人気料理家・飛田和緒さん。この連載は飛田さんの飾らないお昼ごはんをのぞき見させてもらいます。使うのは20年近く住む神奈川県・三浦半島の旬の食材! さて今日はどんな「さもない」お昼が見られるのでしょうか……?
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毎日フーフー言いながら過ごす猛暑の8月。
ただいま夏休み。じつはあまりに暑くて台所がサウナ状態。加えてここからはもう秋冬の料理の撮影が続きますので、根菜やかたまり肉を煮込んだり、オーブン料理があって、ガスをつけっぱなしの状態で、顔を真っ赤にして料理撮影に臨んでいました。さすがに耐えきれず、集中力も欠くことになり、思い切って料理撮影だけお休みをいただいております。
8月の直売所にすいかがない……
夏休みといえばすいか。撮影がないので、冷蔵庫にも余裕ができ、まるごと買って食べようと思いましたら、もう地元のすいかがない。きゅうりも終わりに近づいていて、朝いちばんに直売所に行かないとなくなってしまう。
もちろん私のように暑い日にはきゅうりが食べたくなるのはみなさんも同じでしょうから、きゅうり争奪戦です。そんなわけで、この暑さのせいでもあるのでしょうが、旬が先へ先へとずれているように感じているこのごろ。
そして今年は梅が不作だったり、土用が明けてもなかなかカラッと乾いた晴天の日がない。晴れていても湿度が高いので、なかなか外で梅が干せません。窓辺で干したり、干さない梅干しのレシピにゆくゆくは変更しないといけなくなるかもという危機感を覚えております。
昔ながらのレシピを守りたい気持ちと、今の時代に合う時短だったり、道具にも変化があるので、それに対応していくようなレシピ作りがこれからは求められていくのかなと、ふとそんなことを考える時間もある夏休みとなっています。
暑いからこそ食べたい『キムチチゲ定食』
さて、今月の昼ごはんは
キムチチゲ定食。暑いときに熱くて辛い鍋を作って食べ、体の中から汗を出してすっきりしようという魂胆。
まず豚バラ肉の薄切りとキムチをごま油で炒めてから、水を注いでスープを作ります。キムチの漬け汁はここで加えます。
だしは不要。豚肉と発酵しているキムチからうまみが出るので、水のみ。ぐつぐつと煮えてきたら、なすの乱切りとオクラを入れて、しっとりするまで煮ます。味をみてからナンプラーやしょうゆでととのえて完成。
キムチからも塩味が出ますから、必ず調味料を入れるタイミングの際に味見をします。辛いけど、キムチの酸味もあって、案外後味はさっぱり。五穀米のご飯がすすむ、すすむ。あー、ちょっと食欲落ちてるななんて思ってたけど、うそだね。チゲとご飯を交互に食べていたらご飯がなくなってお代わり。食べすぎました。
チゲ定食の野菜たちは直売所で購入
今日の直売所での買い出しは、大長なす。長さ30cmは軽々オーバー。ただし、径が3~4 cmのかなり細長いなすでした。その長さと細さ、全体に柔らかなのが特徴的ななす。
オクラは緑と赤紫の紅オクラの2種。赤紫の色は残念ながら加熱するとなくなります。せっかくだからこの色を生かした生食をおすすめされたけど、個人的な好みでは加熱したほうがよさそうと判断。チゲに加えて柔らかく煮て食べました。
オクラの下処理はへたを短く切り、角張ったがくの部分を薄くむきます。こうすると姿形がいい。がくまですぱっと切り落としてゆでると、中にゆで汁が入って粘りが外へ出てしまうのと、水っぽくゆで上がってしまうので、ひと手間ですがこのように切っています。
うぶ毛を塩でこすってというやり方もあるけど、そこは省略。最近のうぶ毛はそうトゲトゲしてないから、塩を加えた熱湯でゆでるようにしていますよ。
チゲのお供にきゅうりとまくわうりを
きゅうりは規格外で安価。小ぶりで曲がっていますが、この形かわいくないですか!!! 切らずに炒めたりすると見た目に豪華な一品になるので、日ごろからこのサイズがあると積極的に買います。でも今日はチゲがメインになりましたので、そのままかじるとしました。
まくわうりは幼いころよく食べました。甘みは控えめだけど、香りが甘くてみずみずしい安価な庶民の果物。これがメロンというものだと教えられてましたね。そのうちにプリンスメロンという色も味も今のアンデスメロンやマスクメロンに近い小ぶりなメロンが出回りはじめたら、まくわうりは見かけなくなりました。
当時は、マスクメロンは高級品すぎてスーパーには並ばない、専門店みたいなところでしか買えない果物だったと記憶しています。そしてそうこうするうちにプリンスメロンも見かけなくなって、現在の西洋メロン、網目模様のメロンが主流となりましたので、まくわうりを見つけたときには懐かしい気持ちでいっぱいに。
表品名は「金俵マクワウリ」と書かれていました。まだ堅めなので追熟して食べてねって言われましたけど、1個切ってみると薄甘で濃厚な甘みのメロンとは対照的なさっぱり感がいい。塩やオイルをかけたり、ドレッシングであえてサラダとして食べてもおいしそう。
まずは半分に切って種を取り、くし形に切って皮をむいて一口大に切りました。切ったそばからパクパク口に入れて久しぶりに食べる子どものころの懐かしい味のせいもあったのか、あっという間に半分食べてました。これはチゲの箸休めとしては最高。ただ切ったものを盛りつけて献立に加えました。
今年は葉野菜が育たない…
雨が少なく、このあたりはゲリラ豪雨もほぼありません。東京や横浜で降りだしてもここはただ湿気が重くなるだけ。そんな雨事情もあり、葉野菜が育たないそうです。モロヘイヤとか、つるむらさきが食べたかったけど、今日は買えずじまい。またの機会にと思います。
庭で育てようと株分けしてもらったおかわかめもまったく生長せず。どんどんつるを伸ばして茂るからねっていただいたのに、つるどころか、3cmくらいで止まってる……。わが家の家庭菜園はなかなか厳しそうです。
きゅうりに添えた甘酒みそは万能
きゅうりに添えた甘酒みその甘酒は、麹で作られているものを使用。アルコール分はないのでお子さまにも食べていただけます。酒かすで作る甘酒と麹の甘酒はまったく味が別物ですので、もし買うなら気をつけて表示をご確認ください。
甘酒は日本酒や料理酒、みりんの代わりにもなり、お砂糖の代わりに甘酒を使うと軽やかな甘みをつけることができます。ふだん、麹から甘酒を作って飲んでいるので、いつも冷蔵庫にあるからか、調味料としても使うようになりました。
甘酒みそは野菜スティックに添えるだけでなく、ドレッシングのようにも使います。野菜炒めや焼きそばの味つけに、焼き肉のたれに、刺し身に合わせてぬた風の小鉢を作ることも。みそと甘酒を1:1の割合で合わせるだけですから、1カップくらいのびんに作っておくと、便利。みそも甘酒も発酵食品。この猛暑を乗り切るためにもおすすめです。
翌日は『なすの豚汁とおむすび』で朝定食に
大長なすの残りで翌日は豚汁を作り、おむすびを合わせた朝食。冷たいものばかり食べていると体がだるくなりますから、熱い汁ものを積極的に食べましょう。案外体の中は冷えきっているみたいですよ。おなかを温めると元気が出ます。
みなさんもたっぷり睡眠をとって、こまめに水分補給してこの8月を乗り切ってください。来月は少し涼しくなっていることを祈ります。さぁ、夏休み気分もあって、今日は昼飲み。ビールも開けちゃった。
飛田和緒
飛田和緒(ひだかずを)
料理家。神奈川県・三浦半島に夫・娘と住みはじめてから18年になる。海辺暮らしならではの魚料理や、地元の食材を使ったシンプルな野菜レシピが人気。繰り返し作りたくなる常備菜は、幅広い層から支持されている。お弁当や朝ごはんの記録をつづったインスタグラム(@hida_kazuo)も話題。著書に『いちばんおいしい野菜の食べ方』(小社)など。
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