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猫沢エミことマダム・サルディンヌの「おいしい処方箋」

「40代、親などこれから見送らなければならない人が多くいます。〈死〉とどう向き合えばいい?」猫沢エミさんのお悩み相談とレシピ

2024.03.12

悩みとは生きている証拠。だれもが大なり小なり抱えているお悩みに、マダム・サルディンヌこと猫沢エミさんが真摯に、時に愉快にお答えします。

今月の迷えるお悩み

インスタなどを拝見していて、死に対する接し方について自分はこんなにおだやかに受け止めることができるだろうかと感じています。年齢的に親や恩師など、これから見送らなければならない人がそう遠くない未来にいます。頭では、死はすべての人に平等に訪れると理解していますが、いざその場面に遭遇した際に自分がひどく取り乱して受け入れられないのではと不安に思うのです。 みとりまでの時間を含め、どのような心持ちであればいいのか、どんなふうに考えればいいのか、エミさんの考えを聞いてみたいです。
ワンダ(40~49歳・メーカー勤務・大阪府)


猫沢エミさんこんにちは。あなたのお悩みの友、マダム・サルディンヌです。約1年にわたり、お届けしてきましたこのコーナーも、いよいよ最終回となりました。というわけで、今回はワンダさんだけでなく、すベての人がいつか直面する〝死に対する接し方〟という大きなテーマにお答えしてみようと思います。

死に対する明確な答えはない

現在53歳の私は40代の終わりに両親を早々とみとるなど、それなりの経験をしてきましたが、死に対する答えは正直見つかりません。そもそも見送るという立場から見た死と、死にゆく当事者から見た死は、まったく違う感じ方でしょうし、たいていの場合、年長者や近親者を見送るという経験を徐々に得たあと、自身の死に向き合って旅立つ、というのが人生の流れのように思います。

ワンダさんのご年齢・40代というのは、自身の年齢が上がってきたことで年長者の死に接する機会が増えてくる世代だと思います。〝この人だけは永遠に生きていそうだ〟なんて思っていた人が、二度と会えない存在になる現実との直面は、どんなに本や映画で予備知識を入れておいたとしても、防ぎきれない衝撃があります。
でも、その衝撃こそが、いつか自分がこの世を去るときのおだやかな心持ちを手に入れるためのステップなのではないかと、これまでの経験で感じました。つまり、亡くしたときに胸が張り裂けそうになるほど悲しい大切な人は、自身の死をもって見送るあなたへ大切な教えを残していくのです。

私の両親は父・享年74歳、母・享年71歳と二人そろって決して長寿とはいえない年齢で旅立ちました。母の死から約1年半後に旅立った、4代目の愛猫イオは、保護してから1年半で亡くなり、そのたった2日後に親友が58歳で急逝。若いころも、死はなにかと身近な存在で、19歳で初めてつきあったボーイフレンドは、出逢いから半年後に特殊なケースの肺がんにより21歳の若さで他界しました。そんな彼らが自身の死をもって教えてくれたことは、死に対してむやみにおびえることなくきちんと向き合うために、まずは死の手前にある生について考える、というポジティヴなものでした。

生きていることは当たり前で、死は遠い存在のように思えますが、身近な人の死に触れると、生きていることの奇跡をまざまざと知り、今この一瞬、人間として喜怒哀楽をもって生きられることの素晴らしさを真に感じられるようになります。これが死の1秒前まで続く。クローズアップすべきは、生きて輝くこの一瞬こそで、その先にある死は早かれ遅かれ、生き物に与えられた平等な自然の摂理によって自然の一部へと返っていく……そんな考え方。

それでもやっぱり、死を迎えたときはどんなに経験を積んでいたとしてもすごく悲しいもので、感情を持つ人間として制御不能になっても私はいいと思うんですよね。死にまつわるすべてのステップには、どんなに小さなことでも必ず意味があり、涙を流すべきときに流すことで、残された人は自身の人生にもう一度向き合っていく気持ちが生まれます。だから、ワンダさんが近い将来経験されるかもしれない、大切なかたとの別れのときを今から想像して恐れなくてもいいと私は思うのです。それよりも、ご存命の大切なかたがたにできるだけ会って語らうという、生にクローズアップした時間をつくることを考えるほうが先決ではないでしょうか。そして、死=悲しいだけのもの、というイメージを変えてみることも大事なことかもしれません。

命の長短で幸・不幸を測らない

先にお話しした、私にとって大切な人たちが教えてくれた大切なことがもうひとつあります。それは〝命の長短で幸・不幸を測らない〟というものでした。私がこれまでに見送った人や動物は、決して長命とはいえませんでした。すると葬儀のときに決まって「まだお若いのに残念です」という言葉を投げられます。もちろん、言ってくださるかたがたは何の悪気もないどころか、心からお悔やみを伝えてくれているのを充分理解しながらも、私は違和感を感じました。どうして長く生きれば幸せで、短いと不幸なんだろう? と。
特に愛猫が旅立った際には、そもそも人間よりもずっと短い寿命の動物たちは、みんな不幸なのか? なんていうふうにも考えました。でも、そんなことは決してないはず。たとえ1日しかこの世界にとどまれない命があったとしても、そこに祝福と愛があれば、その命は確かに存在したといえるのですから。

命が消えゆく死のポイントに、こうした判断や悲しいイメージだけをもってクローズアップするのではなく、生きて輝いた死の手前にクローズアップして、幸せに生を全うできたことをことほぐ。それは決して時間の長短ではなく、個々が自分らしく、愛に包まれて生を全うできたかどうか。そんな死のとらえ方を、私は大切な存在を見送ることで受け取りました。

そうして悔いなく生きて旅立つ命と、それを悔いなく見送る残された命が響き合う、心底納得できる死の迎え方を、私の年齢になるとチラチラ想像しはじめるのですが、それはまだまだ先のこととして、二度とやってこないこの一瞬を、これからも1秒ごとに味わって人生を歩いていこうと決めています。みなさんの愛あふれる人生を祈って、ゴッド・ブレス・ユー♡

これまでのご愛読、心よりありがとうございました。

またどこかで元気にお会いしましょう。


そんなあなたへのマダムの処方箋
禁断の焼き知恵の実
「カルダモン風味のはちみつ焼きりんご」

材料(作りやすい量・3人分)
りんご(あれば紅玉をおすすめします)……3個
バター……大さじ3
はちみつ……大さじ3
カルダモン(あればホールか粉末を)……3つまみ
塩……3つまみ
レモン汁……小さじ3

下準備 オーブンを200℃に温めておく。

作り方
(1)りんごはよく洗い、ペティナイフなどで芯をくり抜き(底に穴があかないように注意。すわりの悪いりんごは、底を薄く切るとよい)、耐熱皿に並べておく。
(2)くりぬいた穴に塩、レモン汁、カルダモンをそれぞれ等分に入れて、バターを大さじ1ずつ差し込んだら、上にはちみつを大さじ1ずつかける。
(3)200℃のオーブンで40〜50分焼いたらでき上がり。
りんごからにじみ出るジュースとはちみつ、バターがキャラメリゼしたソースが耐熱皿の底にたまるので、りんごにたっぷりとかけていただく。バニラアイスや生クリームを添えてもおいしい。

効能:『
旧約聖書』の「創世記」で、アダムとイヴが食べた禁断の知恵の実、りんご。なぜ禁じられていたのかというと、知恵の実は食べると神と等しい善悪の知識を得るとされていたから。
最終回のレシピは、りんごが持つ未知の世界を知る勇気にあやかって、とろける焼きりんごを。はちみつは約1万7000年前に人類が初めて手に入れた自然の甘味料であり、その高い殺菌力からミイラの防腐剤にも使われてきました。エジプトのピラミッドで発見されたはちみつは、3300年たっても変質していなかったそうです。豊富な栄養素を含むはちみつには、ビタミンB群の一種で老化防止のビタミンと言われるパントテン酸が含まれています。りんごと相性のいいカルダモンは、アーユルヴェーダの世界で最も安全な消化促進剤とされており、含まれている「1,8-シネオール」には、はちみつと同じく殺菌作用があり、免疫力をアップする効果も。
ピスタチオのような殻に包まれたホールのカルダモンは、スパイスミルで軽く叩くと中から小さな黒い種が出てくるので、殻だけ取り除いた後、細かく粉状にすりつぶすとよい。スパイスミルがなければ小さなすり鉢とすりこぎで。粉末のカルダモンは便利だが、ホールを挽いた方が段違いに香り高いので、ぜひ一度試してみてほしい。

「はちみつ」について(「食彩の王国」・はちみつについて)
「カルダモン」の効能について(養命酒「スパイスの女王「カルダモン」の効能と使い方」より)

猫沢エミさん

猫沢エミ(ねこざわ・えみ)

2002年渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー《BONZOUR JAPON》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に「ねこしき」(TAC出版)、「猫沢組・POSTCARDBOOK〜あなたがいてくれるなら、私は世界一幸せ」(TAC出版)など多数。10月26日、規格外で笑いに満ちたブラックファミリーヒストリー「猫沢家の一族」(集英社)、60年代のフランスで大ヒットした名料理本の日本語版が待望の出版、『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ 著/猫沢エミ 訳(河出書房新社)が発売中。第二弾『お菓子づくりは子どもの遊びです』が4月下旬に発売予定。インスタグラム@necozawaemi

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文・料理写真/猫沢エミ イラスト/イナキ ヨシコ プロフィール写真/馬場わかな 関めぐみ

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