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世話焼きな本屋さん

お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。

この夏読みたい大人向けの本6選/美村里江・山口博之が選ぶ、夏が楽しくなる書籍って?

ここ数年、暑さがつらすぎて夏を楽しめません。
この夏はわくわくしながら過ごしたいのですが…… 。

今回の選書担当

俳優・エッセイスト 美村里江さん

俳優としてドラマ、映画、舞台等で幅広く活躍。無類の読書家でもあり、新聞や雑誌でのエッセイ・書評の寄稿や連載も多数。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん

旅の本屋「BOOK246」、選書集団「BACH」を経て独立。オフィスや病院等、書店にとどまらないさまざまな場所のブックディレクションを手がける。

紹介する本 一覧

俳優・エッセイスト 美村里江さん

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん

俳優・エッセイスト 美村里江さん
おすすめ3選

成瀬は天下を取りにいく

キツネ山の夏休み/
著:富安陽子 あかね書房 1540円

近年の夏の暑さ、尋常ではないですよね。私も依頼者さんと同じく、楽しさを見いだすのがむずかしいと感じております。しかしご安心ください。本の中の夏はまばゆく、とことん楽しさだけを感じさせてくれます! 本書は児童文学ですが、毎夏必ず読むほどに私のお気に入りです。夏休みに訪れる田舎のおばあちゃんの家、歴史ある町の神社やお祭り。そこに猫股(ねこまた)や化けギツネがからんで事件が起こるのですから、おもしろくないわけがありません。妖怪と少年少女の交流を描いた魅力的な物語は多く存在しますが、本書の童話的部分と、リアリティ部分のバランスは必読です。ぜひ主人公とともに、夏の日ざしや夜風を浴びてください。

夏休みを祖母の家で過ごすため、弥(ひさし)は一人稲荷山へ。そこは〈108 匹のキツネに守られている〉という伝説がある町で――。夏の不思議な体験を描くファンタジー。

サルデーニャの蜜蜂
著:内田洋子 小学館文庫 737円

暑すぎてお出かけも危険、そのうえこの円安では、物理的にも精神的にもはるか遠い海外……。そんなときでも、本は軽々とあなたを連れ出してくれます。日伊往還40 年を超える内田さんのエッセイはどれもおすすめ。ジャーナリストとして磨かれた描写力から浮かび上がる、イタリアの季節、天候、風景。特定の地域とそこに暮らす人々、食事。自分もその地に立っているような心地になります。健康で長命な人が多い特異なエリアを「ブルーゾーン」と称しますが、ギリシャの島や沖縄と並び、サルデーニャ島も該当。100 歳超えの健康な高齢者が多いそうですよ。その観点でも楽しんでみてください(緻密な筆力で空腹必至なので、その点だけご注意を)。

サルデーニャ島の養蜂家一族の知られざる生活、ミラノの富裕族夫妻の暮らしと屋敷での驚きの光景など、イタリアに生きる人々のドラマを描く全15 編。

かわいそうだね?

一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集
著:澤村伊智 宝島社 1650円

科学的な実証は困難なものの、体感温度がぐっと下がる、いい方法があります。それは……ホラー作品。苦手なかたも多いのですが、依頼者さんはいかがでしょう? じつはこのジャンルには名作が多いのです。といいますか、名作と駄作にこんなに距離があるジャンルも珍しい。なぜならホラーは、すべると真逆の「コメディ」に転落する危うい性質を持っているんですね。「感動させようとしてすべる」より、「怖がらせようとしてすべる」ほうが作品として致命的なんです。結果、人気ホラー作家は辣腕の名手ばかり。澤村さんの作品は読みやすく、かつ現代的な感覚が生かされております。まずは一話数ページの超短編から、〈読む冷感〉をどうぞ。

善意で引き受けたバイト仲間の人生相談。しかし、しだいに雲行きが怪しくなり――「さきのばし」ほか、日常が恐怖に染まる戦慄のショート・ショート集、全21 編。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
おすすめ3選

さみしい夜にはペンを持て

焼肉大学
著:鄭 大聲(チヨン デソン) ちくま文庫 858円

暑い中、この「世話焼きな本屋」へご来店ありがとうございます。本でも探して涼んでいってください。夏場元気を出すには、焼き肉を食べるのがいちばんですよね。モランボンで焼き肉のたれ「ジャン」を開発し、人気店「焼肉トラジ」顧問の経歴も持つ著者による本書は、韓国焼き肉を食文化として歴史的に解説した一冊。今では韓国=焼き肉が当たり前ですが、おなじみの大根のカットゥギ(カクテキ)は、王の娘が父の関心を引くために当時では珍しい四角形にしたという説も、「センマイ(牛の胃)」が朝鮮からの使節団を迎えるときに出された特別な料理だったことも知りませんでした。これを読めばこの夏、何度でも焼き肉を楽しみたくなるはずです。

ユッケにカルビ、チヂミにサンチュ、わかめスープにクッパ……。焼き肉店でおなじみのメニューを、歴史や文化の側面から解説する焼き肉の書。

元気になれそう 映画「魔女の宅急便」より

カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」
著:室橋裕和 集英社新書 1320円

こう暑いと食欲がなくなってきますね。でもなぜ、食べたら余計に汗をかくのに「カレー」を食べたくなるのでしょう。せっかく食べるなら本場のインドカレーをとお店に行ったら、働いている多くのかたはネパール出身ということがよくあります。大本は〈ムグライ料理〉という、ムガル帝国の宮廷料理であるバターチキンカレーとナン、タンドリーチキン。こうしたどこも同じメニューが並ぶ〈インネパ〉とも呼ばれるお店。それらはいつできて、ルーツはどこで、どうやって現在の姿になったのか。その歴史と秘密、抱える闇までを探るこの本。ときに日本の経済政策に翻弄されながらも店を増やし、日本人の胃袋に欠かせなくなったインドカレーで夏を乗り切りましょう。

今や日本のあらゆる町で見かけるインドカレー店。こんなにも増えた理由は? メニューが似ているのはなぜ? 身近な存在の裏側をひもとくノンフィクション。

スキップとローファー

POOL 世界のプールを巡る旅
著:クリストファー・ビーンランド 訳:大間知知子 青幻舎 3300円

夏に涼しいところで本を読むのも最高ですが、ときどきは夏の暑さを満喫するのが、粋な季節の味わい方。なので、冬でも行ける室内プールではなく、この本を見てぜひ屋外プールに行ってください。アイスランドの「ブルーラグーン」やドイツの廃鉱跡地の工場を利用したプール、ヨーロッパで市民に愛される〈リド〉と呼ばれる屋外プールなど、世界の屋外プールを集めた本書。最も見ほれるのは、インスタグラムでもよく見かける、海とつながるようにつくられた世界のプールたちです。たとえばポルトガルの建築家・シザによる名作「潮のプール」やオーストラリアの「ボンダイ・アイスバーグ・クラブ」など、プール目的で旅の計画なんてどうでしょう。

世界中から厳選した、美しく、個性的な屋外プールを収録した写真集。建築やデザインの見どころ、世界のスイマーへのインタビュー、屋外水泳史も楽しめる。

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イラスト/河原奈苗

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