「調理室池田」の看板メニュー!失敗しない『ヴィクトリアケーキ』のレシピ大公開

川崎市中央卸売市場北部市場内にあるBreakfast, Antiques and Gallery の店を営む「調理室池田」です。まぐろの切れ端から作る自家製ツナのサンドイッチやコーヒー、焼き菓子をご用意して朝から開店しています。
よく、なぜ市場に? ときかれることがありますが、料理を勉強する中で私たちが行き着いたのが市場だったのです。
市場の魚屋から教わること、青果店との仕入れでのやり取り、買い出しの合間にひと息つきに来てくれるシェフ等、料理の話は尽きません。
これらは私たちの大事な刺激であり、市場は私たちにとって最も触発される場所となりました。
私は料理とは、いろんな人に話を聞いたり、本を読んだり、自分で繰り返し作る中で、点と点だった情報があるとき線となり、初めて「身につく」ものだ思っています。
この連載では、そんなひらめきのヒントとなる、レシピからこぼれ落ちてしまうような小さなお話もたくさんしていきたいと思います。
また連載のタイトルにあるように、店の料理だけでなく、私が家で日頃作る料理もご紹介していきます。
どうぞよろしくお願いいたします。

連載初回は調理室池田の看板メニューでもある「ヴィクトリアスポンジケーキ」をご紹介します。
店の菓子のメニューを考えるときにテーマとしたのがヴィクトリアのような家庭菓子。パティシエが作らないような素朴なお菓子をイメージしました。
プロがたくさん集まる場所ですから、そのほうがおもしろいと思ったわけです。実際、店でも家庭用のオーブンを使っています。
ヴィクトリアには「パウンド生地」や「カトルカール」と呼ばれるシンプルでいて奥の深い生地を使います。これを作れるようになると、いろんなケーキが焼けるようになりますよ。
みなさんも何度も何度も焼いてみてくださいね。
今回のレシピのヒント
パウンドケーキとはよく混ぜるケーキである。
生地には空気をたっぷり含ませる
パウンドケーキはバター、砂糖、卵、粉の4つの材料を同じ分量で合わせるケーキ。今回は砂糖の分量を少し減らし、家庭でも作りやすいレシピにしています。
まずはバターですが、堅すぎると次の工程がうまく進みませんので、電子レンジを活用してクリーム状にしてからグラニュー糖を加えます。

グラニュー糖を加えたら、黄色かったバターがしっかり白くなるまで混ぜます。この工程、みなさんが思っているよりも時間がかかると思います。店の大きなミキサーで5分以上混ぜていますから、家庭用だともっと必要かもしれません。空気をたっぷり含ませることで重たい生地が持ち上がるので、根気よく混ぜてください。

次は卵です。水と油ですから分離しやすい難関です。
ここでは卵を少しずつ加えては混ぜる、加えては混ぜるを繰り返すという作業になります。卵を7〜8割入れたところで生地はさらに分離しやすくなりますので、私はここで粉を少量加えます。卵、混ぜる、粉、混ぜる、といった具ぐあいです。
粉がつなぎとなって分離を防ぎ、なめらかな生地を保ってくれます。

卵を入れ終えたところで残りの粉類を3回くらいに分けて加えます。この工程でゴムべらに持ち替えて、底からすくうように混ぜます。
ここでは「ぐるぐる混ぜる」というより「混ぜ合わせる」といった感じ。そのつど粉けがなくなるまで大きく混ぜます。
最後に少量の牛乳を加えて混ぜたら生地の完成です。
私がたどり着いた焼き方

家庭用オーブンにもいろいろありますが、私の使っているオーブンは上下ヒーターのものです。180℃から焼き始めて途中から170℃に落としたり、下段、中段を行ったり来たり、さらにホイルをかけたりはずしたりします。
これをレシピに書くと「170~180℃のオーブンで40分ほど焼く。途中焦げそうになったらアルミホイルをかぶせる」という味気ない文になりますが、これではみなさんが家庭で焼いたとき、うまくいかないのかもしれません。
スタートは生地をしっかり温め、ふくらみやすくするためにも180℃の高めの温度を長めに保ちますが、温度を調節したり、天板の位置を変えたり、ホイルをかぶせるなど、火の当たり方を調節して、しっかりとふくらんできれいな焼き色がつき、中まで火が通るよう、いつもの料理と同じように手をかけてあげてください。
オーブンをあまり何度も開けることはよくないと、どこかで読んだかたも多いと思います。卵を泡立てるようなデリケートな生地はそのとおりなのですが、この生地は意外と大丈夫。
もちろん、むやみに開けることはしませんが、様子を見ながら焼ける生地なので、たまにチェックしながら焼き、ご家庭のセオリーを見つけ出してください。
生地が焼けたらすぐに型から出して側面のシートをはずして湯気を逃します。
仕上げは翌日がベスト

焼き上がったその日に食べるとふかふかとしてとってもおいしいものです。
ただ、生地がまだ落ち着いていないため、切ったときにボロボロとくずれやすく、クリームも塗りにくいもので、きれいに切り分けたりするのはむずかしいかもしれません。
店ではバターが生地全体になじみ落ち着く翌日まで待って使うことがほとんどですが、当日に仕上げるのも家庭ならでは醍醐味。どちらにも違ったおいしさがありますので、使い分けてもらえたらと思います。
ケーキには濃厚なバターとクリームチーズを合わせたクリーム(これまたよくよく混ぜる)とジャムをはさんでいますが、そもそもヴィクトリアケーキにはさむのはジャムだけ。決まりはありませんので、ジャムだけでもいいですし、ホイップクリームを添えるなどお好みの形に仕上げてください。
次のページでは詳しい作り方を紹介します。
–{ヴィクトリアスポンジケーキのレシピ}–
『ヴィクトリアスポンジケーキ』のレシピ

材料(直径18cmの丸型・底の抜けるタイプ)
〈スポンジ〉
バター(食塩不使用)……168g
グラニュー糖……150g
卵……168g
薄力粉……168g
ベーキングパウダー……8g
牛乳……20ml
塩……ひとつまみ
〈デコレーション〉
好みのクリーム……適宜
好みのジャム……適宜
粉砂糖……適宜
下準備
・オーブン用シートを型の底面と側面に合わせて敷く。
・薄力粉、ベーキングパウダー、塩を合わせてふるう。
・卵は小さめのボールに割りほぐす。
・バターは幅1~2㎝に切る。
作り方
(1)バターを柔らかくする
バターを大きめの耐熱のボールに入れ、ラップをせずに電子レンジで10秒加熱する。押すと指の跡が残るくらいまで繰り返す。オーブンを180℃に予熱する。
(2)バターとグラニュー糖を混ぜる
ハンドミキサーの中速でバターがクリーム状になるまで混ぜる。グラニュー糖を数回に分けて加え、白くつややかになり、空気を含んでふんわりとするまでしっかりと混ぜる。
(3)溶き卵と粉類を混ぜる
溶き卵は糸をたらすように少しずつ加え、そのつどハンドミキサーでしっかり混ぜて乳化させる。卵が残り1/5量ほどになったら泡立て器に持ち替える。ふるった粉類の1/5量ほどを加え、残りの卵を少しずつ加えて粉っぽさがなくなるまで手早く混ぜる。卵がなくなるまでこれを繰り返す。
(4)残りの粉類と牛乳を混ぜる
ゴムべらに持ち替える。残りの粉類を3~4回に分けて加え、そのつど底からすくうように動かし、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。牛乳20mlを加えて混ぜ、型に流し入れる。
(5)オーブンで焼く
180℃のオーブンの下段に入れ、様子を見ながら40~50分焼く。途中焦げそうになったらアルミホイルをかぶせる。竹串を刺して生地がつかなくなれば焼き上がり。 すぐに型をびんなどの上にのせて押し下げてはずし、側面のシートをはがす。完全にさめたらラップで包み、翌日まで涼しいところに置く。
(6)デコレーションする
スポンジを厚みを半分に切り、下のスポンジの断面にクリーム、ジャムを順に塗って上のスポンジをのせる。器にのせ、粉砂糖を茶こしを通してふる。
お手本の味は店にありますので、ぜひ食べにいらしてくださいね(笑)。
次回は1/5(金)更新です。ヴィクトリアケーキにも使っている『あまおうのジャム』についてお話ししたいと思います。
撮影よもやま話

19世紀初頭フランスのクレイユ窯の「ドデカゴナルプレート」とスタイリングしてみました。 なんだか怪獣みたいな名前ですがフランス語で十二角形のこと。そう、十二角形のプレートです。フランスアンティークの代名詞的存在となった八角形のオクトゴナルプレートに比べ角(かど)が多いデザインになるぶん、やわらかな雰囲気が魅力です。錫釉(すずくすり)を用いた磁器のように薄作りでとてもきれいな象牙色をしたこういったこの時代のフランス陶器は「ファイアンス・フィーヌ」と呼ばれ貴族やブルジョワたちに好まれました。200年以上前に作られたものとは思えないほど質感はきめ細やか、フォルムは上品で洗練されています。(文/池田講平)

2018年12月に川崎市にある中央卸売市場北部市場内に開店。アンティークショップ・アートギャラリーを兼ねた、市場には珍しいスタイルのカフェ。早朝から働く人がコーヒーを片手に手軽に食べられるようにと作った焼き菓子や、ツナサンド、フリットといった市場で仕入れる新鮮な魚介類を使ったランチが人気。
公式HP 公式インスタグラム
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟 45
営業日/月・火・木・金・土曜
営業時間/7:00~13:30
(ラストオーダーは13:00、土曜日のみ14:00)
ランチタイムは 11:45~ 休みは市場に準ずる(原則、水・日曜と祝日)
※一般のかたの市場への入場は8時から。来店の際は必ず上記HPかインスタグラムを確認してください。

料理・文/池田宏実 撮影・スタイリング/池田講平 編集/小林