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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.68】「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」

2020.07.30


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
毎日毎日、いろんなニュースが流れてきますね。物事にはいろんな側面があると頭では分かっていても、そのとき見た、聞いた情報をつい鵜呑みにしてしまうこと、ありませんか?
フランソワ・オゾン監督は、『まぼろし』『8人の女たち』など、ラブストーリーからサスペンス、エロティックなコメディまで、作品ごとに常に異なる作風を提供してきた、押しも押されもせぬフランスの巨匠。最新作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』のテーマは、なんと現在進行形で裁判が進んでいる実際の事件。
カトリックの神父が長年にわたって男子児童に性的虐待を働いてきたという衝撃的な事実は、フランスのみならずヨーロッパ社会を震撼させました。
この事件を題材にしながら、フィクションという形を取っている今作。1つの事件に対してのさまざまな側面を提示するとともに、被害者たちの葛藤、怒り、戸惑い……そして希望を丁寧に描いた作品です。


実際の裁判をテーマにした作品をこれまでも紹介してきましたが、今回は現在も係争中の案件ということで、当事者から上映差し止めの訴えもあったとか。
「プレナ神父事件」は2016年、彼に虐待を受けた当事者の1人が訴えを起こしたことに端を発し、その後次々に証言者が現れ一大事件へと発展しました。
第一声をあげたのは、妻と5人の子どもたちとリヨンに暮らすアレクサンドル(メルヴィル・プポー)。神父が今も子どもたちに聖書を説いていることを知り、20年以上の時を経て告発を決意します。
教区を管轄する枢機卿や教会のカウンセラーに相談したところ、訴えを聞き入れてくれたかのように見えたものの、なかなか神父を裁こうとしない彼らの態度にアレクサンドルは次第に不信感を覚えます。これこそが、数百年にわたって築かれてきた教会の隠ぺい体質。しびれを切らしたアレクサンドルは、ついにプレナ神父への告訴状を警察に提出するのです。


この映画、アレクサンドルを含め3人の被害者にスポットを当てているのがポイント。彼の訴えで警察は捜査を開始し、とある手がかりから被害者の1人フランソワ(ドゥニ・メノーシェ)に辿り着きます。フランソワは当初、「昔のことだ」と捜査に非協力的な態度を見せるも、だんだんと怒りを蘇らせ「沈黙を破る」という名の被害者の会を結成。その存在を知ったエマニュエル(スワン・アルロー)は、自分も証言をしたいと名乗り出ることに……。こうして、だんだんと被害者の輪が築かれていくのです。
妻や子どもに恵まれ確固たる社会的地位を築いているアレクサンドルに対し、神父からの虐待によって精神的な傷を負い、今も後遺症に苦しむエマニュエル。フランソワは自身の家庭を築きながらも、この一件に関しては実の兄との確執を抱えています。
「性的虐待の被害者」という言葉から、なんとなくエマニュエルのような人物を想像してしまいましたが、苦しみの形はそれぞれだという当たり前のことに気づかされました。


3人の被害者は仮名ですが、プレア神父はもちろん枢機卿や教会のカウンセラーは実名。
「彼らに関して明らかにする新事実はなかった」と監督が語るように、この映画の目的は事件の表面をさらうことではなく、あくまで被害者たちの心情を丁寧に追っていくこと。ニュースだけでは分からない真実を、監督は伝えたかったのだと思います。
神父の行いは許されることではありませんが、最も改めるべきは、彼の行動に気づいていながら何十年も隠ぺいを続けてきた教会の体質。古い組織を変えることは難しい。伝統や、長く続く習慣を大切にする日本にとっても、他人事ではないですね。
プレア神父は還俗(聖職から外れること)の扱いを受け、審理は現在も進行中だそうです。


「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:キノフィルムズ/東京テアトル
©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 

次回8/7(金)は「もったいないキッチン」です。お楽しみに!

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