2019.09.05
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
外国の映画ならどれでもそうですが、原語のセリフと字幕がやや違うことは多々ありますね。
たまにアメリカ映画やイギリス映画を見ていて、字幕は普通のセリフなのに観客の誰かがクスッと笑うときがあると、
「英語が聞き取れると今のセリフは面白いんだろうな~」と、一瞬のうちにひがみモードに(笑)。
国によって事情は変わりますが、『ヒンディー・ミディアム』を見ると、インドにおける英語の立ち位置が分かって面白い。
中間層で生きる両親が自分の子供をどうにかエリートにしようと、英語の壁、受験の壁に苦しみ、モラルを失っていくストーリーは、日本人にとっても他人事ではないはず。
キャストを変えたら邦画にできそうです。
マツコだけではないと思いますが、日本人の英語コンプレックスってすごい。
電車に乗ると英会話学校の広告がバンバン目に飛び込んできますが、内心「ほんとにみんなそんな英語必要なのか……?」と疑ってしまいます。
確かに転職の際など、TOEICの点数などは分かりやすいスキルの指針ではありますね。
とはいえ日本では、英語ができなくても食いっぱぐれるということはまずない。
インドでは英語の能力と社会での階級が比例するほど、上昇志向を持つ人にとって欠かせないものだそう。
ラージ(イルファーン・カーン)とミータ(サバー・カマル)の夫婦は、衣料品店の経営で成功を収めているけれど、ミータは学歴コンプレックスのかたまり。
一人娘のピアをどうしても名門校に入れたいがために、受験では居住地も審査対象と聞きつけて、なんと高級住宅地へお引っ越しするのです。
エリート家庭の人たちと仲良くしようとパーティを開くも、英語オンリーの彼らの会話(子供も)についていけず、さらにはラージとピアが音楽をかけて踊りだすと、知的な集団からは眉をひそめられてしまいます。歌って踊るのがインド映画の真骨頂なのに(笑)。
1つ勘違いをしていました。インドの人は頭が良いからみんな英語が話せるのだと。
インドの人たちはどうやって勉強しているんだろうと不思議に思っていましたが、この映画を見ると皆が皆話せるわけでもないみたい。
タイトルになっているヒンディー・ミディアム(HINDI MEDIUM)は、「ヒンディー語で授業を行う公立学校」のこと。対して英語で授業を行う私立の名門校をイングリッシュ・ミディアムと呼ぶそう。
どちらの学校に行くかで、はっきりとその後の道が分かれてしまうんですね。
有名なお受験予備校の講師いわく、妊娠3か月の段階で入塾の申し込みをする親も少なくないとか。この辺りのエピソードは、日本でもありそうだなって思いました。
居住地を変えてまで受験に挑んだラージ一家ですが、残念ながら結果は全滅。
問題はここからなのです。ある進学校が低所得者のための優先枠を設けており、ラージとミータはここに目をつけます。インドには実際にこういう制度が存在するそう。
経済的には余裕があるはずの彼らが取った行動は……。
後のないラージ&ミータ夫婦。今度は低所得者になりすますべく、貧困層が集まる地区に引っ越し(すごい行動力笑)、優先枠を狙う作戦に出ます。
制度を悪用してはいけないのは当然ですが、悪用できる制度自体が問題ですよね。
この人たちを責めることができるのかな……。
この映画、単にお金持ちと貧困層を比べるのではなく、中流階級の視点だから面白いのだと思います。
アッパーな人たちと接するには英語を話さなければならず、話題もアカデミックさや国際性が求められる。
一方で、貧しい地域で低所得者のふりをするには、英語の知識が少しでもあると逆に怪しまれてしまい、水さえ簡単に手に入らない状況に溶け込まなければならない。
2つのベクトルのギャップを見せることで、インド社会の圧倒的な格差が分かるんです。
ラージとミータは、貧困地域で図らずも隣人家族と交流を深め、彼らの一人息子も低所得者枠での進学校入学を望んでいることを知ってしまいます。
娘の幸せを願う気持ちと、自分たちより貧しい人たちのチャンスを不正によって奪おうとしていることへの罪悪感。このジレンマが映画のクライマックスです。
「なにがなんでも進学校!」と息巻く奥さんと、妻に突っつかれて知らず知らずのうちに受験戦争に巻き込まれていく夫。
典型的とも言える設定のドタバタ劇が面白くて、真面目なテーマだけど笑いながら見られちゃうんです。
最後はきちんと大団円を迎えるのも、インド映画の醍醐味!
欲を言えば、なぜこういう問題が起きてしまうのか、その原因も知りたいかも。
この映画、監督は変わりますが続編の製作が決まっているようなので、そちらも期待大です。
先日紹介したインド映画 『シークレット・スーパースター』と併せて見るのもおすすめ。
「ヒンディー・ミディアム」 9月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和
次回9/13(金)は「今さら言えない小さな秘密」です。お楽しみに!
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