お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
年末年始に読みたい『仕事に役立つ発想力』を磨ける本6選/選書のプロが推薦!

今月のご依頼は……オレンジページ社長から!
さらに充実した誌面をお届けできるよう、仕事に役立つ「発想力」が磨ける本をお願いします。読者にとっても、刺激のある本だとうれしいです!
今回の選書担当

俳優・エッセイスト 美村里江さん
俳優としてドラマ、映画、舞台等で幅広く活躍。無類の読書家でもあり、新聞や雑誌でのエッセイ・書評の寄稿や連載も多数。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
旅の本屋「BOOK246」、選書集団「BACH」を経て独立。オフィスや病院等、書店にとどまらないさまざまな場所のブックディレクションを手がける。
紹介する本 一覧
俳優・エッセイスト 美村里江さん
ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん
俳優・エッセイスト 美村里江さん
おすすめ3選
一本のナイフが見せる発想の多様な切り口

ふしぎなナイフ/
作:中村牧江、林 健造 絵/福田隆義 福音館書店 1320円
社長様、いつもお世話になっております。社員さんの生活を支え、読者さんのために質のいい情報を発信しつづける……。私の大好きな本が少しでも力になるとうれしいです。年を重ねるほど、この本の格好よさにしびれます。絵本はアイキャッチに富んだ愛想のいい表紙が多いなか、木目に何の変哲もないナイフを置く発想と覚悟。しかも、絵本的なおもしろさもたっぷりあります。硬いはずのナイフが「ねじれる」「きれる」、最後は「のびて」「ちぢんで」「ふくらんで」……。ナイフの形状が変化するだけですが、不思議なものでモチーフが単純であるほど、人間の脳はそこに物語を見いだすようです。情報過多の現代、まず頭のリセットの一冊としていかがでしょうか。
描かれているのは、洋食を食べるときに使うナイフが一本だけ。ごく普通のナイフに
見えるのに、ページをめくるごとにありえない姿に変化する不思議な絵本。
読書名人に教わる本の読み方・使い方

多読術/
著:松岡正剛 ちくまプリマー新書 946円
編集部のみなさんはたくさんの資料や原稿に目を通しつづける日々かと思われますが、じつは役者も別人を演じつづけるため、日ごろの素材収集が欠かせません。映像作品観賞と並び、ジャンル不問で本を多読します。「多読」と聞くと時間がかかり、業務の負担になりそう……というイメージがよぎりますが、読書の名人にかかれば「こんなに楽しく・深く・際限なく、本から吸収できるのか!」とあらためてうれしく驚けることうけあいです。私がとくに好きなのは、〈本は既に書きこみがしてあるノートである〉という考え方です。本はどこまでも自由に「使える」もの。たくさんの遊具を使って広い海を泳ぎ回る感覚で、気楽に情報探索を楽しんでください。
著述家として活躍した読書の達人・松岡正剛が「多読」のコツを伝授。自分に合った読書スタイルや読書の楽しみを知り、自然とたくさんの本が読めるようになる一冊。
著者の豊かな「ひきだし」に注目

ひきだしにテラリウム /
著:九井諒子 イースト・プレス 836円
藤子・F・不二雄先生による「SF」の定義「少し・不思議」を感じさせる、ひねりのある明るいユーモアに満ちた短編集。著者である九井先生の代表作『ダンジョン飯』の連載開始当初、同じく九井ファンの友人とすごい作品が始まったと興奮しつつ、「あのていねいな作画を保てるのか」と心配しました。物語の構成はもちろん、あまりに綿密な素晴らしい絵なので、初の長期連載を走りきれるのかという余計なファン心です。実際は、巻末のおまけ漫画含め圧倒的な完成度で完走。本書含む初期短編集を見返せば、先生の強み「好き」と「ひきだし」の多さをあらためて実感します。この2つが土台にある人こそ「発想しつづけられる人」ではないかと。私のあこがれです。
コメディから昔話、ファンタジー、SFまで。漫画家・九井諒子が縦横無尽な題材と豊かな筆致で描く、ショートショートコミック33 編を収録。
ブックディレクター・good and son代表
山口博之さん
おすすめ3選
「ニッチ」な世界のさらに奥にヒントが

ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント/
著:川内イオ freee出版 1760円
社長、いつもお世話になっております。新しい視点、新しいアイディアは、いつもオルタナティブで、ニッチなところから出てくるのではと思っています。そんなまだ日の目を見ていない潜在的な分野やマーケットのなかでも、さらにニッチな〈ウルトラニッチ〉を取材したのは、世界を明るく照らす稀まれな人を探し求める「稀人ハンター」の川内イオ。動物専門の義肢装具士や木工のスプーン作家、世界でも数少ない、メーカーなどに属さず個人で時計を作る「独立時計師」など、多くは自分が始めたことがうまくいくかわからないままに続け、求めていた人に届きはじめていった人たち。流行りを追うのではなく、まだ少ない声を聞くことがこれからの発想のきっかけになるはずです。
「ニッチ」をさらに絞り込んだ「ウルトラニッチ」な視点で市場を開くパイオニアたちを紹介。それぞれの物語とともに、スモールビジネス経営の実際に切り込む。
高校生たちの熱量が刺激に!

RIOT 既刊1〜3 巻/
著:塚田ゆうた 小学館 各770円
年々雑誌の売り上げは厳しくなっていますが、『RIOT』は雑誌が人を救うということへの希望を見いだし、「表現したい」という人の欲望に希望を託したくなる漫画です。ある田舎町の高校生、シャンハイとアイジにとって、雑誌『POPEYE』に載る好きなものに忠実で、好きなものを通して表現をする人たちがあこがれ。そこで自分たちの表現欲求の形としてDIYな個人出版物〈ZジンINE〉を作り、売りはじめます。写真や文字を切り貼りした紙をコピーして折り、ホチキスで留めただけだけれど、大きな声が「真実」として流通するSNSとは違う、小さくも確かな声のメディアとしての紙媒体。社長をはじめ、編集部一人一人の偏愛と実直な表現こそ、紙媒体に光をもたらすかもしれません。
書店もレコード店もないけれど、情報はスマホで手に入る。そんな令和の田舎町に生きる高校生が自主制作の紙媒体〈ZINE〉に情熱を燃やす、文化系青春譚。
何気ない風景にも注意を向けてみる

喫茶店の水/
著:qp 左右社 2860 円
喫茶店で「いらっしゃいませ」の声とともに置かれる一杯の水を撮りつづけた写真集。撮影はできるだけ窓際の席、ほぼ同じ角度、夏が多め。透明なグラスの透明な水に透けた背景はゆがみ、夏のグラスはうっすらと全体が白っぽくぬれて抽象画のようになります。「水をじっと見ていて、なんて美しいんだろうと切実に思った。なんというか、これ以上はもうないというか。もうこれ以上に美しさの先はないような気がした」と著者が語るように、コップを置いた店員さんは何も意識していないであろういつもの風景が、ひとたび注意を向けることで美の対象になります。あまりに見慣れた風景の中に、皆に愛される美を見つけることを、まだ見ぬ読者に届けるヒントとして。
有名な純喫茶に今どきの喫茶店、旅先で出会った喫茶店まで。著者が撮りためた400 店以上の喫茶店の「水」の写真から、85 枚を厳選したフォトエッセイ。
⃝商品の価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。
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イラスト/河原奈苗
















