特殊能力の違いによって単純な強さが通用しない世界観、キャラクターの性格・容姿・ファッションの多様さ、彫刻などからインスピレーションを受けたポージングや造形美、くせになるせりふ、独特なオノマトペ表現、さまざまな引用によって名づけられたスタンド名。いくらでも言いたいことがあふれてくる、濃厚な味わいとくせの強さ、カルチャーの厚みが詰まった名作です。
荒木飛呂彦の世界的ヒット作。主人公ジョナサン・ジョースターと、敵対するディオ・ブランドーとの因縁の物語は子孫の代へと続き、主人公や舞台を変えて継続中。
古い価値観にとらわれず「その人」と向き合う

新明解国語辞典 第八版 青版/
編:山田明雄、倉持保男、上野善道、山田明雄、井島正博、笹原宏之 三省堂 3410 円
1943 年発売『明解國語辭典』を母体に1972 年に本書が出版され、以後改訂を繰り返しながら、2020 年の第8 版が最新。簡潔に読めることが一般的な辞書の世界にあって、編集主幹を務めた山田忠雄の世界観がかいま見られる辞書として、発売当初から「読んでおもしろい辞書」と愛されてきました。1990 年代には、赤瀬川原平の著書『新解さんの謎』による人気再燃もありました。たとえば「公約」には語の意味に加えて、「実行に必要な裏付けを伴わないことも多い」と書くなど、その語が社会的に意味することにまで踏み込んでいく姿勢は独特。8 版では「おやじギャグ」や「歩きスマホ」等が追加に。どう書かれているか、ページをめくって確かめてみてください。
「考える辞書」として日本語を見つめつづけてきた『新明解国語辞典』。9 年ぶりの全面改訂となった第8 版は、時代と社会の変化に対応した新語・新項目約1500 語を増補。
⃝商品の価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。
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イラスト/河原奈苗
















