ーーー松重さんから食べるシーンについてのアドバイスはあったんでしょうか?
僕から何かきく前に、先回りして、これでもかってアドバイスをしてくれました。
こっちの不安を察して「大丈夫だから」と、とても気をつかってくださったと思います。
まず「
熱さに気をつけて」と。
ここ、ちょっと盲点だったので助かりました。
あと「どう食べてもいい、
脚本は無視してくれ」って。
たしかに脚本はいろいろ書いてあるわけです、虫のいい理想が(笑)。
「箸でハンバーグをバッと切って口に運ぶ」とか、本番でうまくいくとはかぎらなくて。
箸で切るには熱いうちじゃないとむずかしいけど、すぐに口に入れるとやけどしちゃうんですよね。
ラーメンならフウフウしても絵になるけど、洋食だとそれもヘンだし、いったん口に入れたら、とにかく熱くても食べないわけにはいかない。
食べる前に一瞬
唇にちょっとつけて、温度を確認してから口に入れる方法もあるとか、そういうテクニックを教えてくれました。
あんまり早く白めしを食べちゃうと、バランスが悪くなって
ご飯のお代わりをするはめになるぞ、そこは考えたほうがいい、とか。
ーーーお店での撮影時は、松重さんもごいっしょでしたね。
そう、「それぞれの孤独のグルメ」は松重さんが企画プロデュースということもあって、
モニターの前で〈井之頭五郎が見てる〉状況。
「やばい……。いまの食べ方、おいしそうに見えないとか言われたらどうしよう」と、初めは緊張しますよね?
でも、食べ方の演技に関しては
俳優をリスペクトしてくれて、ようはこっちにおまかせなんです。
モニターでは画的(えてき)にどうかとか、そういうところをチェックしてたみたいで。
半日かけて食べるシーンを撮っていったんですが、松重さんはカットが終わると「最高にいい」「すごくよかった!」と何度も声をかけに来てくれて。
普通に一生懸命食べればいいんだ、と安心しました。
松重さんの大事なドラマでもあるし、下手なことはできないな、という気持ちで臨んだんですが、チーム感ができ上がっていて、撮影もサクサクと早い。
いい意味で「参加させてもらっている」という感覚が強い現場でしたね。
ーーーご自身で何か食べ方のプランは立てられたんでしょうか?
考えたら逆にわからなくなるんで、ノープランでいきました。
「これから食べはじめる」っていうきっかけになるものだけ決めて、あとは流れにまかせて、みたいな。
松重さんに「
ふだん食べるときのクセもいっぱい出してくれ」って言われたんですよね。
クセっていうと、僕はサラダとかあると、最初にそれを全部食べちゃう。
野菜で胃を慣らしたいというか。
たとえば、焼き肉に行ったらまずサラダとキムチを頼んで、それをたいらげてから肉なんです。
だから「初めにキャベツだけ全部食べちゃってもいいんですか?」ってきいたら、松重さんから「全然いいよ!」って。
見ている人がちょっと不思議に思うよな、と今回はやめましたけど(笑)。
とにかく自分のカラーを出してくれ、せっかくこういう機会だから、いろんな人の食べ方を見せてほしい、と言われました。
結果、
ふだんの僕の食べ方に近い姿を見ていただけると思います。
もちろん、映像になったときに自然に見えるようにちょっと盛ったり、工夫はしていますが。
「脚本は気にしなくていい」って言うから、どうなるんだろう、脚本家さん、それでいいの?……なんて思っていたんですが、現場に行ったらしっかり信頼感があるのがわかりました。
脚本家さんも現場にいて、
その場で俳優の感想を聞いて、モノローグをどんどん書き換えていく。
松重さんが一つ一つ「こういう味だった」「こういう料理だった」と説明して「ここはこうしよう」と現場で最終稿ができ上がる。
チーム一丸で真摯に作っているドラマなんですよね。
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「孤独のグルメ」チームが、多彩なゲストを迎えて制作した「それぞれの孤独のグルメ」。食事シーンだけでなく、さまざまな職業の仕事シーンが描かれるのも見どころです。
後編では、ユースケ・サンタマリアさんが演じた行司役についても語っていただきました。
〈PROFILE〉ユースケ・サンタマリア
大分県出身。1994年、ラテンロックバンドのボーカルとしてデビュー。俳優、司会者、タレントとして幅広く活躍。2006年映画「交渉人 真下正義」で日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞。24年のNHK大河ドラマ「光る君へ」で安倍晴明役を演じ、話題に。水曜夜10時から放送中のドラマ「全領域異常解決室」(フジテレビ)に荒波健吾役で出演中。