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物盗られ妄想・徘徊・ゴミ出しトラブル……。認知症が悪化する父に、離れて暮らす私ができることは?

父の認知症の症状が進み、ご近所にも迷惑をかけるように。どう対応したらいいでしょうか。

実家は、認知症の父と母の二人暮らし。おもに母が父の介護をしています。最近認知症が進んできたのか、ゴミ出しの場所を間違えて苦情が来たり、帰り道がわからなくなって家のまわりをうろうろしたり。「隣の人が家の中に入って物を盗もうとした」という物盗られ妄想まで……。近隣の人には父が認知症であること、迷惑をかけていることを謝りに回っていますが、私は車で1時間以上かかるところに住んでいるため、月に一度くらいしか様子を見に行けません。どう対応したらいいのでしょうか。
(55歳・女性)

阿部知代さんの回答

「親も自分も責めない」ことが大事。頼れるものはすべて頼って、チームでお父さんを見守りましょう。

 私も、まったく同じ状況でした。母が認知症になり、兄と私は同居してなくて父が一人で介護することに。最初は「物忘れが増えたな」程度だったのが、同じものをいくつも買ったり、鍋を火にかけたまま忘れたり。物盗られ妄想※1も出てきて「このままでは父も共倒れしてしまう」と、父を説得し母を病院に連れて行くと、すぐ地域包括支援センター※2と連携できてケアマネジャーがつき、いろいろなサポートも受けられるようになりました。
 認知症への対応は家族の努力だけでは限界があります。行政や介護サービスは、こういうときのためにあるもの。どんな小さなことでも、ためらわずに相談してみてください。お父さまのため、そして何より介護されているお母さまのために。
 ご近所のかたには、顔写真と連絡先を添えたメモを渡して、「見かけたら連絡してください」とお願いしてはどうでしょう? 「迷惑をかけて申し訳ない」と思うかもしれませんが、介護はだれもが通る道。意外と快く協力してくれるものです。
 私も月に1〜2回ほどしか帰省できなかったので、不安な気持ちは痛いほどわかります。でも離れているからこそ、小さな変化に気づいたり、冷静に判断できる立場でもあります。大切なのは、「親を責めない」「自分を責めない」こと。介護のプロ、ごきょうだい、ご近所のかた、頼れるものは全部頼って、「チーム」でお父さまを支えていってくださいね。

※1 物盗とられ妄想
認知症の症状のひとつで、自身の所持品が周囲の人に奪われたと信じ込む心理状態をさす。物盗られ妄想が発生する背景には、認知機能の低下、記憶障害、感情の変化など、複数の要因が複合的に関与している。本人にとっては真実であり、不安や怒りの感情も強く出るため、否定せず落ち着いて対応することが大切。

※2 地域包括支援センター
介護・医療・福祉などを総合的に支援する公的窓口。高齢者本人だけでなく、家族の相談にも対応。市区町村が設置し、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が連携して、介護予防や認知症への対応、在宅介護の支援を行う。

お悩み回答者 阿部知代さん

1963 年、群馬県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、フジテレビに入社。アナウンサーとして「FNNニュース」など多くの報道番組に携わる。「なるほど!ザ・ワールド」「笑っていいとも!」などバラエティ番組でも活躍。2015 年に報道局に異動。初の句集『それとも雨』(編)が発売中。X @abechiyo_Ho

山田悠史さんの回答

感染症や薬の副作用などで、混乱や妄想が起きる場合も。まずは体調チェックと薬の見直しを。

 「最近、認知症の症状が急に進んだ気がする」といった場合、じつは別の原因が隠れていることが少なくありません。たとえば肺炎。高齢者、特に認知症のかたは、「熱が出る」「せきが出る」といった典型的な症状ではなく、突然の混乱や妄想といった形で表れることがあります。インフルエンザやコロナなどの感染症も同様で、体調の変化が「認知症の悪化」と見なされてしまうことも。また、服薬にも注意が必要です。市販の風邪薬やアレルギー薬には、認知機能に影響する成分が含まれていること※3があり、薬を中止しただけで症状が改善するケースもあります。
 認知症のかたは、よく「ストレスを受け止める器が小さくなっている」と表現されます。便秘や頭痛などの小さな不調でも、「器」から水があふれるように混乱が生じやすいのです。この解決のカギが「便秘薬」や「痛み止め」だった、ということもあります。まずはかかりつけ医に相談し、体調や薬のチェックをすることが第一。
 次に考えたいのはお母さまの負担軽減です。介護者が疲れていると、対応が後手になってしまいがち。定期的にビデオ通話などで気持ちを聞く、いっしょにデイサービスやショートステイの利用を検討するなど、遠方にいてもできるサポートはたくさんあります。医療チームやケアマネジャーなど専門職との連携体制を整えること。そして、お母さまを支える環境づくりが、今取り組める最善の対応だと思います。

※3 認知機能に影響のある内服薬
風邪薬(総合感冒薬)やアレルギー薬に含まれる抗ヒスタミン成分(ジフェンヒドラミンなど)は、脳の神経伝達物質「アセチルコリン」の働きを弱め、認知機能に悪影響を及ぼすことがある。

お悩み回答者 山田悠史さん

米国老年医学専門医・同内科専門医・医学博士。マウントサイナイ医科大学(米ニューヨーク)老年医学・緩和医療科アシスタントプロフェッサー。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。2015 年に渡米。現在は高齢者医療を専門に診察や研究に従事している。最新刊は『認知症になる人 ならない人』(講談社)。

(『オレンジページ』2025年10月2日号より)

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取材・文/太田順子 イラスト/松元まり子