こんにちは。「オレンジページ日本酒部」部員の、ニックネーム・酔い子です。4月は、酒蔵さんが東京に集結しての一大イベントが各所でありました。仕込みが一段落するころから始まる日本酒のイベントは、お酒好きなら目が離せません。酒蔵さんと交流し、みんなで語りながら飲むのはやっぱり楽しい!あらためて思うのは、全国の酒蔵が切磋琢磨しながら造るお酒は、すばらしくおいしいということ。造り手のゆるぎない信念と突き進む雄姿には、お話しをうかがうたび感動することばかりです。日本酒に接する機会が少ないというかたは、ぜひぜひ、前のめりにはまってみてほしいと思います!そこで5月の推し酒は、ある日本酒イベントで断トツ人気だったこちら! おいしさ七変化!? 「生酛のどぶ」(奈良・久保本家酒造) お酒好きなら、あまりにも有名な一本ですが、奈良の酒蔵・久保本家酒造が造る「生酛のどぶ」は、代表銘柄「睡龍」「初霞」と並ぶ、大人気のにごり酒。生酛純米酒のもろみを粗くこしただけの、火入れタイプのクリーミーなにごり酒です。 写真の通り、購入時はにごりが総量の約1/4量近く沈殿しています。この部分こそ、米のうまみ&甘みの宝庫。いただくときは、全体が均一になるまでシェイク、シェイク! 思いきり振ってから開栓します。 生酛造りは江戸時代から伝わる製法で、酒母造りの際、米麹・蒸し米・水を合わせて米をすり潰す「山卸し(酛すり)」という作業を行うのが特徴。これにより、自然界に存在する乳酸菌を取り入れて酛を酸性に保ち、不要な微生物を死滅させて、アルコール発酵に必要な元気な酵母を培養し、酒を醸します。 手間と時間をかけるだけでなく、高度な技術を必要とする生酛造りは、繊細でいて深みのある酒質が得られるといわれ、私も大いにはまっています。ラベルに大きく赤で表示されている「+14」という数字は、甘・辛口の数値を示す日本酒度の数値。驚きの+14! プラスの数値が高いほど辛口なので、かなりの辛口です。「濃くて辛口のお酒、絶対無理~!」と思われがちですが、いやいや、お待ちください。今回は、東京・小伝馬町にある料理がおいしい居酒屋「みを木」の女将・愛さんとさまざまな飲み方を検証。試飲と称し、すっごく飲んじゃいました。えへ。 まず、正統派としておすすめしたいのは、燗酒。圧倒的に燗がうまいです。しかも、60℃超えのアツアツ燗にすると、際立った辛みが一転、まろやかに。米の甘みを舌に感じ、スーッとキレていく心地よさ。まぐろの漬けや野菜の煮ものなど、料理と合わせるとさらになめらかな味わいになり、あとを引きます。ぬるんできた燗冷ましもこれまた、もう、もう。うまーい! さらに、久保本家酒造の杜氏・加藤克則さんも奨励しているのは、「割水燗」。酒に水を加える割合はお好みですが、酒一合に対して水30㎖前後でしょうか。アルコール度数は15度なのでもともと高くはないのですが、割水をすることで口あたりが柔らかくなり、より飲みやすくなります。これも60℃以上の燗がおすすめです。 そして、生酛のどぶのおもしろさはここから!このお酒は常温でもいけますが、粗くこしているため、もろみのざらつきや酸味を舌に感じやすくなります。そこで、味わいを追及する加藤杜氏が打ち出したのが、「どぶサワー」と「どぶビール」!! ◎どぶサワー(左) 冷やしたグラスに常温のどぶを1/3量程度の注ぎ、キンキンに冷えた炭酸水を2/3量注ぐ。氷は入れない。→炭酸のはじける爽快さと、米のエキスというべき甘みが相まって、暑い日に一杯目に飲みたいおいしさ!◎どぶビール(右)冷やしたグラスに常温のどぶを1/3量程度注ぎ、キンキンに冷えた通常のビールを2/3量注ぐ。→どぶのうまみをキープしつつ、大人のビールに変身! 温まらないよう、小さなグラスで作るのがおすすめ。と、生酛のどぶじゃなくなるようですが、しっかりどぶを主張する一杯が完成。私と女将は配合をつぶさに検証し、「私たちは同割が好き♪」となりました(笑)。ほかにも「どぶファン」は、ラベルに記載された仕込みナンバーをチェックし、番号違いを飲み比べたり、さらなる飲み方の追及をしています。生酛のどぶは楽しくておいしくて、興味が尽きることがありません。久保本家酒造は、奈良県宇陀市大宇陀町で1702年(元禄15年)に創業。300年以上の歴史を刻む老舗酒蔵が造る酒は、いまや多くのファンに支持されています。十一代目の久保順平さんが銀行マンから家業を継いだのは33歳のとき。廃業が続く地域の酒蔵を見て、これからの酒造りの方向を模索し続け、やがて自社ブランドの開発に着手。2003年に現杜氏の加藤克則さんが入蔵すると、蔵の整備と生酛造りに向けた改革がいっきに進み、完全発酵の生酛純米酒が完成。生酛造りは酒蔵の主力商品となり、飲む人に喜ばれるお酒になったのでした。 「生酛のどぶ」データと取り扱い店について 〇原材料名:米(国産)、米こうじ(国産米)〇精米歩合:掛米60%、麹米65%〇原料米:掛米/ 近江日本晴75%、麹米/ 阿波山田錦25%〇アルコール分:15度〇価格:720㎖ 1870円~、1.8ℓ 3740円~〇取り扱い店: https://kubohonke.com/retail/■株式会社久保本家酒造: https://kubohonke.com/ 「生酛のどぶ」と合わせたのは、田舎揚げのそぼろあんかけ にごり酒は合わせる料理を選びそう……と思われがちですが、生酛のどぶは、どんな料理ともよく合います。米の甘みを感じるお酒なので、淡泊な白身魚の刺し身だと、甘み、うまみがお酒に負けてしまうかもしれませんが、それも一興です。今回は、奈良のアンテナショップで見つけた三角形の「吉野田舎揚げ」を使い、カリカリに焼いてそぼろあんをかけました。もちろん栃尾名物の油揚げや、厚揚げでもOKです。 ひき肉でうまみを出し、しょうゆ味のあんに仕上げます。 田舎揚げのそぼろあんかけ 材料(2人分) 田舎揚げ 2枚豚ひき肉 50g万能ねぎの小口切り 2本分A水 140㎖しょうゆ 小さじ1/2B片栗粉 大さじ1/2水 大さじ1塩 適宜サラダ油 大さじ1/2 作り方 (1)Bの材料を容器に合わせてよく混ぜ、水溶き片栗粉を作っておく。 (2)小鍋にサラダ油を中火で熱し、ひき肉を入れて塩少々をふる。中火でほぐしながら炒め、ポロポロになったらAを加えて1分ほど煮る。 (3)味をみて足りなければ、塩少々で味を整える。水溶き片栗粉をもう一度よく混ぜ、2の小鍋に2回に分けて加え、大きく混ぜてとろみをつける。いったん火を止めておく。 (4)フライパンにサラダ油を中火で熱し、田舎揚げを入れて焼きつける。フライ返しなどで上から押しつけ、表面がカリカリになるように両面を焼く。器に盛り、そぼろあんを温めて揚げにかけ、万能ねぎを散らす。 あつあつの燗酒からスタートして燗冷ましまで、ゆっくりお楽しみください。次回は6月9日更新予定です。最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。 協力/日本橋小伝馬町 みを木 https://miogi.net/profileオレぺ日本酒部*酔い子/比留間深雪(株)オレンジページ コトラボ推進部スーパーバイザー。編集部に在籍中、雑誌、ムックを制作するかたわら、日本酒の魅力にひたすらはまり続け、酒蔵との交流が人生の財産となる。現部署では、体験型スタジオ「コトラボ」で料理レッスンを中心とした講座やイベントの企画・運営、企業の研修業務等に携わり、日本酒との接点を模索する日々。会社公認のオレぺ日本酒部は今年で8年目に突入。部活動を通して日本酒の味わいや楽しみ方を発信している。地方の産品を求め、道の駅めぐりが趣味。