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オレンジページ40周年描きおろしエッセイ
創刊40周年を記念し、オレぺゆかりの豪華作家4名が書き下ろしエッセイを寄稿。4・5・6・7月の毎月17日に1編ずつ『オレンジページnet』で限定公開。お楽しみに!

角田光代×オレンジぺージ創刊40周年記念書きおろしエッセイ/ともに40周年‼

角田光代

ともに40周年‼

40周年おめでとうございます。

1985年の創刊から2025年で40周年と聞いて、私はじつに感慨深く思いました。というのも1985年は、私が高校を卒業し、大学に入学した年なのです。私の人生史上、もっとも大きな変革の年でありました。それまでは小学校からずっと同じ学校で、母親の作った食事をくり返し食べ、家族との外食は年に数度だけ、同級生との外食も1年に2、3回程度。

大学に通いはじめたころは自宅住まいでしたが、大学のある町には学生向きの飲食店が軒を並べていて、私ははじめて、昼も夜も、友だちといっしょに自由に外食する、という体験をしました。

実家を出てひとり暮らしをはじめたのは、大学三年に上がったときです。それまで米をといだこともなければ、味噌汁を作ったこともありませんでした。そのままひとり暮らしをはじめても、まったく不自由を感じませんでした。三食ともに好きなものが食べられる、好きなもののなかにはスナック菓子もカップラーメンも含まれる、外食だってし放題、食べたくなければ食べなくていい、という、二十歳過ぎにはじめて手にした、無限の食の自由に夢中になって、どちらかというと体に悪いものを機嫌よく食べて暮らしていました。

自分で料理をしたいと思ったのは、大学も卒業し、もの書きとしての仕事をはじめていた二十代半ばのころです。私がまず頼ったのは、ひとり暮らしの際に母親が持たせてくれた分厚い料理本と、それから雑誌『オレンジページ』です。

『オレンジページ』は当時から写真が美しく、食べたいばかりか作りたい気持ちにさせてくれ、なおかつ、料理の工程が非常にかんたんでした。雑誌なので、手軽に買えることも魅力でした。
雑誌をぜんぶとっておくとかさばるので、気に入った料理や、作りたいと思った料理のページを切り抜いて、スクラップブックにしていました。当時のスクラップブック二冊は、いまだに私の手元にあります。

時代の流れとともに、インターネットでも他雑誌でも、どんどんあたらしいレシピが紹介され、最近は、レンジや、あたらしい調理器具を駆使した時短料理が増えました。調味料や食材も、以前よりはずっと手に入りやすくなり、多国籍の料理も手軽に作れるようになりました。

『オレンジページ』は、そうした時代の流れにのっとって、いつもあたらしい料理を紹介し続けてくれますが、かわらないのは、ごまかさないおいしさだと私は思っています。ただたんに時間の掛からない、手間の少なさを優先したレシピではなく、「おいしいこと」がまずそもそもの最初にあって、どうしたらそのおいしさに早く、手間なくたどり着くかを逆算したレシピを、つねに教えてくれているように思うのです。

90年代の『オレンジページ』の何冊かは、ページを切り取らず、そのまま料理本コーナーにあります。スクラップブックや当時のレシピを、今も作っています。その都度、できあがった料理がきちんとおいしいこと、まったく古びていないことに驚き、感激しています。
これからもずっと頼りにしています。ともに年齢を重ねながらも、ずっとレシピを勉強し続けていきたいと思っています。

撮影/伊藤徹也

角田光代(かくたみつよ)

1967年神奈川県生まれ。魚座。早稲田大学第一文学部卒業。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞、2006年「ロック母」で川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉八日目の蟬』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞、2021年『源氏物語』訳で読売文学賞を受賞。著書に『笹の舟で海をわたる』『坂の途中の家』『タラント』『ゆうべの食卓』など多数。

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次回エッセイは7/17(木)更新、窪美澄さん『1985-2025』です。お楽しみに!