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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.101】『ノマドランド』

2021.03.26


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。よく「Newスイーツ誕生♪」的な見出しで新商品が売り出されることがありますが、料理もお菓子も、実は今までにあったもののアレンジだったり、掛け合わせだったり。ファッションの流行がリバイバルするように、人間の営みにおいて完全に新しいものはあまりないのかもしれません。
『ノマドランド』が提示するのは、新しい生き方なのでしょうか。家を持たず、何にも属さない。失うもののないそのライフスタイルを選ぶ人が増えている、その意味とは? フィクションとドキュメンタリーが入り混じった、不思議な緊迫感に圧倒されるはずです。


化粧っ気のない顔に、潔いほどのベリーショート。断固とした眼差しから、主演のフランシス・マクドーマンドがアカデミー賞受賞作品『スリー・ビルボード』で演じた女性を思い出します。共通するのは、労働者階級としての人生。
Amazonの配送センターで期間限定の仕事にありついたファーン(フランシス・マクドーマンド)は、キャンピングカーでの車上暮らしを送る初老の女性。どうやら駐車場代をAmazonが払う契約のようです。不況のあおりで住み慣れた町が閉鎖され、住居も、そして病気で夫も失った彼女が選んだのは、短期の仕事で移動しながら暮らす「現代のノマド(遊牧民)」の生き方。かなり特殊に思えますが、アメリカではこうした人が増えているのだとか。この映画に出てくるノマドたちの多くは本物で、フランシス・マクドーマンド自身が彼らの中に溶け込み、虚構とリアルがミックスした世界を創り出しているのだから、驚きです。


「ホームレスではなく、ハウスレスよ」。以前、代用教員をしていた頃の生徒に今の生き方を問われ、こう答えるファーン。この言葉はどれくらい真実なのでしょうか。居心地よくしつらえた愛車が、彼女のホームなのでしょうか。Amazonに始まり、ドーナツショップやキャンプ場の仕事で出会う「ノマド仲間たち」とは、一定の距離を置こうとする彼女の姿勢には、どこか頑ななものを感じます。愛していた町も友人も、最愛の夫も失ったことで、これ以上「さよなら」のない生活を選んだのかもしれません。
何にも所属しないノマドの生き方は、どこまでも自由。ただし、この映画に出てくるノマドたちは、講習会で「駐車場で警察に目をつけられない方法」「排泄物の処理について」を教え合うなど、独特のつながりを持っています。様々な理由でこの暮らしを選んだノマドたちは、孤独だからこそ助け合うのでしょうか。


大きな見どころの一つは、ファーンがノマド暮らしの途中で出会うデイブ(デヴィッド・ストラザーン)との関係。深い人付き合いを避けようとする彼女が、ふと触れた人のぬくもりに、どう対応するのか……。
映画のトーンはあくまでニュートラルですが、高齢労働者、巨大企業の搾取など、世界中で見られる現象を切り取っています。ただし、リーマンショックや広大な土地という要素はアメリカならではのもので、このノマド現象が他の国でも起こるえるかどうかは分かりません。孤を選択する生き方が、実はクラシカルな人と人とのつながりを肯定している。そのことが印象的でした。

「ノマドランド」 3月26日(金) 全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

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