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元タカラジェンヌ 食と美のトビラ

元宝塚歌劇団 星組娘役・有沙 瞳さん「あずきへのこだわりはだれにも負けません」【食のトビラ】

2023.10.31

華やかで気品ある夢のようなキラキラのステージ、宝塚歌劇。約3時間のステージを彩るタカラジェンヌたちは清く正しく美しく、そして心身ともにパワフル! その生き生きとした魅力の源である「食」と「美」のこだわりを、宝塚歌劇OGのかたがたに現役時代を振り返りながら教えていただく連載です。


退団して大切な仲間と離れても、思いやる心や思い出があるから強く生きていける


今回ご登場いただいたのは、元星組娘役の有沙瞳(ありさ・ひとみ)さん。8月27日に宝塚歌劇団を退団されて約2カ月。先日はこれからの所属先も発表されました。新たな道を一歩ずつ着実に歩みはじめている有沙さんですが、在団中の思い出や退団を決められたときのことをうかがいました。

「正直、宝塚歌劇団にこんなに長くいるとは思っていなかったんです(笑)。組替え(雪組から星組へ)を経験させていただき、たくさんのかた、たくさんの男役さんとごいっしょさせていただけて、自分一人では成し得えなかったいろいろなことをかなえさせていただき……本当にやりきったという思いでいっぱいでした

自分に自信がなく、だからこそみんなといっしょならできるということが心強かったけれど、これからは枠にとらわれないさまざまなことに挑戦していきたいと語る有沙さん。卒業後の初のステージは、同期の飛龍つかささんのディナーショー『Thankfull−愛を込めて−』でした。

 「同期の茉玲さや那と1期下の若草萌香ちゃんと出演させていただき、OG仲間として組を超えてかかわれたことがうれしかったです。新鮮だけど、懐かしくて。お客さまの反応を間近で受け取れたことも楽しかったですね。やっぱり生のふれあいっていいなぁと」


有沙さんといえば圧巻の歌声。特にお芝居の中での歌に心をつかまれた人もいたのではないでしょうか。

「たくさんの歌を経験させていただきました。大劇場の空間てすごく特別なんです。『ロミオとジュリエット』の乳母役のとき、その空間に初めて一人で立たせていただきました。一人で頑張らなきゃと思うとしんどいですけど、お客さまがともにいてくださると思うと心細くなくて。パワーをいただきました」

乳母をはじめ、さまざまな役で舞台に彩りと存在感を添えてくれた有沙さん。いちばん印象的だった役をうかがうと、「『今のお役がいちばん』と思って大切に演じてきたので、いちばんは決められないんですけれど……、逆にみなさんはどのお役がお好きなのかおききしてみたい」とのこと。(ぜひオレンジページ編集部のXなどに声を寄せてください!)

「うーん、雪組時代の『ドン・ジュアン』のエルヴィラ、星組に組替えしてからの『THE SCARLET PIMPERNEL』のマリーや新人公演のマルグリット、『阿弖流為 –ATERUI–』の佳奈、『ドクトル・ジバゴ』のラーラ、『龍の宮物語』の玉姫、『王家に捧ぐ歌』のアムネリス、ロミジュリの乳母も。なんだろうなー」

 悩みながらお答えいただいたのは、『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』のルイーズ(レナール夫人)。生き方のナチュラルさ、聡明で誠実な女性像に共感を覚えたそう。

「真っ黒な服を身につけながらも、赤いバラが象徴しているように内には赤いものを秘めている。紫門(ゆりや、花組副組長)さん演じるレナールさんの貞淑な妻として存在しながらも自分の思いにうそをつかない。私も一人の女性として重なる思いもありましたし、学年を重ねてこういう大人の女性を気負わず演じることができ、本当によかったなと思いました

『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』では、ご自身のタカラジェンヌ人生の終わりを考えた時期でもあり、さまざまな気持ちが交錯したそう。

「自分の中で卒業の意思を固めていたころで、礼(真琴、星組トップスター)さんともう一度だけ何かでかかわらせていただけたらと思っていたときにごいっしょできたので、すべての時間が貴重でした。ルイーズのあり方としても、悲恋で終わるだけじゃなく幸せも感じていたと思うんです。それは、離れていてもずっと心の中に(礼さん演じる)ジュリアンがいたからで、人は距離があっても愛に支えられるということを学びました。

そしてそれはたぶん、卒業にも重なるんです。大事な仲間と離れても、お互いに思いやる心や共有した思い出があるから強く生きていけるんだなと」


舞台の上で輝く、そんな有沙さんをつくる要素である「食」と「美」。1回目では「食」のこだわりについて深くお話をうかがいます。


自分の体と向き合うことで無理のない食生活を送れるように。体と相談して食べたいものを決めます


――まず、有沙さんにとって「食べること」とはどんなことを意味しますか?


体へのごほうびだと思っています。雪組の下級生時代は「節制しないと」と強く思っていて、「食べちゃダメだ」と食をおろそかにしていたことがあったんです。今は亡くなられてしまいましたが当時とてもお世話になった振付の羽山(紀代美)先生に「あなたのよさはエネルギーがあることなのに、いろんなことを節制していてエネルギーが飛んでいないからよさが出ていない」と言っていただいたことがきっかけで、食に対する意識がガラッと変わりました。「節制することがいいと思っていたのに、私がいる意味はそこにはないんだ」と。羽山先生に目覚めさせていただき、無理にガマンすることなく自分の体と食欲にきちんと向き合うようになったんです。だから、頑張ったときには『今日は何を食べたいかな?』。それがごほうび(笑)。

――体のことを考えつつ食も大事にするようになったんですね。

はい。公演期間の朝食は体に負担をかけにくく、でも体を目覚めさせてエネルギーになるようなもの。ごほうび食はおもに夜ですね。

朝はおなかがいっぱいになるとそちらに意識がいって集中できなくなってしまうので、きのこや海草類、サラダチキンが多いです。私だけかもしれないのですが、たんぱく質を摂るとおなかがすきにくい気がするんです。

――今日も、お気に入りの食材ということで、きのこと撮影させていただきました。

しめじもエリンギもまいたけもしいたけも、どんなきのこも好き! 秋の食材のイメージがありますがいつでも手に入るから、手軽なきのこソテーはよく作ります。おしょうゆとお砂糖で味つけして。素材を生かしたシンプルな味が好きなんです。味がしっかりしているケチャップやマヨネーズはそんなに大量に使わないかも。

――ご実家の料理も薄味なんですか?

実家の味はけっこうしっかりしてるんですよ。父はマヨネーズやソースが好きでよくかけるので、昔は私もそういうのが好きだったのですが、体と向き合うようになってから薄味派に。たまにジャンクなものを食べるときもありますよ、フライドポテトも好きなので(笑)。薄味派になって塩分が少なくなったせいか、むくまなくなりましたね。

今まで走りつづけていたものがコロナで止まってしまったとき、家族に連絡したいと思ったんです。家族はそれまで、あまり連絡が来ないことが頑張っている証拠だと思って遠くから見守ってくれていたんですけれど、コロナを機に密に連絡を取るようになりました。それで、親や親戚が手料理を作って送ってくれるようになりました。『宝塚おとめ』(生徒名鑑)の「好きな食べ物」の欄には「母と親戚の料理」って書いていたんですよ。

――やはり昔からめしあがっていたものはおいしいですよね。ちなみに、和食と洋食だとどちらがお好きですか?

断然和食派、だったんです。ところが『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』『1789 -バスティーユの恋人たち-』とフランスが舞台の作品が続いたせいか洋食にしか目がいかなくなってしまいまして(笑)。フランスのかたって朝カフェするじゃないですか。それまでは「朝から時間をつくってカフェで過ごすっておしゃれだな、すごいな」と思っていたのに、まんまとハマってしまいました。今はやっと外食ができるようになりましたし。クロワッサンとか、本当においしいですよね。カフェで優雅にモーニングする時間がすごく素敵。海外にいるような気分で、朝から幸せな気持ちになれます。自炊するなら和が多いんですけどね。

撮影/馬場わかな 柴田飴本舗提供 本人提供 アンジェリーナ提供 文/淡路裕子 協力/AWABEES

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