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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.74】「マーティン・エデン」

2020.09.10


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
みなさん、映画の上映前の予告を見るのお好きですか? 正直「予告長いな~」って思うときもありません? 僕は頻繁に映画館に行くので、「あ、またこの映画の予告……(頭の中で完コピ)」というケースが多々あるのですが、時おり予告が素晴らしすぎて何回見てもいいなあと思う作品があるのです。この『マーティン・エデン』の予告編がまさにそれでした。時代性を排した不思議な色彩の映像、主演ルカ・マリネッリの鬼気迫る表情やセリフ、そしてイタリア語の切ない響き。
貧しい船乗りが文学への道へ進もうと奮闘するストーリーは、壮大にして、人間の悲しい性をこれでもかというほどあぶり出しています。


どこまでも遠く広がる海に面しながらも、港町はどこか悲しいイメージがある気がします。外の世界へと飛び出す者もいれば、そこに踏みとどまるしかない者、また夢破れてその地に戻ってくる者を想起させるからかもしれません。
今作は、アメリカ人作家ジャック・ロンドンの自伝的小説『マーティン・イーデン』を、カリフォルニアからイタリアの港町ナポリに舞台を移し、映画化したもの。
貧しい労働者地区で育ったマーティン(ルカ・マリネッリ)は、船乗りをしながらその日暮らしを続ける若き青年。裕福な家庭に育ち、教養を持つ美しいエレナ(ジェシカ・クレッシー)に偶然出会い恋に落ち、「あなた方を目指したい」と愚直な気持ちで作家になることを決意するのです。高校さえ出ていないマーティンにとって無謀な挑戦であることは明白。出版社に原稿を送り続けるも返送される日々が続き、それでもタイプライターのキーを叩く指は止めず、ついに作家として成功を収めるものの……。


楽しげに踊る少年少女、洗濯物が溢れる路地裏の住民の表情、旗を掲げる人々etc. ストーリーの合間にふいに挿し込まれる記録映像やマーティンの想像?が、この作品を単なるリメイクやオマージュ以上のものにしています。
ピエトロ・マルチェッロ監督が「20世紀は劇的な出来事が多く起こり、現代にも影響をもたらしている」と語るように、成功と挫折を経験するマーティンの姿が、人類が辿ってきた成功と過ちの道筋と重なって見えるのです。
作家として栄光を掴むも、何もかもが空しいマーティン。「目指していた場所の景色が思っていたものと違った」これもまた、誰しも経験したことがある感覚ではないでしょうか。
作家という選ばれし芸術家の苦悩の中に、人間が抱える普遍的な哀しさを感じました。


主演のルカ・マリネッリさんの演技というか目ヂカラがとにかくすごくって。エレナとの階級の差に苦しみながらも愚直に夢を追う若き日の眼差しと、何不自由ない暮らしを手に入れた後の退廃的な表情は、まるで別人のよう。それでいて、どこか狂人的な部分を感じさせるのは共通しているんです。「滅びの美学」という言葉がありますが、壊れていく後半のマーティンの方がなんだか魅力的で……。予告編で、マーティンが手をロウソクの前にかざしながら詩を口ずさむ場面があるのですが、そのイタリア語の響きが本当に美しい。イタリア語って、ベラベラベラーってまくし立てる印象がありませんか? 早口で陽気で、激しくて。そんなイメージを覆す、切なく美しい響きを聴くだけでも、この映画を見る価値があります。本編を見ると、これはなかなかショッキングなシーンだったのですが。予告編のみならず、いつまでもこの世界観に浸っていたい、そんな気分になる作品でした。


「マーティン・エデン」 9月よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 


次回9/18(金)は「マティアス&マキシム」です。お楽しみに!

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