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飛田和緒さんの「月に1度のさもない昼ごはん」

暑い夏の終わりに『なすとピーマンのみそ炒め定食』【飛田和緒さん連載】

2023.08.16

人気料理家・飛田和緒さん。この連載は飛田さんの飾らないお昼ごはんをのぞき見させてもらいます。使うのは20年近く住む神奈川県・三浦半島の旬の食材! さて今日はどんな「さもない」お昼が見られるのでしょうか……?

>>第1回「新じゃがいものオイル焼きプレート」はこちら



 暑い暑い……その言葉しか出ない8月もすでに半ば。台風が次々とやってきて、南の島や九州地方は大変な被害が出ています。そしていよいよわが家にも台風直撃のニュースが飛び込んできた今日。雨が降ってくれるのはありがたいのだけど、ほどよくねと願う。

今年はしとしとと雨の振る梅雨がなかった。ゲリラ豪雨と呼ばれる雨も記憶にあるのは二度だけ。夜中に降った日は家の熱気を一気にさましてくれ、寒くて飛び起きてしまったほど。このときほど雨に感謝したことはないくらい、ありがたいお湿りでした。

とにかくほとんど雨がないまま、夏に突入。庭はカラカラ、植木鉢には毎日のように水やり。でも地植えの草木は元気いっぱい枝を伸ばしているから自然は強いなーと感心するばかり。これまでの海辺暮らしの経験でいうと、7月終わりまではかなり暑いのだけれど、8月になると急に朝晩涼しくなって、秋の気配を早く感じるというのが昨年まで。今年は8月になってもまだまだ猛暑が続き、湿気もあってエアコンがフル回転。苦手なエアコンもつけずにはいられない。

 そんな毎日でもしっかりおなかはすきます。暑いと言いながら食欲はある。ビールもおいしい。今日も野菜を求めて出かけてきました。あら、いつも野菜がもりもりっと並んでいる野菜の直売所の棚がひっそり。売り場のお母さんたちは元気いっぱい、いつものとおり笑顔で迎えてくださったけど、野菜の種類が少ない。暑さが早くやってきたせいで、夏野菜はもう終わりに近づいているという。そして早々に秋冬野菜の準備にとりかかっているそうです。 

今回の収穫は


 今日の収穫は大きく育ったなすときゅうり、モロヘイヤとオクラ、ピーマン。トマトもズッキーニももう終わり。すいかをもう一度食べたかったな。何度かラグビーボールのような小玉のすいかを買って食べた、前回の連載ページにもすいかのこと書きましたね。甘いけど、さっぱりしていて、果肉もほどよくしゃりしゃり感あって、そのまま食べたり、ジュースにしたり、チーズと合わせてサラダにして今年もよく食べました。ないとわかると、一層食べたかった気持ちがふくらんじゃう。
今年はとうもろこしを食べそこねているから、たくさんゆでて粒をほぐすのが大変だったーなんて話をまわりでチラホラ聞くたびに、うらやましくてひと袋でいいからちょうだいって心の中で叫んでいました。海辺の野菜たちは一歩先へと進み、秋に向かっているようです。


本日の昼ごはんは『なすとピーマンのみそ炒め定食』


 さて、本日はなすとピーマンのみそ炒め定食。麺ばかりを食べていたから、白めしが食べたくなり、みそ味のおかずを。なすは大きめの乱切りにし、ピーマンはへたが長かったので切ってから手で押してつぶし丸ごと鍋に入れる。ごま油を多めに回しかけて、ふたをして中火にかけて10分ほど加熱する。なすは完全に秋なす、切っていて皮がやや厚めで果肉もしっかりとしていたので、水分が出にくい。途中水を少したしながら蒸し焼きにする。なす、ピーマンともにくったりと加熱できたら、みりんとみそを入れて混ぜる。砂糖やしょうゆを加えることもあるが、今日はみそとみりんのみで味つけ。みそがとろんとなすやピーマンにからんでおいしそうにでき上がりました。あつあつもおいしいけれど、一度さましてぐっとなすにみそ味がしみたところを食べるのもさらにおいしい。今夜家族にも食べてもらおうと思います。



 きゅうりの旬も終わりに近い。大きく育っていたので、皮をしま目にむいて乱切り。塩をまぶして冷蔵庫で冷やしておく。きゅうりは1本はぬか床へ。残り3本はこの塩きゅうりに。こうしておけば、浅漬け風にも、サラダにしても、炒めものにしてもいい。きゅうりから出た水けも調味料として使うから、しぼったりせずにそのままの状態で冷蔵庫に保存する。きゅうりに塩して水けを絞るというのはもちろんやりかたのひとつではあるけれど、必ずしもそうする必要はないのではと思う。水けがたっぷりと出たきゅうりはしっとりとしておいしいから、絞らないおいしさもぜひ味わってほしいと最近のレシピには必ずメモしていますよー。切り方も薄切りにしたり、厚めに切ったり、今日のように乱切りにしたり、形はそのときの使いまわしを考えて切るといい。


 モロヘイヤは葉を摘んで茎と分けました。葉はゆでて、今夜のおひたしに。茎は薄い小口切りにし、オクラも粗みじんに切る。モロヘイヤの茎も加熱するととろみが出るが、やや堅めなので、葉と茎に分けて調理しています。茎はしっかりと煮ること。葉はゆでてから食べるときに刻むとさらに粘りが出てくる。おひたしにしたり、納豆などネバネバ食材と合わせてあえものにしたり、モロヘイヤカレーもいいね。緑色のとろりとしたカレー。モロヘイヤが出回っているうちに作ろうっと。そしてゆでる前の葉を天ぷらにしても美味なんです。サクッと食べた瞬間に口の中に粘りが広がる。スナックみたいな感覚で食べられる天ぷらになるんですよ。

 汁ものは昆布だしにモロヘイヤの茎、オクラを入れて柔らかくなるまで煮て、塩と薄口しょうゆで薄めに味つけ。だしをとったあとの昆布も短めの千切りにして加えた。ご飯は冷凍ご飯をチンしてお茶碗に盛りつける。汁はお椀によそり、梅ペーストを少し加えて混ぜながらいただく。きゅうりは水けをかるくきって塩漬けの実山椒を添えて。

山椒を添えるだけでさぁーっと涼しい風が吹いたようなさわやかな食卓になる。実山椒の旬は5月の半ばごろ。一瞬でなくなってしまうから、4月の終わりごろからそわそわしながら、出荷状況を見る。出回りはじめたら、少しずつ下処理して塩漬け、しょうゆ漬け、オイル漬けを作っておきます。作り始めたころは翌年のたけのこ料理のためにとせっせと仕込んでいましたが、お刺し身や豆腐に合わせたり、ごはんに混ぜたり、なんてしていたら、来年のたけのこの時期には仕込んだ実山椒がないってことになりそうなくらい、毎日なにかしらに合わせています

なんといっても独特なさわやかさ。暑さを吹き飛ばしてくれる味わいがわが家の食卓に欠かせません。なすとピーマンのみそ炒めは肉厚なお肉を食べているようななすの食感。たんぱく質がなくても充分な食べ応えでした。汁ものに豆腐を入れようか迷ったけど、入れなくて正解。入っていたら、食べきれなかったかもしれないくらいのボリューム定食でした。ピーマンはやや種が堅かったがまぁしょうがない。種もとろりと柔らかく仕上がるイメージでしたけどね。やはりもう夏野菜ではなくなってきていることをこの一食のごはんでしみじみと感じました。

8月の台所より
飛田和緒


飛田和緒(ひだかずを)

料理家。神奈川県・三浦半島に夫・娘と住みはじめてから18年になる。海辺暮らしならではの魚料理や、地元の食材を使ったシンプルな野菜レシピが人気。繰り返し作りたくなる常備菜は、幅広い層から支持されている。お弁当や朝ごはんの記録をつづったインスタグラム(@hida_kazuo)も話題。著書に『いちばんおいしい野菜の食べ方』(小社)など。

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撮影/大森忠明(バナー、プロフィール画像)

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