お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
意外な展開や結末に『むしろちょっとモヤモヤしたい本』6選。目利きが選ぶ至極の衝撃作

今月のお客さまのご依頼は……
美しく終わる物語も好きだけど、たまには意外な展開や思わぬ結末などで「ちょっともやもやする」読後感を楽しみたいです。
今回の選書担当

俳優・エッセイスト 美村里江さん
俳優としてドラマ、映画、舞台等で幅広く活躍。無類の読書家でもあり、新聞や雑誌でのエッセイ・書評の寄稿や連載も多数。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
旅の本屋「BOOK246」、選書集団「BACH」を経て独立。オフィスや病院等、書店にとどまらないさまざまな場所のブックディレクションを手がける。
紹介する本 一覧
俳優・エッセイスト 美村里江さん
ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
俳優・エッセイスト 美村里江さん
おすすめ3選
セミに翻弄されて思わずうろうろ……

セミ/
著:ショーン・タン 訳:岸本佐知子 河出書房新社 1980円
この表紙に「無理やりスーツ着てる感がかわいい」と飛びついた虫好きの私でしたが、読後には何度か深く深呼吸を繰り返し、虚空を見つめてしまいました。独特の世界観で人気のショーン・タンですが、この絵本のハードパンチが私にはいちばん印象的でした。会社で頑張るセミ。ひどい扱いを受けるセミ。それでも頑張るセミ。ページを開くごとに「トゥク トゥク トゥク!」と〈何か〉が蓄積していき、嗚あ呼あ、やはりそんな展開……。とはいかず、「やられた!」「……ん?」「やられた、のか?」と、最後まで翻弄され、何度読み返してもセミは鮮やかに翻り、本質をつかもうとする読者は手を伸ばしてうろうろしてしまいます。ぜひとも存分に惑ってください。
スーツを着て、人間といっしょに会社で働くセミ。人間から幾度となく理不尽な扱いを受けながらも、17 年間コツコツまじめに働きつづけ――。
「事実」はひとつじゃない。その事実にハッとする

真綿の檻 既刊7 巻/
著:尾崎衣良 小学館 550円〜
『深夜のダメ恋図鑑』など、男女間のギャップを描いて笑わせてくれる作品も多い作者さん。コメディがうまい人はシリアスもピリッと決めてくれます。メインの人物を切り替えて、物事をA面とB 面から綿密に描いていくことにより、「事実」はこんなにも大きく変容するのかと驚かされます。夫婦や家族のやりとりや、その間に生じる日々の出来事もリアルなので、すっと胸に刺さってきてドキッとさせられることも数知れず。現実的に解消困難な未消化部分は容赦なく残し、過ぎた行動には因果応報の結末……。それでいてやわらかく着地していく物語たち。自分もこんなしなやかな視点を持ってみたいと感じる、生きるうえでの知恵も発見できる漫画です。
幼いころから親に尽くし、結婚後は夫に尽くす日々を送る、古風でおとなしい主人公・榛花(はるか) 。他者の言いなりかのように見られる人生だが、榛花にはある思いがあった。
予測不能な場所に連れていかれる……!?

むらさきのスカートの女 /
著:今村夏子 朝日文庫 682円
役者をやっていていちばんの弊害かなと思うのは、本を読んでいるときに「物語の結末が早めにわかるようになった」ことです。多数の物語を台本として読み、お客さまに結末を楽しんでいただくべく、反対方向へテンションをかけていく。そんな作業を繰り返すうちに、結末前に仕込んである〈逆張りのテグス〉に気づいてしまうように……。本・映画・ドラマ好きとしては無念な癖なのです。ところが、この小説にはまったくそういったことがなく、気づいたらポーンとひっくり返されていました。主人公の背中にぴったりくっついていたはずなのに、いつの間にこんな景色に!? 読後には、現実世界の自分の認識が大いに不安になってくる、不穏なおみやげもいただけますよ。
近所に住む「むらさきのスカートの女」が気になってしかたがない〈わたし〉は、自分と同じ職場で働くよう彼女を誘導し――。芥川賞を受賞したベストセラー小説。
ブックディレクター・good and son代表
山口博之さん
おすすめ3選
「意外な結末」ならこの人におまかせ!

星新一 ショートショートセレクション ねらわれた星/
作:星 新一 絵:和田 誠 理論社 1540円
生涯で1000 編以上のショートショートを書いたといわれる星新一が、このテーマにぴったりじゃないでしょうか。意外な展開、思わぬ結末がない作品のほうが少ないと思われるほど、星新一の物語は驚きと(ブラック)ユーモア、皮肉に満ちています。文庫も多数出ていますが、このシリーズは漢字に振り仮名が振られ、子どもでも読めるようになっています。善と悪を相対化させて、現実社会の矛盾を突きつけてくる星新一の作品を通して、子どもと話をするのもおもしろいかもしれません。勧善懲悪の善悪を単純化すると見えなくなるものがあるということを、こんな短い話で提示してくるすごみ。読んでも読んでも作品があるので安心してどんどん読んでください。
表題作「ねらわれた星」ほか、「おーい でてこーい」「ボッコちゃん」「気前のいい家」など、ショートショートの名手・星新一選りすぐりの全19 編を収録。
美しいだけじゃない「人生の最期」を読む

人間臨終図巻〈新装版〉 全4巻/
著:山田風太郎 徳間文庫 755円〜
人生の終着点たる「死」についてまとめたこの本は、生きた人間の物語は美しいものばかりじゃないことを示しています。英雄や武将、政治家、作家、芸術家など923 人を、15 歳から100 歳超えまで、亡くなったときの年齢ごとにどのように死んでいったのかをまとめた一冊。文庫で全4 巻、1 巻は15 歳から49 歳まで。36 歳で亡くなったモディリアニは生前まったく評価されませんでした。死後になってひつぎに群がる人々を見て、ピカソは「見たまえ、かたきはとれたよ」と言いました。48歳で亡くなった歌人、劇作家の寺山修司は絶筆となったエッセイで「墓は建てて欲しくない。私の墓は、私のことばであれば充分」と書き、死んでいきました。人生という物語の結末は想像を超えます。
ジャンヌ・ダルク、石川啄木、吉田松陰、マリリン・モンロー……。あの人は何歳で、どのように生を終えたのか。作家・山田風太郎が、923 人の死にざまを切り取る。
あらためて読んでみて。有名な書き出しの、その結末

吾輩は猫である/
著:夏目漱石 新潮文庫 693円
小学生のころに始まり、人生で何度か『吾輩は猫である』を読んできましたが、私だけでしょうか、なぜか毎回結末に驚いてしまいます。「吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ」というだれもが知っている冒頭に対して、結末を読むたびに「あぁ、そうだった」と終えるのです。批評的とさえいえるほど、冷静に人間世界を眺める猫。その生き方とのギャップに驚いているようでもありつつ、達観する様子自体はここまで読んできた猫ならありえるかもしれないという思いも、同時に浮かんできます。答えは書きませんが、結末は思い出しましたか? 久しぶりに読んでみてください。決して結末からではなく、頭から。
明治38 年発表、今なお読み継がれる文豪・夏目漱石最初の長編小説。中学教師・苦沙弥(くしやみ)先生の家に迷い込んで飼われている猫の視点を通じ、人の世を風刺的に描く。
⃝商品の価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。
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イラスト/河原奈苗
















