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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.116】『モロッコ、彼女たちの朝』

2021.08.13


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。日本で暮らしていると、色々な国の料理が食べられるし、毎年新しい食べ物が海外から上陸しますね。新しい文化に触れられることに喜びを感じる一方、日々同じものを食べ続けることの尊さも感じます、この映画を見ると。
年齢も境遇も違う2人の女性が出会うストーリーには、モロッコという社会を見つめる厳しい目線と、それでも人と人とのつながりを信じる温かさがあります。そして、主人公がパン屋という設定のため、モロッコの食文化を堪能できる「ごはん映画」でもあるのです。


パンて不思議な食べ物ですね。粉と水分と塩と酵母。たったこれだけの材料の組み合わせで、土地ごとに色々な種類が存在するなんて。パン屋を営むシングルマザーのアブラ(ルブナ・アザバル)が粉と水を少しずつなじませるシーンは、その真剣な表情もあいまって、どこか儀式の様にも感じました。娘のワルダ(ドゥア・ベルハウダ)との静かな生活を大切にしていた彼女がある日家に迎え入れたのは、臨月のお腹を抱えたサミア(ニスリン・エラディ)。行くあてがなく、路上で寝ようとしていた彼女に気づき、思わず声をかけたのです。
サミアがなぜ誰にも頼らないのか、アブラがシングルマザーになった理由は離婚なのか死別なのか、そのあたりはなかなか語られません。ただ、夫のいない子持ちの女性の生きづらさ、というものは説明がなくとも淡々と伝わってきます。
アブラにとって意外だったのは、サミアがパン作りの名手だったこと。泊めてくれたお礼にとサミアが作った、モロッコの伝統的なパン「ルジザ」(正確にはパンケーキらしいです)は、店に出すと即完売に。このルジザは生地を細長く伸ばし、手に巻きつけて成形するというとっても不思議な作り方で、その様子に思わず見とれてしまう美しさなのです。


モロッコ社会における女性たちを取り巻く厳しい現実を切り取りながらも、男性が女性を貶めるような分かりやすい描写はこの映画に存在しません(というか、ほぼ男性が出てこない)。唯一ともいえる男性の登場人物は、アブラに好意を持つ出入り業者のスリマニ(アジズ・ハッタブ)。ああこの人がなんか悪さするのかなあと勝手に思っていたら、普通に良い人だったので安心しました(笑)。
モロッコでは婚外交渉も中絶も違法だそう。そのような状況に対してこの映画ははっきりと「NO」というメッセージを送っています。ただし、2人の女性の境遇をただただ悲観的に描くといったような、典型的な方法は取っていません。生まれる子を養子に出そうとしているサミアと、母としての役割に徹して女性としての一面を抑えながら生きるアブラ。2人が出会うことで生まれる化学反応をもって、かすかな希望を感じさせるストーリーに仕上げています。


はちみつやチョコをかけて食べる、モロッコ風のクレープ「ムスンメン」。セモリナ粉を使う、イングリッシュマフィンのような「ハルシャ」。お祭り用のアラブ菓子も含め、この映画には色々なモロッコフードが登場します。手の感触を研ぎ澄まして、ていねいに作られるその仕事ぶりは神聖さも感じるほど。世代を超えて愛される伝統の美しさを感じるとともに、その伝統に縛られることなく、誰もが自由に生きられる社会を願わずにはいられません。

『モロッコ、彼女たちの朝』8月13日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ロングライド
©Ali n' Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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