
「けえけえ(食べな食べな)」「くうくう(食べる食べる)」盛岡在住の作家・くどうれいんさんが、おいしいもの好きなみなさんにお届けする、食エッセイです。
【くどうれいん書き下ろし食エッセイ連載】vol.7 ネオねぎとろ
大学時代に好きだったイタリアンレストランに、「洋風ねぎとろ」というものがあった。まぐろのたたきを大きな皿に平たく盛り、そこに小ねぎを切ったものが覆うようにのっていて、オリーブオイルが回しかけられている。トーストされた薄切りのバゲットにそれをのせていただくのだけれど、これがもう、ねぎとろ好きのわたしにはたまらないおつまみだった。にんにくやレモンやバルサミコ酢のような味がして、けれどねぎとろで、あらまあおしゃれになっちゃって! という美味しさで、家でも勘で再現して何度か作った。
東京に疲れた日の夜はファミレスでもコンビニでもなくスーパーのお惣菜がいちばんいい。先日東京出張で疲れ果てて、夕飯をお惣菜で済ませようとしたときに「とろたくきゅうりごま醤油和え」というものと出会った。その名の通り、まぐろのたたきとたくあんの細切りと厚めのきゅうりの輪切りが入っていて、ごま油醤油のソースが纏(まと)わっている。パンチがある中華風のソースがユッケのような味わいで、たくあんときゅうりの歯触りもうれしく、とても気に入って翌日は外食の予定をやめて同じものを買いにスーパーへ行った。
ねぎとろはご飯とセットで食べるものだと思い込んでいたわたしにとって、この二つの出会いは衝撃的だった。わたしは大好物のねぎとろの可能性を、まだなにも知らないのかもしれない。ご飯の上にのせるだけではない、あるいはお寿司だけにとどまらない「ネオねぎとろ」がまだあるのではないか。そう思っていたはずなのに、ねぎとろがあるとついどんぶりで食べたくなってしまい、なかなかいろいろ試すことはなかった。夫が出張で不在となる数日間ひとりで何を食べようかと鮮魚コーナーを見ていて、割引のねぎとろにその野心を思い出したのだ。それで、せっかくならばとことんおしゃれなネオねぎとろを作ってみることにした。
どんぶり二人前くらいのねぎとろをボウルに入れ、にんにくチューブを二センチほど、お醤油をちょろっと、オリーブオイルをぐるり。レモン汁をびゃーっとして、混ぜる。このために買ってきた柴漬けをたっぷりと入れる(とろたくを食べるたびに、もっと甘くない漬物のほうが合うのではないかと思っていたのだ)。実家の庭からどっさり貰(もら)ってきたディルを千切りにして入れる。茗荷も二本、薄い輪切りにして入れてしまおう。折角なので、いただきものの粒こしょうの塩漬けも!

そうして出来上がった「とろしば茗荷ディル」とでも言うべきものは、見た目がなかなかにショッキングであった。まぐろたたきのピンク色に柴漬けのどぎつい紫が入り、毛のようにディルの緑がつんつんと生えていて、なんというか、ややグロテスクになってしまった。おそるおそる焼き海苔で巻いて食べてみると、これがなんとまあ感動的な美味しさで笑ってしまう。うまい。でも見た目がこわい。薬味を多く入れたことでより前菜感があり、ディルと茗荷が案外喧嘩せず言うなれば「カルパッチョのなめろう」のような新競技が成り立っている。これはいいぞいいぞ。盛り付け方だけ考えなおせば……。ネオねぎとろの研究はまだまだ続く。

著者プロフィール

くどうれいん
作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に『氷柱の声』(講談社)、『桃を煮るひと』(ミシマ社)など。エッセイ集『湯気を食べる』(小社)は、第12 回料理レシピ本大賞【料理部門】「入賞」を受賞。

文/くどう れいん イラスト/秋山 花 デザイン/広瀬 匡(FEZ)











