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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJCこと女子中学生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

口達者な思春期JC娘も思わず黙る「ほうれん草の春待ちシンプルとろみ鍋」

2023.03.17

[第1回]思春期JC娘と母の小舟が行く! ホルモン大航海時代

毎年感じる確かな事実。季節はめぐり、人は歳をとり、そしてうちのJC(女子中学生)娘はますます口が達者になる。最初の2つは自然の摂理と謙虚にとらえるが、最後のひとつは頼もしい成長とわかりつつも、たまにムカつく。

気がつけばもう3月。あれ、この前お正月終わったばっかりじゃなかったっけ。早い、ときのたつのが早すぎる。もうすぐ本格的な春が始まる。おかげさまで来月にはJC娘も一つ学年が上がる。一方私には学年というものがない。だから、きっと歳もそのままのはず(なわけない)。

そんな私には、JC娘が思春期に入ったころから、ずっと心のお守りにしている言葉がある。あるウェブ連載で読んだ、精神科医の大下隆司さんのアドバイスだ。

心のお守りにしている、とある言葉

〜思春期の女の子が生意気なクチを聞いても、「ああ、今、このコの脳の中では、扁桃体が感じている不安をごまかすために、未熟な前頭葉に一生懸命もっともらしい理屈をこねさせているのだなあ」と理解していただきたいと思います。〜
大下隆司・著「思春期デコボコ相談室 母娘でラクになる30の処方箋」(集英社)より

そうか、なるほどと腑に落ちた。これこそが、私が欲しかったエビデンス。JC娘がJS(女子小学生)の終わりごろから始まった日々の親子バトルには、ちゃんと理由があった。彼女彼ら思春期に入った子どもが常に生意気な態度をとるのは、人間性の問題なんかではなく、それはつまり、思春期のホルモンの仕業。体はいっぱしだけど脳はまだまだ未熟。だからこそ、いきなり尊大になったり、感情が丸出しになったりするのね。

ホルモンに左右されるのは自分も同じ

そして私は、じつはもう一つの事実もつかんでいる。生き物としてホルモンに翻弄されているのは、ティーンのJC娘だけじゃない。母の私とて同じことなのですよ。彼女彼らがホルモンの嵐の往路を旅しているのなら、私は目下復路の嵐に突っ込んでいる。暴風雨と落雷で五感が全方位アタックされているただ中なのに、見た目にはまったくわからないこの感覚的な嵐。

この人、いまおぼれかけで、しかもずぶぬれですよー、けっこう大変な状況ですよーということが、見た目にもわかりやすくあればもっとラクになれるのかもしれないが(いや実際にずぶぬれるのはごめんだが)、ホルモンってやつは姿形がない。なんかやる気が出ないとか、必要以上に落ち込むとか、そんな事情は他者には凪のようにしか映らない。風邪をひいたときのせきや鼻みずのような、わかりやすい症状がないから。しかし私たちは動物である以上、自分の人間性とは別の理由で、気分のアップダウンやイライラに対処しなければならない。人とはなんと、因果な生き物よのう。

そんな生き物の先輩として、私はティーンよりも経験値が高い、はず。それならば、私が迷えるJC娘を導こうじゃないの。と、毎度突発的なバトルが勃発しかけると、そんなふうに自分を戒めている。両者ホルモンの嵐の中で、もはや戦ってる場合じゃないのだ。

人の暮らしはえてしてかっこ悪いもの

そもそも振り返ってみれば、われらを含む世の親子の日常生活は、どの世代においても常に雑多で混沌として予測不能な、嵐の中の小型船みたいなものなのだ。CMで見るような、整然としたリビングの日だまりでほほえみ合うとか、夕方、仕事帰りに制服姿の娘と手を繋ぎにこやかに家路を急ぐとか、そんなものはひと昔前にだれかがつくった理想のイメージでしかない。だいたいいまどき、家でも帰宅時でもスマホを手にしていないティーンとか、ありえない。

かくも人の暮らしというのは、そもそも雑然としたシーンばかりで、おおよそかっこ悪いものなのだ。こぼしたり、散らかしたり、言い合いしたり、不機嫌だったり。でも、だからこそ、料理がおいしかったり、ふとした行動がおもしろかったり、かけられた言葉がやさしかったりするだけで、深く心に残ったりするのだ。そしてそれは、自分だけの宝物になる。

この数年間、私は日々の暮らしの、おもに食に関すること(仕事が食関連なのです)や旅先で印象に残ったことなどを、自分のインスタグラムに載せてきました。JC娘が学習塾に通い出してからは、早めの夕飯のあとに塾に向かうという新しいルーティンが生まれ、それに合わせて#塾前ごはん と、#塾前じゃないごはん というハッシュタグをつけ、わが家の食の備忘録としています。

そんな日々の様子をおもしろがってくださるオレンジページ編集者Kさんのお誘いで、今月から半年ほど、この連載を書くことになりました。せっかくなので、毎回レシピもご紹介していこうと思います。

今回の塾前じゃないごはん

ほうれん草の春待ちシンプルとろみ鍋

3月なかば、春を待ちつつまだまだ寒い日に食べたい、シンプルな「とろみ鍋」です。材料は、ほんれん草(ちぢみほうれん草が最高)と薄切りの豚バラ肉。つまり、いわゆる常夜鍋です。でも、ちょっとだけ作り方に違いあり。とろみのゆえんは片栗粉。豚肉に片栗粉と塩をまぶし、日本酒をたっぷり加え、しょうがとにんにくの薄切りをひとかけ入れた昆布だしで煮ます(理想は昆布だしと日本酒が1:1)。
すると片栗粉のおかげでだしにほどよくとろみがつき、肉もぎゅっと堅くならず、口当たりがやさしくなります。

だしには昆布と日本酒、豚の脂のうまみなどが溶け出すうえに、塩でしっかり味をつけているのでポン酢は必要なし。このだしを器にたっぷりととり、ゆずこしょうを溶かしたり、ちぎったのりを加えたりしてごくごく飲みながら具を食べ、しめは群馬のおっきりこみうどんや山梨のほうとうなど、極太の麺を入れて食べます。

最初から麺を入れるとJC娘が麺ばかり食べる危険性があるので、最初はほうれん草と豚肉を、2回目にしめの麺を投入するというシステムに。塾前じゃない、ゆっくり鍋を囲める日の晩ごはんに、ぜひ。

馬田草織 馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはホームページ(http://badasaori.blogspot.jp)からどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>
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