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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.93】『わたしの叔父さん』

2021.01.29


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
気付けばこの仕事を始めて10余年。違う仕事を選んでたらどうだったかなと、たまーに考えることがあります。皆さんもそんなとき、ありませんか?
今回の作品は、どんな人にもピンと来るところがあるはず。これは、国や性別を問わない、どう生きるかを選ぶ人生の話だから。デンマークの片田舎。牛を育てながら、介護が必要な叔父さんと暮らす女性。デンマークが抱える社会の変化を映しつつ、そこには幸せの形を押し付けない、優しいまなざしがありました。


初めの一言が発せられるまで、実に10分弱。その間、酪農農家をともに営むクリス(イェデ・スナゴー)と彼女の叔父さん(ぺーダ・ハンセン・テューセン)の間に一切の会話はありません。
毎朝、足が悪い叔父さんの着替えを手伝うクリス。朝食は、イングリッシュマフィンみたいなパンをカリッと焼いて、バターを塗る簡単なもの。テレビから流れるのは、難民キャンプや北朝鮮のミサイルなど、明るくはない内容のニュース。言葉を交わす必要がないほどに、2人が長い年月をかけてルーティンを築き上げてきたことが分かります。
叔父さん以外と触れ合う機会のほぼない生活をクリスがどう思っているのかは、彼女の表情からは読み取れません。クリスの父親は自殺したという説明が途中ありましたが、特にそのエピソードが強調されることはなく。


思い込みや決めつけは怖いですね。地方で変化のない生活に閉じ込められた若い女性が、解放されたいと奮闘する話?と思って見ていたら、どうも様子が違いました。彼女に変化をもたらす人物が現れるのは事実。クリスがかつて抱いていた獣医になるという夢を知っていて、自らの仕事を手伝わせる獣医師のヨハネス(オーレ・キャスパセン)。そして、クリスが教会で出会ったマイク(トゥーエ・フリスク・ビーダセン)は、彼女を気に入りデートへと連れ出すのです。
この映画は、安易な価値判断を押し付けようとはしません。クリスが叔父さんの犠牲になって夢をあきらめたわけでもないし、牧畜に勤しむ姿を都会の人と比べて「現代人が失った美しい生活」と称賛するでもない。叔父さんは少しずつクリスを解放させようと考えているし、ヨハネスとマイクが彼女に向ける気遣いも100%ピュアなもの。それぞれの人生に対する圧倒的な肯定を感じるのです。
ちなみに、クリスが行っている牛の飼育法は、政策により段階的に廃止されつつあるタイプのものだとか。1人の女性の人生の転機と、同じく転換期を迎えている社会を重ねているのかな?


後出しですが、デンマークでは必ずしも高校卒業と同時に大学に進学しなくてもよく、自分の人生のタイミングで学業に戻ることが可能なのだそう。社会制度の充実ぶりは、さすが北欧です。その事情を鑑みると、このストーリーの見え方は少し変わってきます。
それでも、人生には時機というものがあり、学ぶにも若い方がいいという部分はあると思います。だからこそ、クリスは悩むのですから。
確かなのは、彼女が映画の最後で下す決断は、誰の手も借りず彼女自身によるものだということ。そして、それを他人がとやかく言っても仕方がないということ。良い社会とは何だろうと考えるに、幸せの形を勝手に決めつけない社会と言えるのではないでしょうか。

「わたしの叔父さん」 
1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺 ほか全国順次ロードショー
配給・宣伝:マジックアワー
©2019 88miles


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

次回2/5(金)は「秘密への招待状」です。お楽しみに!

文/編集部・小松正和

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