お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
【アドレナリンが出る、読むのがやめられない刺激的な本6選】読書離れの人にお薦め!

今月のお客様のご依頼は……
SNS中心の生活で、本を読むことから離れぎみ。
アドレナリンが出るような刺激的な本で、また読書が楽しめるようになりたいです!
今回の選書担当

書店員芸人 カモシダせぶんさん
芸人活動と並行し、2つの書店に勤める現役書店員。9 月19日には初小説『探偵はパシられる』(PHP研究所)発売予定。
公式X:@kamo_books

「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
書店勤務のかたわら、店舗も商品もない「エア本屋」・いか文庫を発足。リアル書店での選書やイベントを通じ、本との出会いを提供している。
紹介する本 一覧
書店員芸人 カモシダせぶんさん
「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
書店員芸人 カモシダせぶんさん
おすすめ3選
主刺激だらけの芸人エッセイ

僕の心臓は右にある/
著:大城文章(チャンス大城) 朝日新聞出版 1540円
刺激的な本ならおまかせあれ。何せ僕は書店員をやりながら、刺激しかない芸人の世界にいますから。あなたにはぜひ、お笑い界でもとびきりエキセントリックなチャンス大城さんのエッセイを読んでほしいです。チャンスさんはタイトルどおり、心臓どころかすべての臓器が左右逆にある〈内臓逆位〉で生きてますし、高校生のときには悪い先輩に、心霊スポットの山で首から下を埋められた経験があります。通りかかった人にすみません……と声をかけたら、幽霊と思われ逃げられて……こんな話聞いたことありません。その後の展開もすごすぎます。笑いだけじゃなくて恐怖やせつなさ、夢への熱さ、いろんな刺激が詰まってる「スパイスカレー」みたいな一冊です。
芸歴30 年を超えるお笑い芸人・チャンス大城による初エッセイ。想像を超えるとんでもないエピソード満載の、笑って泣ける半生を赤裸々につづる。
このゲームあなたはどう挑む?

地雷グリコ/
著:青崎有吾 KADOKAWA 1925円
読書から離れぎみでしたら、読みやすい設定のものがいいかなと思いこちらを選びました。この本でいう「グリコ」とはじゃんけんをしてグーを出したら、グ・リ・コと3 歩進むあのゲームのことです。懐かしい。この小説はそんな「グリコ」や「だるまさんが転んだ」などの子どもの定番の遊びを、女子高校生の主人公が超絶真剣にやる話です。真剣に? いやいや運の要素で決まるゲームもあるじゃん。そう思うことでしょう。でもこの作品では、これらのゲームに“ある特殊ルール”が課されて運の要素がほぼなくなり、ものすごい〈知的ゲーム〉へと変わるんです。「このゲーム、自分だったらどう戦おう」そんなふうに頭を働かせて没頭すること間違いなしです。
勝負ごとに強い女子高生・射守矢真兎(いもりやまと)が風変わりなゲームの数々に挑む、本格頭
脳バトル小説。第24 回本格ミステリ大賞(小説部門)ほか、文学賞3 冠受賞。
ポテチ界のドラマに胸が熱くなる!

ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生/
著:稲田豊史 朝日新書 1045円
あなたは最近、いつポテトチップスを食べましたか? この本はポテトチップスの起こりから、それがどうやって日本に来たのか、形状や味、受け入れられ方が日本でどのように変化していったか……という歴史が書かれているのですが、これがとにかくおもしろい! あの薄いポテトチップスには意外なほどに重厚な企業ドラマがあったんです! 最初に全国的に広めた湖池屋。その一強を崩していくカルビー。この2 社の競争、逆転、もう激アツ! 揚げたてのポテチより熱いんです! 「カラムーチョ」や「ピザポテト」などおなじみの商品に隠された秘話を読むと、その一袋一袋がヒーローに見えてきて必ず買いたくなる。この感動、ぜひあなたにも体験してもらいたいです。
日本人はなぜ、こんなにもポテチ好きになったのか――。ポテトチップスの歴史をたどりながら、戦後食文化史や日本人論にまで迫る一冊。
「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
おすすめ3選
没入感がすごい!青春駅伝ストーリー

風が強く吹いている/
著:三浦しをん 新潮文庫 1100円
私の実家はスポーツ店なのですが、この本を読むまで駅伝観戦をしたことがありませんでした。ところが。とある年末、帰省のお供になんとなく手にとり、あっという間に没入、夜通し読んで親に心配れ、そのまま年明けの箱根駅伝をテレビ観戦……という強烈な体験を、この本が与えてくれました。緊張みなぎる情景が浮かび、仲間たちのやり取りに胸を熱くし、さっそうと走る姿を脳内再生できるようになって……競技のことを知らなくても興奮が止まらず、ゾーンに入ったように物語にひたることができます。魅力的な登場人物にも注目を(私の推しは「王子」)。読後に大会を見れば、まるであの子が、みんなが走っている! と、本の世界を超えてリアルにも楽しめます。
大学4 年生の清瀬灰はい二じ はある夜、類まれな走りの才能を持つ蔵原走かけるに出くわす。2
人が出会い、ほぼ陸上競技未経験の仲間とともに、無謀とも思える箱根駅伝に挑む。
臨場感ある筆致に胸が躍る

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬/
著:若林正恭 文春文庫 869円
読書家としても知られる若林さんの旅行記は、テンポよく読めるうえに笑いもあってぐいぐい引き込まれます。最初の旅先はキューバ。ページをめくるたび、自分も若林さんの肩に乗って旅しているかのように、その場のにおいや熱気をリアルに感じられる、その度合いがすごいんです。とくにキューバに到着した直後と、カリビアンブルーの海を見た瞬間に込み上げて笑ってしまった……という場面は、私までテンションが上がりいっしょに笑ってしまったほど。次はどこ? その次は? 期待に胸を躍らせながら読みめられます。しかもこの本、旅の記録だけじゃないのがさらなる読みどころ。キューバ旅のまとめはとくに……詳しくは言えないのでとにかく読んで!
漫才コンビ・オードリー若林正恭による紀行文。飛行機の最後の1 席を押さえて一人旅立った「キューバ」ほか「、モンゴル」「アイスランド」「コロナ後の東京」の全4 編。
既存の価値観が壊される……!?

丸の内魔法少女ミラクリーナ/
著:村田沙耶香 角川文庫 704円
この短編集の主人公たちは、一見特殊な世界の住人。でも、じつは魔法使いだと正体を隠していたり、性別を消して生活していたり、現実にあってもおかしくないと思える設定で語り口も淡々としているので、するすると物語に入り込めます。ただ、本当にありそうゆえに「あなたは自分が普通だと思っているようだけど、本当?」「あなたも同じ境遇になってもおかしくないんじゃない?」と指摘されている
ようで、なんとなくソワソワ。居心地の悪さを感じつつ、既存の価値観をぶち壊されるような刺激もあるのでもっと読みたくなる。もっとひたっていたくなる。最後の一文を読み終えたとき、世の中の見方が少し変わったと思うのは、私だけじゃないはず。
魔法少女に変身する「妄想」で日々を乗り切るOL・茅ヶ崎リナ。ひょんなことから友人の彼も、魔法少女になりきる生活にのめり込み……。表題作含む全4 編収録。
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イラスト/河原奈苗