悩みとは生きている証拠。だれもが大なり小なり抱えているお悩みに、マダム・サルディンヌこと
猫沢エミさんが真摯に、時に愉快にお答えします。
今月の迷えるお悩み
結婚をすることになっているかたがいます。ですが自分の気持ちがわからなくてこのまま進めていいのかと迷い、友達に相談をすると、皆からやめたほうがいいと言われます。それでも自分から決定的な別れを言う気持ちにはならず、流れにまかせようかなという心境です。私が後悔しないためにしたほうがいいことがあれば教えてください。よろしくお願いします。
ちぐさ(40~49歳女性・事務職・東京都)
こんにちは。あなたのお悩みの友、マダム・サルディンヌです。
まず、なによりもちぐささんが後悔しないためにしたほうがいいこと、それは結婚されるお相手を本当に愛しているのか? という、自分への問いかけです。初めに誤解がないよう説明しておきますと、ここで言う「愛している」は、男女の愛に特化したものではありません。
友人としての愛、家族的な情愛など、広く言えばなにがしかの〝人類愛〟を、お相手のかたにお持ちかどうか、という質問です。
たとえば男女に特化した愛と仮定したとしても、「自分の気持ちがわからない」と、お相手のかたに対する熱量がまるで感じられません。そして「皆からやめたほうがいいと言われる」という理由はいったい何でしょうか。お相手のかたに問題がある、もしくはちぐささんご自身の意思がはっきりしないことを、ご友人の方も懸念してのアドバイスでしょうか。
そもそも結婚とは何でしょう?
ではここで、結婚という言葉の意味を、いま一度あらためて確認してみましょうか。結婚とは《男女の継続的な性的結合と経済的協力を伴う同棲関係で、社会的に承認されたもの。法律上、両性の合意と婚姻の届け出によって成立する/出典:大辞泉》です。辞書にある文言は、昨今の急速なジェンダーフリー化にも、カップルの多様化にも追いついていない旧時代的な内容と言わざるをえませんが、じつはこの硬い文言の中に〝愛の有無〟について触れているところがあります。
それがズバリ〝継続的な性的結合〟という、味も素っ気もない表現に置き換えられてしまっている部分です。日常的に性交渉がある=愛があっての生物的な行為、と私は考えられると思うんですよね。ただ、こうした硬い表現の場で、定義するのがむずかしい〝愛〟は語れないから、こうなると(笑)。もちろん、なかには愛のない〝継続的な性的結合〟で成り立っているカップルもいるかもしれませんが、幸せとは言いがたく、遅かれ早かれ終わりが来るように思います。
と、ここで勘違いしないでいただきたいのですが、大切なのは〝継続的な性的結合〟の有無ではなく、あくまでも〝愛の有無〟です。私が先ほどちぐささんに問いかけた、お相手のかたに〝人類愛〟を持っているか? という質問ですが、
ここから先の時代、人生をともに助け合って生きていくカップルを男女に限ってみたり、性的結合の有無で判断したりするのはもう古いと私は考えています。
結婚という制度に縛られなくていい
近年、高齢者の孤独死が社会問題になっていますが、これほど寂しいことはないと常々感じていました。
どのような死も敬われるべき旅立ちの門出であり、人はひとりぼっちで死んではいけない、というのが私の考えです。しかし現実は、自立した女性が増えて人生の選択肢が多様化したこともあり、晩年になってもひとり身のかたが増えています。
そこで私がいつも思うことは、ひとり寂しく晩年を送らなくてもいいじゃないかということです。そのためなら、結婚という制度に縛られなくてもいい。ともに生きる人は異性のだれかじゃなくてもいい。ただし、そこにはやはりなにがしかの愛がなければ、そもそも他人だった者どうしが、ひとつ屋根の下に暮らすのはむずかしいでしょう。
自分と相手が幸せになる選択を
ちぐささんがおっしゃる「自分から決定的な別れを言う気持ちにはならない」理由はなんでしょうか? もしも、お相手の方にさしたる情熱もなく、今のご年齢や老後のことだけを考えての〝結婚〟ならば、ご自身だけでなく、お相手も不幸な結果になってしまうかもしれません。いっしょに暮らしていてもなんの喜びも感じられない相性のかたならば、結婚は社会的な表向きの箱を作るだけで、ひとりでいるよりももっと寂しさを感じる結末になりはしないでしょうか。
こうした結婚にまつわるお悩み相談を読んでいてたびたび感じることですが、結婚予定のお相手のかたの存在感が薄く、ご自身の一方的な立場で物事を考えている方が多いこと。
結婚に限らず、人はだれしも〝幸せになること〟を望んでいるのではないでしょうか。ならば、やはりともに歩く人に対して愛がなくては。その愛は、恋愛小説のように激しく燃え上がらなくたっていい。静かで、友愛的なものでもかまわない。でも、やはり愛なき結婚というのは、悲劇以外のなにものでもないと私は思います。
そして「流れにまかせようかなという心境」というのも、どことなく、ちぐささんご自身が、ご自分の将来に対してご自身で決めることを恐れているようにも感じます。このお悩み投稿には書かなかったけれど、相手に対してもちろん愛情があるうえで、ちぐささんがお悩みになっているのだとしたら……と私は願っています。
結婚は、ひとりではなく、幸せになるためのふたりのプロジェクト。
どうぞ悔いのない選択ができることを祈って、ゴッド・ブレス・ユー♡
そんなあなたへのマダムの処方箋
ハートに火をともす♡
「黒こしょうとシナモンのショコラショー」
材料(2人分)クーヴェルチュール用ショコラ(なければ普通のブラックチョコレートを)……40g
牛乳……1と1/2カップ
砂糖(お好みで)……小さじ1~2
黒こしょう(ひきたてのもの)……少々
シナモンパウダー……少々
作り方(1)チョコレートを包丁で細かく刻む。
(2)小鍋牛乳とチョコを入れて、中火でゆっくりとチョコレートを溶かす(沸騰させないように!)。
(3)チョコレートが溶けたら味をみて、甘みがたりないようなら砂糖をお好みで入れる。火からおろして器に注いだら、ひきたての黒こしょうとシナモンパウダーをほんの少しふればでき上がり。
効能:フランス語でホットチョコレートを意味するショコラショーは、この季節になると無性に飲みたくなるメニュー。でも、意外とパリのカフェで注文することが少ないのは、お店によって濃すぎたり、物足りなかったり、意外とジャストミートなショコラショーに当たるのがむずかしいから。
市販のココアパウダーを使わずに、チョコレートを刻むひと手間が加わりますが
、一度味わうと「こんなにも違うのか!」と驚くおいしさ。ここに、ほんの少し黒こしょうとシナモンをふると、チョコレートの重みを軽やかにしてくれる魔法のスパイスに。フランスの牛乳は低脂肪乳でも充分こくがあるので、私はもっぱら低脂肪乳で作っていますが、日本のみなさんはおいしい無調整牛乳で作ってみてください。
チョコレートの原材料カカオに含まれるポリフェノールの効果は以前から注目されていますが、チョコレートの摂取により精神的にも、肉体的にも活動的になることがわかっています。チョコレートの摂取前後で、脳細胞の増加に必要とされているBDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)も上昇することから、記憶力の保持、うつ病やアルツハイマーの予防としての効果も期待され、一日25gくらい食べるのが理想的な摂取量と言われています。
〝恋の媚薬〟と昔からささやかれている理由については、16世紀、スペインのフェルナンド・コルテスがアステカ帝国(現在のメキシコ)からカカオ豆を持ち帰り、それが「恋の媚薬」として、ヨーロッパの上流階級に広まったことに起因しているそうで、理学的な効果は未知数。しかし、幸せホルモン・セロトニンの材料になるトリプトファンの増加や、脳内麻薬とも呼ばれるエンドルフィンの分泌が促され、高揚感や幸福感を高めることはわかっています。
だれかを愛する気持ちを忘れそうになったら、軽やかでスパイシーなショコラショーでハートに火をつけて♡
チョコレートの歴史について(株式会社明治より)
チョコレートの健康効果ついて(株式会社明治より)
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
2002年渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー《BONZOUR JAPON》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に「ねこしき」(TAC出版)、「猫沢組・POSTCARDBOOK〜あなたがいてくれるなら、私は世界一幸せ」(TAC出版)など多数。最新刊10月26日、規格外で笑いに満ちたブラックファミリーヒストリー『猫沢家の一族』(集英社)が発売。12月初旬、60年代のフランスで大ヒットした名料理本の日本語版が待望の出版、『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ 著/猫沢エミ 訳(河出書房新社)が発売予定。インスタグラム
@necozawaemi
猫沢さんへのお悩み相談募集中です!
猫沢エミさんへのメッセージ、質問、悩み相談は随時受付中。小さなものから大きなものまで、ジャンルは問いません。今気になっていることを、お気軽にどうぞ♡