人気料理家・飛田和緒さん。この連載は飛田さんの飾らないお昼ごはんをのぞき見させてもらいます。使うのは20年近く住む神奈川県・三浦半島の旬の食材! さて今日はどんな「さもない」お昼が見られるのでしょうか……?
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長野の実家の野菜を使って昼ごはん
今月は長野よりお届けします。
というのも地元の直売所、先々月からあまり野菜のラインナップが変わっていません。もうそろそろ冬野菜が出てきてもよさそうなものですが、まだきゅうりがあったり、とうがんがゴロゴロ、大根があっても細くて小さかったり。青菜類も元気がありません。
毎年このころには直売所には干し大根がずらりと並んでいる風景が見られるのですが、今年はまだ大根がそこまでできていない様子。干し大根は「たくあんは作りたいけど、干す場所がない」というたくあん作りをするかたからのリクエストがあって、作りはじめたと聞いています。私も干す時間がなかったりしたときに何度かお願いしました。これもまた直売所ならではですよね。さてそんなわけで地元の野菜をあきらめて、ちょっと遠出。長野の実家の家庭菜園で収穫した野菜で昼ごはんを作ります。
実家の畑は、大根・ねぎ・白菜・野沢菜……と、豊作!
両親が住む北信。長野県は南北に長く広い県。 南と北では特産物が異なり、郷土料理もさまざま。今年の夏は長野もとても暑く、地元の畑は冬野菜がかなり苦戦していると直売所で聞きました。それでもわが家の畑は幸いかなり野菜の発育がよく、大根の葉の茂りぐあいといったら、根元の大根が見えないくらい緑がわさわさと揺れていました。
ねぎは「松本一本ねぎ」といって、太くて加熱すると甘みがしっかり味わえる品種。ぴーんとまっすぐに伸び、青い部分も柔らかくておいしい。白菜は葉がしっかりと巻いていてずっしり重い。野沢菜もよく育って母が大喜び。にんじんは堅めで甘みが強い。里いもは大きく葉が伸びて、父が掘り起こしてくれました。毎年届くのを待っているくらいねっとり感が半端ないわが家の里いも。土が合っているのでしょうね。
定番人気のあの料理を大根でアレンジ
海辺に戻り、さっそく調理にかかります。大根2本は葉つきのまま、ベランダに干しました。1ヵ月ほど干すと、大きな大根もしんなりとしてU字に曲がるくらいに。そうなったら、切ってさっと湯通ししてから、甘辛いしょうゆだれに漬け込んで漬けものにします。年内までは葉も柔らかくておいしい。干さなかった大根の葉は刻んで定番惣菜、じゃこと梅干しでつくだ煮もたっぷりと作りました。
【アレンジ1】白菜のミルフィーユ鍋を大根で
大根は薄い輪切りにし、かるく塩をしてしんなりとさせたら、鍋に花びらが重なるように詰めて、豚薄切り肉を間に詰め込み、酒をふりかけ、こしょうとごま油をかけてふたをして蒸し煮に。白菜のミルフィーユ鍋を大根でアレンジしてみましたよ。
ここでひとつ宣伝。
『オレンジページ』11月15日発売号では白菜のミルフィーユ鍋をご紹介しています。私の作り方はかなり大胆。まるごと一株の白菜から作り出す様子、ぜひ見てください。動画もありますよー。すみません、ちょっと脱線しました。思いつきで作ってみた大根のミルフィーユ鍋、大根をたっぷり食べられました。肉の脂のうまみをしっかりと含んでおいしいかったです。ただ、中心のほうの火の通りが悪かったので、中心部分まで大根を入れないほうがよさそう。また再挑戦してみます。
野沢菜は切り漬けに。しょうゆ、酢、砂糖の漬け汁に切った昆布を入れて野沢菜をよくからめたら、重しをして一晩。水が上がらなかったので、もう一度かるく混ぜて重しをしました。漬けものは素材の水分量で、水の上がり方が違いますから、なかなか味がしみないときには時間をかけて、じっくり取り組む。いつもは野沢菜が手に入らないので、小松菜で代用しています。茎が太めの小松菜を見かけたら切り漬け。おすすめですよ。
【アレンジ2】しょうが焼きに大根をプラス!
さて、昼ごはんは大根と豚肉のしょうが焼きを作りました。ちょうど娘が帰ってきたので、家族3人での昼ごはんです。しょうがをたっぷりとすりおろし、最後までおろしきれなかったしょうがはみじん切りにし、しょうゆ、酒、みりんのたれに加えます。肉には片栗粉を薄くまとわせ、大根は皮ごと薄切りにして、塩をパラリ、しっとりしたら水けを拭いてスタンバイ。
ご飯はいただきものの小ぶりの紫いもをいっしょに炊き込んでみました。いもが小さかったので、切らずに米の上にドンと置いて炊いてみましたよ。紫色がほんのりとご飯にしみてきれいでした。
肉は油で焼いて、焼き上がったものから取り出し、続けて大根を焼きつけます。大根が透き通るくらいまで焼けたら、肉を戻してしょうがだれを合わせてよくからめてでき上がり。これはご飯がすすみました。しょうが焼きには玉ねぎやピーマンを合わせることが多いですが、旬野菜との組み合わせもいいですね。大根の甘みとしょうががよく合いました。
一人なら肉なしで、大根を厚めに切ってステーキにして、しょうがだれをかけて食べるのもいいかも。アレンジが広がるしょうがだれです。緑野菜がなかったので、少々地味なワンプレードごはんになりましたが、力強さのある昼ごはんでした。
食べきれなかった紫いもはご飯つきで、豆乳と合わせてかるく煮てから撹拌してポタージュにしました。ご飯でとろみがついておいしい。いもを切らずに炊いたおかけで、もう一品完成。家庭料理ならではの使いまわし術です。
久しぶりに秋の長野を堪能。わが家から北上していくと、だんだん紅葉が濃くなっていくのがわかりました。北長野はすっかり秋めいていました。りんごは真っ赤に色づき、葉の落ちた渋柿はたわわに実って、柿がピカピカに光ってきれい。思わず車を降りて写真を撮りました。私が行った日には山の頂上が初冠雪で白くなっているところもあって、冬の訪れも感じることができた長野へのドライブになりました。
飛田和緒
飛田和緒(ひだかずを)
料理家。神奈川県・三浦半島に夫・娘と住みはじめてから18年になる。海辺暮らしならではの魚料理や、地元の食材を使ったシンプルな野菜レシピが人気。繰り返し作りたくなる常備菜は、幅広い層から支持されている。お弁当や朝ごはんの記録をつづったインスタグラム(@hida_kazuo)も話題。著書に『いちばんおいしい野菜の食べ方』(小社)など。
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