
話題の〈飯テロ〉アニメ「とんでもスキルで異世界放浪メシ」がうまそうなのには理由があった! 気鋭のスタジオ〈MAPPA〉潜入レポート
2023年1月10日に放送がスタートしたアニメ「とんでもスキルで異世界放浪メシ」。おいしいものが次々登場するこちらのアニメ、すでに各方面で話題を呼んでいます。
おいしいものと聞いては黙っていられないわれらがオレンジページnetでは、本作とのコラボ企画を実施。超人気声優のみなさんにインタビューした第1弾、第2弾の記事も大反響をいただきました!
今回は満を持して、作品の制作を務めるアニメスタジオ〈MAPPA〉を訪問。制作の裏側に潜入してきました。
〈MAPPA〉といえば、映画「この世界の片隅に」、「ユーリ!!! on ICE」や「呪術廻戦」、「進撃の巨人 The Final Season」、「チェンソーマン」など様々な作品を手掛けるスタジオ……いったいどんな光景が繰り広げられているのか⁉
いざ、突撃です!
この扉の向こうが聖域……! じつは編集部内にもファンの多い〈MAPPA〉。当日は大人数で押しかけてしまいました
PCがずらりと並ぶフロア。圧巻……! ちなみにリモートワーク中のスタッフが多く人がいませんが、みなさん自宅からPCをリモートで動かし作業するそう
再現料理の試食も楽しみ……? 目で見て感じる〈おいしさ〉を追求
「とんでもスキルで異世界放浪メシ」は、ウェブサイト「小説家になろう」で驚異の11億PV超えを果たし、シリーズ累計500万部を突破した人気作。
ある日突然異世界に召喚されてしまった平凡なサラリーマン、向田剛志・通称ムコーダが、魔物が跋扈する異世界をちょっとユルめにサバイブする姿が描かれます。
大いに注目を集めたのがムコーダのスキル〈ネットスーパー〉! 現代日本のネットスーパーから商品を取り寄せて作るおいしい料理が、食いしんぼうな魔獣や甘味好き女神を引き寄せてしまい……。
地上波では、テレビ東京ほかにて毎週火曜24:00~放送。その時間帯もあいまって、〈超絶飯テロアニメ〉として評判に。
オレンジページ的に気になるのは、とにかくおいしそうな料理描写の数々。なんでも、実写撮影した料理動画をもとに絵を起こしているとか。
監督の松田清さんとプロデューサーの小川崇博さん、そして演出担当の金子貴弘さんと篠原ぱらこさんが、舞台裏を明かしてくれました。
原作小説やコミカライズを参考にしつつ、世界観を壊さずにアニメ化を進めたそう
松田さん:MAPPAが制作するタイトルは、実写を参考に作画することも多いんです。
今回、だれに料理を作ってもらおうかと考えていたとき、たまたまテレビ番組で、料理撮影に特化したスタジオが特集されていまして。それが今回料理の再現撮影をお願いした〈バックス〉さんです。
小川さん:声をおかけしたら、〈バックス〉さんも面白そうだとおっしゃってくださいました。
アニメとのコラボは初めてだけど、シズルディレクターの川久保さんが「昔はアニメーターになりたかった」とおっしゃっていて。
――〈シズルディレクター〉とは……⁉
小川さん:撮影ご担当のかたの肩書です。
MAPPAが起こした絵コンテから〈バックス〉さんに料理シーンを再現していただき、「ここはこうするともっとおいしく見えますよ」などアドバイスをいただきながら撮影しました。
松井さん:本作では1話ごとに副監督(演出と呼ばれる役職)の役割のスタッフがいて、〈バックス〉さんでの撮影時に同行し、その場でアングルを決めたりしています。
料理だけでなく食べるお芝居も大事にしているので、スタッフがモデルをやった動画を参考にしたりしていました。
――実際に作った料理を食べたりもされるのですか?
松田さん:毎回ではないのですが、食べられたらラッキーって感じで立ち会ってました(笑)。
フードコーディネーターさんが作ってくれるので、めちゃくちゃおいしいんですよ。
たとえば大皿に盛られた肉ならこんな感じ。絵コンテをもとに撮影した実写の動画を参考に、作画を進めていきます
篠原さん:私は第4話の演出担当で、4話に登場するのがお惣菜やパンばかりだったんです。
黒毛和牛で料理撮影をする回の担当のかたたちがうらやましいなと思って……(笑)。でもパンをいっぱいもらって帰りました(笑)!
金子さん:私が担当した第3話では、ムコーダがフェル(おいしい料理につられ、ムコーダと従魔契約を結ぶ最強の魔獣。見た目は狼)に作ったパスタの余りのミートソースを使って、ピカタを作るんです。
このピカタを実写撮影したら、それまでのイメージを覆すおいしさで感動しました。じつはピカタは原作に登場しない料理なんです。
松田さん:小説や漫画だと気にならないのですが、映像にすると色がつくので、ほうっておくと料理が茶色い食材ばかりになっちゃうんです。
特にフェルは「お肉大好き、野菜はいらない」って子なんで……。それで彩りのあるピカタをシナリオに加えて工夫しました。
――もはや松田監督のフェルへの視線が、お母さんのようですね。「あの子、肉ばっかり食べるから」みたいな……。
小川さん:ムコーダもフェルたちに対してそんな感じですよね。
篠原さん:そういえば第4話で、ムコーダがフェルのために大量の焼き鳥を大皿に盛って出すシーンがあって。〈バックス〉さんでの撮影のとき、焼き鳥を串からはずす作業がものすごく大変だったんです。
スタッフが「ほんとに疲れる……ムコーダさん、フェルのためにこんな苦労を……」ってつぶやいてるのを聞いて、なんだかリアルでした(笑)。
–{実在の商品の登場、人気声優の名演……とにかくみどころ満載!}–
実在の商品の登場、人気声優の名演……とにかく見どころ満載!
アニメを多数制作している〈MAPPA〉ですが、初の料理アニメである今作では思わぬ苦労もあったとか。
ムコーダたちが夜の屋外で料理を食べるシーンの作画で、リアルな夜景どおりの色をつけたところ、あまりおいしそうに見えなかったのだそう。
理由は夜のシーンゆえ、全体の色みを寒色系に寄せていたこと。
通常のアニメの制作現場では普通の演出ですが、料理も主役のひとつであるこの作品にあっては、おいしそうに見えることが何より大切です。
そこで急遽演出プランを変更。
「本当は夜の設定だけど、料理が始まったら周囲を明るくするなどの演出を加えました。もちろん見ていて違和感がないようには計算してやっていますが、注意して見てみると、意外とそういうシーンがあるんですよ(笑)」と小川さん。
ほかにも、実写よりも暖色系を強調するなど色みの修正を加えているそう。
松田さんいわく、「毎回登場する料理が違うので、それぞれおいしそうに見えるよう色をつけていくのは、もうわりとセンスの世界」なのだとか。
技術のほかにもセンスが必要とは……奥が深いです!
料理の照りなどを表現する〈特殊効果〉の作業は、業界内でも有名な〈チーム・タニグチ〉に依頼し、共働で作り上げます。ちなみに左の画像が特殊効果入り。おいしそう!
ちなみに今作品、実在の企業名が次々登場することがネットで大いに話題となりました。
ネットスーパーなら〈イオン〉、「生姜焼のたれ」なら〈エバラ食品〉……おなじみの社名と商品名のオンパレードは、まるで物語の中の異世界と現実世界がつながっているような感覚に。
原作にはないこのアイディアは、MAPPAの木村プロデューサーの発案。
「正直、ここまでの反響に驚いております。
使用許諾を取るために駆け回ってくれた関係者の皆様にはとても感謝してます」と小川さん。
食いしんぼうとしては、知っている商品が出てくると親近感がわいて、つい食べたくなってしまうもの。
しかも気軽に買える商品ばかりだから、ムコーダが作る料理もばっちり再現できちゃう。
おいしいものが食べたくなると同時に、作りたくなってしまう〈飯テロアニメ〉でもあるのです。
異世界ものではおなじみのオークや怪鳥・ロックバードなどの肉を、豚肉や鶏肉として調理する主人公・ムコーダ。料理センス抜群……?
大量の原画の下書きに指示を入れている松田さん。「作りながら、めちゃくちゃおなかがすきます!」とのこと。わかります……
おいしそうな料理に加え、魅力的なキャラクターの数々も今作の魅力。人気声優のみなさんの見事な演技が話題を呼んでいます。
(主要キャストの内田雄馬さん、日野聡さん、木野日菜さん、内田真礼さんのインタビューはこちらからご覧ください!)
ちなみに声優の選考は、原作者やプロデューサーから「この人はどうですか?」と名前が挙がった候補のなかから、オーディションを実施したそうです。
松田さんに今作における声優陣の採用の決め手や、声の演出について伺いました。
松田さん:僕はリアルなお芝居をするかたが好みなんです。だからまず、主要キャラの4人は、お芝居の上手さを重視しました。
特にフェルはむずかしいキャラクターで、めちゃくちゃ強くてかっこいいけど、チャーミングさもないといけない。お芝居にも幅が求められるので、いろんなアプローチの役者さんに来ていただきました。
最終的にフェルは日野聡さんに決まりましたが、結果すごくいい人選だったなと。
――ムコーダ役の内田雄馬さんには、何かリクエストされたことはありましたか?
松田さん:ムコーダは主役でありながら、力も強くないし勇気もない一般人。作画でも、いわゆるイケメンキャラにならないように気をつけているのですが、内田さんにもそこを意識してもらいたいとお伝えして。彼は素の声がイケボなんで(笑)。
ちょっと気が抜けているというか、力の入っていないお芝居をしていただきました。
小川さん:ファンにも好評のようです。内田さんは、ほかのアニメではめちゃくちゃかっこいい役をたくさん演じてらっしゃるので、ムコーダのような役は新鮮でした。
松田さん:スライムのスイ役の木野さんや女神・ニンリル役の内田真礼さんのお芝居も絶妙にハマっているので、それぞれのキャラの個性を楽しんでいただきたいですね。
キャラクターの色彩設計を担当するスタッフのPCをのぞき見。各キャラクターに使用する色も細かく指定されています
声優の声を収録後、絵と音がぴったりとハマるよう、さらにキャラクターの動きを調整。たった数秒のシーンでも、かける手間は膨大!
–{今後の展開も気になる!制作スタッフ的必見ポイントは?}–
今後の展開も気になる! 制作スタッフ的必見ポイントは?
これからの展開も楽しみな「とんでもスキルで異世界放浪メシ」。取材の最後に、〈MAPPA〉のみなさんにこの作品の魅力や今後の見どころを伺いました。
小川さん:強大な敵に立ち向かったり、人間ドラマがあったりという複雑な設定があまりないので、いい意味で何も考えずに見られる作品だなと思っています。
松田さん:疲れて家に帰ってきた人が、ムコーダたちの旅を見て、癒されて楽しんでもらえるような作品にしたいです。
篠原さん:第4話は疲れたムコーダが手抜き料理をする回なんですけど、そういうことは自分たちにもあるので共感できますよね。
あとはムコーダがヒレカツを食べるとき、カツをご飯にうずめて、ご飯をソースに浸して食べるとか、原作にはない細かい描写が脚本段階でプラスされていたり。原作にはないけれど、ふだんついやっちゃうようなリアルな部分にも共感していただけたら。
松田さん:ムコーダって米にこだわりがあるんでしょうね。あのシーン、おかずは出来合いのものなのに、ご飯はパックのご飯を使わず土鍋で炊いてますし(笑)。
金子さん:そういうこだわりがある人、いますよね(笑)。
みなさんとてもフランクにお話ししてくださり、取材も盛り上がりました。ありがとうございます!
金子さん:物語の後半の見どころは、やっぱりキャラクターの関係の変化ではないでしょうか。前半はムコーダとフェルのやり取りがメインですが、後半は女神、そしてなんといってもスイが登場しますから。
最初はわがままな相棒だったフェルが、だんだんスイの面倒をみるお父さんチックな感じになっていったり。
篠原さん:ムコーダさんが食いしんぼうキャラたちに振り回されたり、世話をやいたりしているのも楽しくなりますよね。永遠に見ていられる、ほっこり癒やしポイント!
金子さん:あとはいろいろな魔物をいかにムコーダが現代の料理にアレンジするかを見てもらいたいです。
松田さん:基本は魔王をやっつけたりすることはなく、魔物を狩って料理を食べるという流れは変わらないんですけど、新キャラが増えることでドラマのおもしろさが出てくると思います。
実在の商品もどんどん新しいものが登場しますし!
小川さん:物語が進むにつれムコーダが料理上手になって、どんどん料理の手がこんでいくんですけど、それと同様に僕らスタッフも制作に慣れてきて、細かいところまで手がこんでいくんですよ。
そういう制作的な部分にも注目してもらえたらうれしいです。
Twitterでは再現料理を募集するキャンペーンなどもやっていて、景品も当たりますのでぜひ!
最後までムコーダたちの活躍を見届けてください。
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【放送情報】
2023年1月10日より毎週火曜24時~テレビ東京ほかにて放送中
【配信情報】
2023年1月10日より毎週火曜23時45分~Prime Video/ひかり TVにて独占配信中
【公式HP・SNS】
<公式HP>https://tondemoskill-anime.com/
<公式Twitter>@tonsuki_anime
撮影/キッチンミノル 取材・文/唐澤理恵