町の不動産屋に勤務する美幸。同僚やお客さんとのエピソードが晩酌メニューにつながる展開も楽しいですが、人間ドラマとメニュー、どちらが先に決まるんでしょうか?
松本さん「おつまみの構成が見えると、物語が動きだすんです」松本:
8割方料理が先ですね。最初にシーズン全話のベースメニューを考え、そこからストーリーを組み立てる感じです。家でにぎりずしをやる回にしたい、となったら、刺し身って1切れじゃ売っていないしなぁ、と。じゃあだれかとシェアすればいい。そこで、ルームシェアしたいお客さんが登場する物語にしよう、という流れです。
藤代:勤務先が不動産屋さんっていう設定は、すごくいいなって思いますね。お客さんが毎回ゲスト出演するのもそうだし、シーズン2で美幸が住んだ部屋もそう。
家飲みを追求する美幸はキッチンにこだわるけど、こんないいアイランドキッチンの部屋なんて普通は手が届かない。もしほかの職業の人だったらちょっと無理があるけど、物件探しのプロだから見つけられた、とつじつまが合う。
松本:展開上の都合もあるけど、都会の高層ビルに勤務する主人公にしたくなかったんだよね。
晩酌って生活感とか、人と人との距離が近い〈町〉の感じが大事。町の不動産屋さんって、閉じられた空間じゃなく、だれもがふらっと入れる職場なんです。そこがドラマの世界観にマッチするな、と思ったから。
藤代さん「日常的な食材をいかにおいしいつまみにするか。そこがレシピの肝ですね」藤代:松本さんが大事にしている生活感、って登場する料理にも共通しますよね。「晩酌の流儀2」では、すしとかパエリアとかごちそうっぽいメニューが出てくるけど、ギリ家で作れる範囲で仕上げています。全体を通して言えることだけど、調味料も本格的すぎるものは使わないし、基本、美幸はスーパーで食材が買えるものしか作らないんですよね。
松本:
手軽に買えるもので作れる料理、っていうのは、このドラマのこだわりのひとつかな。今後3、4……とシーズンを続けていくことができたら、八百屋さん、魚屋さん、コンビニなど、食べ物にかかわる町のスポットをもっと描いていくのもいいな、と思っています。
「晩酌の流儀2」では、美幸が新たな部屋に引っ越したところから物語がスタートするのもおもしろいですね。
キッチンも、立地も、新居の条件は「最高の晩酌が実現できるか」。松本:引っ越しの理由が「
晩酌の高みを求めて」ってちょっと過剰でしょう? キッチンだけじゃなくて、坂道を歩く運動量とかまで計算して(笑)。ドラマの登場人物って「いるいる!」っていう人でも「いねぇよ!」っていう人でもダメで。
「いるかも?」っていうくらいが魅力的だと僕は思っているんですよね。「いるかも?」の中にも「いねぇよ!」寄りと「いるよね」寄りがあるんで、そこはさじ加減なんですが。美幸と支店長はちょっと「いねぇよ!」寄りかなぁ(笑)。
藤代:シーズン化されるドラマって、回を重ねるごとに登場人物の人間性が見えてきますよね。「晩酌の流儀2」になって、美幸のちょっとドジな部分が見えてきて、僕はそこが魅力的だった! 仕事もできるし、職場の人間関係も良好だけど、完璧じゃない人間味がある。そこもみなさんに見てほしいですね。
松本:美幸は一人晩酌をこよなく愛しているけど、他者をシャットアウトしているわけじゃない。そこは大事な部分かなと思います。
藤代:そうそう。あくまで
晩酌に集中したいための「一人」(笑)。外飲みでほかのお客さんがいると、あそこまで没頭できないと思う。一人暮らしだから、遠慮なく好きなものを作って、自由に晩酌できる。晩酌に没頭する迫力がドラマとしておもしろいし、素敵だなって思います。
松本:おいしいおつまみを作り、家で楽しむ一人晩酌。その時間を大切にする姿に共感していただけたらうれしいですね。
「晩酌の流儀」シリーズ、こうしてこだわりをお聞きするとより放送が楽しみに。
後編では現在放送中の「晩酌の流儀2」のフード現場でのエピソードや料理について語っていただきます。
〈PROFILE〉松本 拓(まつもと・たく)テレビ東京プロデューサー。「警視庁ゼロ係」シリーズ、「銀と金」「ゲキカラドウ」「ただ離婚してないだけ」など、話題作を手がける。今7月期は「週末旅の極意」も放送。
藤代太一(ふじしろ・たいち)俳優・フードコーディネーター。ドラマ「ミリオンジョー」「雪女と蟹を食う」、映画「喝 風太郎‼」などに出演。調理師免許を持ち、フードコーディネーターとして「ゲキカラドウ」「晩酌の流儀」シリーズに参加。
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