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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.24】「今さら言えない小さな秘密」

2019.09.12


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
好きな映画や本って、何回も見たり読んだりしたくなりますよね。
「ああ、やっぱりいいなあ」と感じるときもあれば、「あれっ? 久々に見ると(読むと)そんなによく感じない(泣)」ということも。

ちなみに、「やっぱりいい」には2通りあります。1つは、「やっぱりこの場面が好き。ストーリーが好き、セリフが好きetc.」初回と同じ気持ちで楽しめるパターン。
もう1つは、「やっぱり好き。だけど、前は特によいと思わなかった部分が心に刺さった」新たな発見パターン。

ある自転車屋の男が自分の内面と向き合う『今さら言えない小さな秘密』は、後者かもしれない。
シンプルなお話だけど、いやだからこそ、年齢を重ねるごとに印象が変わりそう。
ほのぼのした雰囲気になごみつつ、ハッとさせられるメッセージが多い映画です。


秘密≠嘘。
この映画のタイトルを見たとき、「嘘をつくって辛いよね」と反射的に思ったのですが、よく考えると秘密イコール嘘をつくことではないですね。
秘密を自分の内にしまっておくだけなら、嘘をつく必要はないですもんね。
でもそれはほとんどの場合難しくて、結果嘘をついてしまう。だから罪悪感に苦しむ。
マツコ自身、小さな秘密が多い人間なもので、日々嘘を重ねていまして……(笑)。

秘密って多くの場合、コンプレックスだと思います。
自転車屋なのに自転車に乗れない、この映画の主人公・タビュラン(ブノワ・ポールヴールド)もそう。
コンプレックスって他人からすると割とどーでもいいことが多くて、タビュランの場合もそうだと思うのですが、フランス人の自転車に対する特別な思いは考慮した方がいいかもしれません。
サッカーと並ぶ国民的スポーツで、毎年7月に行われる自転車の競技大会「ツール・ド・フランス」にフランス人は大熱狂。
その自転車に乗れないというのは、確かに当人としては立派なコンプレックスになりそうです。
しかも、彼の住む村では自転車を自転車とは呼ばず、タビュランで通じるほどの存在なのですから。


秘密を隠し続けるのは、それがバレてしまったときに大切な存在を失うのが怖いからではないでしょうか。タビュランを見ているとそれが分かります。
彼が秘密を打ち明けたいけど打ち明けられない(なかった)のは、今は亡き父親(グレゴリー・ガドゥボワ)、妻のマドレーヌ(スザンヌ・クレマン)、そして、タビュランの自転車に乗る姿を撮影したいとやって来た、写真家のエルヴェ(エドゥアール・ベール)の3人。
1つの道を究める者どうし心が通い合い、エルヴェとの間には素敵な友情が生まれます。

どうでもいい人たちには、もしかしたら機会があれば打ち明けられたかもしれない。
大切な人たちに幻滅されたくない、期待に応えたい一心で、タビュランはコンプレックスを胸の内に抱えていたのだと思います。

特に郵便配達員のお父さんとの関係が切ない。自分の仕事を継いでほしい父親は、息子を配達に連れて行こうと何度も誘うのですが、自転車に乗れないことを隠したいタビュランは、なんやかんやと言い訳をしてその誘いを断ってしまう。
寡黙なお父さんのさみしそうな顔がとっても印象的でした。


この映画は、フランスの国民的作家にしてイラストレーター&漫画家のジャン=ジャック・サンペの絵本を映画化したもの。『プチ・二コラ』というシリーズは知っている人が多いかもしれません。
彼の絵のタッチって、愛らしさの中にほんのり哀愁が混ざっているんですよね。
幼い頃~少年期にかけて、タビュランが練習をするけど自転車に乗れないところとか、秘密を隠すためにひょうきんさを身につけていく様子とか、エルヴェに被写体を頼まれてからストレスで気難しくなってしまうところとか、映像とはまた違う、この人の絵だからこそ伝わってくる切なさがあります。

映画に出てくるお父さんは原作にはいなかったりと、多少の違いはありますが、秘密を抱えるタビュランを優しく見守る展開はどちらも一緒。
映画はいかにも映画らしく、原作はもう少し余韻を残したラストで、なんとも言えない温かみを感じます。
ジャン=ジャック・サンペ自身とても自転車が好きなようで、それが画面やページから伝わってくるんです。
マツコからの推薦図書として、この絵本も映画と一緒にぜひ。


それにしてもタビュランの幼少期、少年期を演じる男の子の可愛らしいこと。
そして成長した姿もなかなかのイケメンです。なのに、現在のタビュランはおっさん感満点。
独断と偏見ですが、フランス人て若い頃はスラッとしてるのに、突然おっさん化する人が他の国より多い気がする。
でも、フランスのおじさんたちに共通する、頑固さ純粋さはなんだか憎めない。先日紹介した『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』のおじさんたちにも同じものを感じました。

自分にとっての「今さら言えない小さな秘密」って何かな~。ここに書ける程度の内容だと、オートマの免許しか持っていないことかしら……。
教習所で怖い教官に耐えられず、マニュアル運転をあきらめた大学4年生の春。

最初に書いたように、このストーリーは見るタイミングで感じ方が変わるかもしれません。
南仏プロヴァンスの美しい風景にも癒される、絵本とともに何度も見返したい作品でした。

「今さら言えない小さな秘密」 9月14日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© Pan-Européenne - Photo : Kris Dewitte


ジャン=ジャック・サンペ作/絵、荻野アンナ訳(原題:Raoul Taburin,1995, 2019, Éditions Denoël)
A4変型版、ソフトカバー、本文110ページ。定価2000円+税。発行:ファベル ISBN978-4-903789-03-5

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回9/20(金)は「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」です。お楽しみに!

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