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けえけえくうくう くどう れいん

「けえけえ(食べな食べな)」「くうくう(食べる食べる)」盛岡在住の作家・くどうれいんさんが、おいしいもの好きなみなさんにお届けする、食エッセイです。

【くどうれいん書き下ろし食エッセイ連載】vol.5 春菊のサラダ

 春菊と聞けば、かつてはすき焼きに入っている菜っ葉という印象しかなかった。いまは、春菊と聞けばサラダ! と思う。数年前に友人に「春菊はチョレギサラダにするのがいちばんだよ」と教えてもらって以来、サラダでわさわさと春菊を頰張る幸せを知ってしまった。柔らかそうな「サラダ春菊」には特に目がない。

ボウルにごま油とお醤油と、ちょっとだけお酢。にんにくチューブと、たっぷりの白ごまと、あれば海苔を千切るのもいい。それを菜箸で適当に混ぜたら、四センチ幅程度にざく切りにした春菊を入れて和える。ボリュームがある春菊も油を纏(まと)ううちにすこししんなりしてくる。まんべんなく混ざったらそれだけでもう御馳走だ。

 先日、またいつか出会いたいとずっと思っていたマルシェカーで買い物ができた。VEGHUTRYという名前の動く野菜のセレクトショップで、岩手県内の野菜を中心に、なかなかスーパーでは出会えない珍しい野菜も売られている。以前ここで購入した蓮根(れんこん)は信じられないほどもちもちでオリーブオイルで焼くだけで感動するほど美味しく、そうか、魚やお肉がそうであるように、美味しい野菜って、うんと美味しいんだ! と感動したのだった。

ケール二種、かつお菜、ピクルス、蓮根、見たことのないくらい太いごぼう、しいたけ、リーキ、スナップえんどう……眺めているだけで、ああ、春だとうっとりする。そこにサラダ春菊があり、隣にサラダの写真が貼られていた。これは……しいたけ?

「生の春菊にすこし味を濃いめに炒めたしいたけを載せるのが最高に合うんですよ!」
 お兄さんはこころから堪(たま)らなそうに言う。このお店はいつもインスタグラムで「なるほどね!」かつ「そんなの絶対美味しいじゃん!」な野菜の食べ方を紹介していて、野菜料理のレパートリーを増やす参考になりありがたい。写真には美しい緑色の春菊の上にリーキとしいたけを炒めたものが載っていて、黒ごまがかかっていた。これは、やるしかあるまい。迷わず春菊としいたけを買う。このしいたけもあらまあと言いたくなるほど分厚く、焼いて食べるのも美味しそうだった。
 
 帰宅して、春菊を軽く洗うと水気を取ってざく切りにしてお皿に敷く。本当にただの生でいいのかちょっと不安になる。そのサラダ春菊にはなんと蕾(つぼみ)もそのまま入っていた。蕾を見ると春菊って菊なんだと改めて思う。フライパンにごま油を入れて少し厚めに切ったしいたけと長葱を炒め、塩を少し多めに入れた。長葱がくたくたになり、しいたけがすっかり艶めいたあたりで皿の春菊の上にその炒め物を載せて白ごまをかける(黒ごまを買っておけばよかった!)。

 温かいしいたけとフレッシュな春菊を一緒に口に運ぶ。しいたけと春菊の香りが螺旋(らせん)を描いて鼻を通り抜ける。しいたけの旨味に翻弄されそうなところを春菊のほろ苦さがずばっと斬ってくれて、熟練の殺陣(たて)のようだ。春菊の熱でくたっとした部分としゃきしゃきの部分の食感が違って楽しい。とろりとした長葱がソース代わりになってシンプルなのに深みがある。嚙めば嚙むほど春菊の緑色が春のからだに沁み込んでゆく。うっとりしながらわたしは一束をあっという間に食べきった。

著者プロフィール

くどうれいん
作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に『氷柱の声』(講談社)、『桃を煮るひと』(ミシマ社)など。エッセイ集『湯気を食べる』(小社)は、第12 回料理レシピ本大賞【料理部門】「入賞」を受賞。

文/くどう れいん イラスト/秋山 花 デザイン/広瀬 匡(FEZ)

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