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井上咲楽さん「料理することで〈仕事〉から〈暮らし〉に戻れるんです」【新連載記念インタビュー前編】

2024.09.04

バラエティ番組での元気いっぱいの姿が印象的な井上咲楽さん。日々SNSに上げられる手料理が話題となり、今年は初のレシピ本『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社)を出版。〈食品衛生責任者〉の資格も取得するなど、その勢いは止まりません。

そしてこのたびオレンジページnetでは、井上さんが愛してやまない発酵食をテーマにした連載「井上咲楽のすこやか発酵ごはんが決定! 自慢のレシピの紹介や、あこがれの発酵料理研究家に習う発酵ごはんなど、充実の内容にご期待ください。

今回は、連載を記念した特別インタビューを2回にわたりお届け。
実家での驚きのエピソードから癒しのおうちごはんまで、リアルな食生活を根掘り葉掘りききました!

「昔は塩麴が大嫌いでした」井上咲楽が発酵食の楽しさに目覚めたきっかけとは……?【新連載記念インタビュー後編】

帰宅して料理すると、感覚が〈仕事〉から〈暮らし〉に戻っていく

テレビでみない日はないほど活躍中。その元気の源も聞きました!
テレビでみない日はないほど活躍中。その元気の源も聞きました!
――井上さんの本は編集部でも話題です! 作ってみたくなるレシピがいっぱいあって、目移りしてしまいました。もうこれは、井上さんは絶対に食の上級者だな、と。

いやいやいや! でもありがとうございます!


――子どもころから料理をされていたとか。まずは井上さんの食の原点から伺えますか?

うちの母は食へのこだわりがすごく強くて、ごはんは母の手作りが当たり前だったんです。
ファストフードや出来合いのごはんを食べることはあまりなくて、ファミレスに行くのも年に1回くらい。お米も、毎日食べるのは玄米や五分づきのご飯で、白米が出るのは誕生日の手巻きずしのときだけでした。

料理だけじゃなく、器も〈雑に使ったら割れる〉のを学ぶという意味で、プラスチックやメラミンの器は絶対ダメといわれていました。


――すごい! 徹底していますね。でも子どもが食べたいのは、もっとジャンクなものというか……。

そうなんです。ファミレスのお子さまランチとか、すごくあこがれました。
軽くておもちゃみたいな入れ物もいいなあって(笑)。幼稚園の給食のご飯が全部白米なのもうれしかったです。

中学生になると、部活に友達が持ってくるチョコチップ入りのスティックパンがうらやましくて。私が持っていっていたのは、母が焼いてくれた自家製天然酵母の黒糖とくるみのパン。まわりからおいしそうと言われるから、交換して食べていました。

実家では料理は担当制で、子どもでも家族の食事を作る日があったんです。ご飯とみそ汁と卵焼きくらいは作れるようになりなさいと言われて、しかもご飯は、炊飯器ではなく土鍋炊き。うちは4人姉妹だから量も多くて……午前中いっぱい使って作った昼ごはんを、妹たちがパクパクすぐたいらげるんです。
それを見て、「私の午前中が全部食べられた」みたいな気分になってしまって。


――せつない気持ちになりましたか?

「なんでこんな厳しい家に生まれたんだろう」と。
手芸も好きだったのですが、手芸は作品が残りますよね。料理は何も残らないのに、なんの意味があるんだろうと思っていました。
井上さんが笑うと、その場の空気が柔らかくなるようでした
井上さんが笑うと、その場の空気が柔らかくなるようでした

――大人になって、実家での食体験のイメージは変わりましたか?

芸能界に入って上京し、一人暮らしを始めてから変わりました。
最初、ヘビーな楽屋弁当がうれしくて食べまくっていたら(笑)、太ってしまったんですよ。

それにだんだん、「おいしいんだけど、なんかもっと違う味が食べたい……」みたいになって。そんなとき、母が作って冷蔵庫に入れておいてくれたごはんを食べると、すごく落ち着いたんです。

料理ってやらなくても生きていけるじゃないですか。食べ物は買えるし、料理の時間を削ってほかのことをする人もいますし。
でもうちの母のことを思い出したら、あえて料理を作る〈豊かさ〉みたいなものがあるのかもしれないと気づいて。

前は料理なんて時間がもったいないと思っていたけど、少しずつ気持ちが変化しました。


――そこからご自分で作るようになったと。

たとえばテレビの仕事は、他のかたが作った脚本や映像があって、それを盛り上げるために演者がいる。作品は自分のものではないので、私の仕事は基本的に〈受け身〉なんです。
だからこそ、せめて生活の中ではちゃんと〈生かされている感覚〉がないといやだ、そのために料理をしようと思ったのもありました。

「今日は何を食べようかな」と考えたり、食材を切る音や感触を感じていると、自然に〈仕事〉から〈暮らし〉に戻っていくというか。落ち着くんですよね。

それと、「あの味が食べたい」と思える料理を自分で作れるようになって、自炊が好きになりました!


――わかります! 〈そのとき食べたい味〉ってありますよね。

そうなんですよ。外食は外食でおいしいし、行きたいお店もいっぱいあるんですけど、自炊で食べたくなるのは、外食では絶妙に食べられない地味な料理だったりするので。
よく「自炊より外食のほうがおいしくない?」って聞かれるんですけど、その2つは別物だと思っています。

これ! と思う味じゃないものでおなかがふくれると〈胃がもったいない〉と思うんです

きちんと自炊に向き合う人だからこそのコメントに共感しきり
きちんと自炊に向き合う人だからこそのコメントに共感しきり

――いつもバリエーション豊富な料理を作られていますが、料理の参考にしているものはありますか?


料理家の高山なおみさんの本はよく見ています。
あと最近なら長谷川あかりさんのレシピ。長谷川さんのレシピは食材の組み合わせがおもしろくて、作ってみたくなるんです。あんなに本を出版されているのに日々〈X〉でもレシピを発信されていて、本当に料理がお好きなんだなあと。

基本的にレシピも見るんですけど、好きな料理家さんのライフスタイルに興味があります。服やインテリアも含めて、「こういう生活をしているかたはどんなものを食べているんだろう」と見ています。

食って生きるうえで必須だし、暮らしの中で食にかかわるものって、家具とか器とか布物とかものすごく多いですよね。
いろいろなことにつながっている。
だから、その人がどんな生活をしているのか、作る料理の味にも出ると思っていて。
レシピサイトで検索して料理の参考にする感じとは、また違いますね。


――なるほどー。食って生活と地続きですもんね。料理家さんたちが使っている調理器具なども気になったりしますか?

上京してすぐのころは料理ができれば何でもよかったので、道具も〈100均〉でそろえたんですけど、だんだん「あの調理器具よさそう」と試すようになりました。
そうしたら、100円のボールと1500円のボールの使い勝手がぜんっぜん違うことに気づいて(笑)。
「便利だな~」としみじみよさを実感しています。


――調理器具が充実すると、より料理がはかどりますね! 料理を作るとき、大切にしていることはありますか?

うーん、そうですね……。
たとえば忙しいときにおみそ汁を作るとして、せっかくなら1人分だけど、簡単な〈だし〉をとる、とか。
コップにポットで沸かしたお湯を入れて、削り節を入れてふたをして、みそを溶く。ただお湯にみそを溶くだけじゃなくて、「これこれ!」って思える味にしたくて。
〈胃がもったいない〉と思うようなごはんではなくて……。


――〈胃がもったいない〉!

私、よくやっちゃうんです。なんとなくおなかがすいて、冷蔵庫にあるものを適当にかじったりすると、「この味じゃなかった!」。別のものをかじると、また「これでもない!」。
「あ~、胃がもったいないな」と(笑)。


――おいしいと思えるもので胃を満たしたい。食いしんぼうですね~。

そうなんですよ(笑)。今はそういうときに「これとこれを食べておけばなんとなく落ち着く」みたいなものがあります。コップのおみそ汁もそうですし、冷凍庫にあるおやきを解凍して食べるとか、作っておいた自家製のにらだれをお豆腐にかけて食べるとか。
手をかけて料理しなくても、それはそれで好きな味だし、ホッとします。

もちろん、最近ハマっている寝かせ玄米や納豆など、発酵食品の出番も多いです!
発酵食品は子どものころからずっと身近にあったので、今の生活にもシームレスに取り入れています。


――いつもアクティブに活動されている印象ですが、そのために気をつけていることはありますか?

あえて空腹の時間をつくることですね。食事をとるのも大事だけど、胃を休ませるのも大事。空腹の時間があるほうがごはんもおいしいし、体が動く感じがします。
しっかり動く仕事やマラソンの予定があると、そのときちゃんと動けるようにおなかの調整をしておいて、動きながら「終わったら、あれをゆっくり食べよう」と夜ごはんのことを考えたりしています(笑)。

後編に続く

PROFILE

井上咲楽(いのうえ・さくら)

1999年、栃木県生まれ。2015年「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」を経て芸能界入り。「おはスタ」「新婚さんいらっしゃい!」など、バラエティ番組で見せる明るいキャラクターで人気を博す。NHK大河ドラマ「光る君へ」に出演。2024年5月、『井上咲楽のおまもりごはん』を出版。「発酵食品ソムリエ」資格、「食品衛生責任者」の資格も持つ。

撮影/大森忠明  取材・文/唐澤理恵

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