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世話焼きな本屋さん

お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。

『引っ越さなくても、新生活気分が味わえる本』6選/ブックディレクターと俳優が選ぶ

「新生活」。私の暮らしに大きな変化はないけれど、ほかの街や住まいでの生活を想像して楽しみたいです。

今回の選書担当

俳優・エッセイスト 美村里江さん

俳優としてドラマ、映画、舞台等で幅広く活躍。無類の読書家でもあり、新聞や雑誌でのエッセイ・書評の寄稿や連載も多数。

ブックディレクター・good and son代表 山口博之さん

旅の本屋「BOOK246」、選書集団「BACH」を経て独立。オフィスや病院等、書店にとどまらないさまざまな場所のブックディレクションを手がける。

俳優・エッセイスト 美村里江さん
おすすめ3選

成瀬は天下を取りにいく

ふしぎな木の実の料理法(こそあどの森の物語 1)
作・絵:岡田 淳 理論社 1870円

新生活! いい響きですよねぇ。私も間取り図を見て、引っ越しを妄想するのが趣味の一つです。児童文学には心躍る間取り図が多く、特に本書は格別。元図工教師の作者さんが挿絵も担当、その絵からキャラクターの生態と性格、生活ぶりがばっちり伝わってきます。お話も素敵。たいへんな人見知りのスキッパー少年のもとに、博物学者で世界を飛び回るおばさんから謎の「木の実」が届きます。しかし食べる方法を書いた手紙の一部が消えていて、だれに何をきけばいいのかわからない。しかたなく、これまでつきあいを避けてきた森の住人たちにきいて回り……。住んでいる街や住まいは同じでも、新生活や冒険は心の中から始まるのかもしれません。

こそあどの森に住む無口な少年、スキッパーのもとに届いた〈ポアポア〉の実。その堅い木の実の料理法を知るため、スキッパーは森の住人を順番に訪ねる決心をする。

ものがたりの家 ―吉田誠治 美術設定集―
著:吉田誠治 パイ インターナショナル 2420円

右の間取り図に続き、空間を感じられる家の設計図も見てみましょう。どれも空想の家や住人とは信じられないほど、緻密な設定にワクワクします。「夢想家のツリーハウス」はまだ、現実世界の地続きのようでしょうか。しかし「憂鬱な灯台守」が拾った、大腿骨ほどの漂流物(嵐が近づくと青白く光る)の正体は? 「水没した都市の少女」は生き延びられるのか。「見捨てられた駅の青年」よ、何があった……。中型の竜を飼うスペースを確保する方法を真剣に考え出し、はっと現実に戻ります。古今、和洋、硬軟無尽の没入感、ぜひ味わってください。昨年のクリスマスには、赤色の背景に雪が積もった家々の限定カバーも登場。ロングセラーとして贈り物にも推せる一冊です。

背景グラフィッカー・吉田誠治による、物語に出てくるかのような〈空想の家〉33 点を収録。夢やユニークさが詰まった家のイラストと、その設定を詳細に描く。

かわいそうだね?

北北西に曇と往け 既刊1~7 巻
著:入江亜季 KADOKAWA 各792円

読者さんが今いちばん行きたい国はどこですか? 私はアイスランドです! 以前は「どこの国も素敵」くらいのぼんやりした海外欲求でしたが、この漫画でシュッと一国にフォーカスされました。設定と物語がおもしろいのはもちろん、なにより画力から感じられる「アイスランドの風土」が圧倒的。大地を吹き抜ける冷たい風も、火山の恩恵としての温泉も、まるで現地で体感しているよう。特に主人公の親友が訪ねてくる2 巻は、アイスランド観光を疑似体験できます。新しい大地の柔らかな草や苔こけを食べて育った羊の肉、いつか現地でいただきたいと計画中。読者さんも「いつか実現したい気持ち」の灯をともして本を楽しむと、より多くの情報を手繰れると思いますよ。

主人公・御山慧の3つの秘密、車と話せること、美人な女の子が苦手なこと、そして「探偵」であること――。アイスランド島を舞台に、探偵活劇を繰り広げる。

ブックディレクター・good and son代表
山口博之さん
おすすめ3選

さみしい夜にはペンを持て

東京裏返し 社会学的街歩きガイド
著:吉見俊哉 集英社新書 1078円

人気番組「ブラタモリ」をはじめ、テレビでもSNSでもたくさんの街歩きコンテンツがつくられ、土地ごとの魅力がさまざまな角度から紹介されています。本書は都心北部の上野や秋葉原、本郷、神保町、兜町、湯島、谷中、浅草、王子といったエリアを社会学的な目線で歩き、読み解いた一冊。著者は東京大学名誉教授で、都市の盛り場などをフィールドとした社会学者。街歩きについて「街歩きの本質は、日常とは異なる物語的時間を、日常的な都市風景のなかで生きること」だといいます。空間的な移動だけでなく、同時に時間的な移動もしてみる。高速で入れ替わり、高層化する都市にあって、古さ、低さ、遅さを大切にした街の顔と記憶を歩いて探してみてください。

社会学、都市論などを専門とする著者が、7 日間の〈社会学的〉東京旅を提案。都心北部を中心に、歴史的・社会学的な視点で東京を眺め、豊かな時間を取り戻す。

元気になれそう 映画「魔女の宅急便」より

パークナイズ 公園化する都市
編:Open A、公共R不動産 
著:馬場正尊、飯石 藍、小川理玖、菊地純平、木下まりこ、中島 彩、和久正義 学芸出版社 2640円

編者は、建築設計を中心に地方都市の再生なども手がけるOpen Aと、公共物件や公共空間の活用を推進する公共R不動産。本書ではOpen Aが手がけてきた、公園に異なる何かを組み合わせる「公園+○○」のプロジェクトを紹介。公園ではない場所を公園と見立てることで開ける都市の風景を、「パークナイズ(=公園化)」と名づけ、これからの公園の可能性を提案しています。住みたい街の条件に「近くにいい公園があること」を挙げる人は多いですが、本書が提案するのは、公園という場が活性化することによっていかにエリアがおもしろく、豊かになっていくかということ。暮らす人々がいい顔をしている、そんな想像をしてしまうプロジェクトばかりです。

公園×駅など、昨今増加中の「パークナイズ」=都市の公園化の事例やアイディア集。

スキップとローファー

吉祥寺だけが住みたい街ですか? 全1~6 巻
著:マキヒロチ 講談社 電子書籍で発売中

双子の姉妹が経営する吉祥寺の老舗不動産屋「重田不動産」には、住みたい街ランキング1 位常連・吉祥寺に住みたいさまざまな人々が訪れます。でも双子からもれる声は、「吉祥寺も終わったな」「どんどんどこにでもある街になって」。イメージだけで吉祥寺にあこがれるお客から話を聞いているうち、「吉祥寺はたしかにいい街だけど 吉祥寺だけがいい街じゃない」と、錦糸町や五反田など他の街へ連れ出して街を案内し、物件を紹介していきます。人それぞれ引っ越したい理由があり、なりたい自分があります。新しい街が何かのきっかけになるように、「好きなとこが1 つでも見つかれば 引っ越すには充分な理由でしょ」と案内する街はどこも魅力的です。

「住みたい街」として人気の吉祥寺で不動産屋を営む重田姉妹。二人に連れられ、客たちは〈自分にとっての〉本当に住みたい街を見つけていく。

⃝商品の価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。

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イラスト/河原奈苗

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