こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。みなさんのおふくろの味、何ですか? 「あの料理!」とすぐに思い浮かぶ人もいれば、たくさんあって選べない、という人もいるかもしれません。この映画を見たら、今のうちに教わっておこうかなという気になるのではないでしょうか。おふくろの味ならぬ、父親の味。『花椒(ホアジャオ)の味』は、父親の死をきっかけに出会った異母姉妹が、その交流を通してそれぞれの人生を見つめ直していくストーリー。父が築いた火鍋の味を再現しようと奮闘し、新たな人生の一歩を踏み出す彼女たちの姿に心を打たれる作品です。
突然出会うことになる3人の異母姉妹。旅行代理店で働くユーシュー(サミー・チェン)は、同じ香港に住みながらも疎遠になっていた父親が店で倒れたと聞き、病院に駆けつけるも父の死に目に会うことは叶いません。葬儀の日、次女のルージー(メーガン・ライ)と三女のルーグオ(リー・シャオフォン)が現れ、3人姉妹が邂逅することに。父は三度の結婚でそれぞれ娘をもうけていたのです。
2人の存在を知らなかったユーシュー。殺伐とした雰囲気になるかと思いきや、意外にも3人はすぐ心を通わせるようになります。太陽を中心に回る惑星のように、同じ父親を持ちながら複雑な感情を抱えて生きてきたもの同士、戦友のような感情があったのかもしれません。
父が経営していた火鍋店の賃貸契約はまだ残っており、ここでやめると契約違反に。ユーシューは一念発起し、2人を巻き込んで店を継ぐことを決意するのです。
タイトルにもある花椒は、火鍋の味を決める麻辣スープを作るのに欠かせない香辛料。父の味を再現するのは難しく、お客さんからは味が変わったと言われてしまいます。この火鍋、意外なものが実は入っていたことが判明し、これがなかなか心憎い展開なのです。
火鍋が映画の重要な要素であることは言うまでもないですが、3人が父の死をきっかけに今後の人生をどう歩んでいくかも見どころ。「辛みで痛みを感じれば、他の痛みを忘れる」そんなセリフがどこかのシーンでありましたが、3人とも父の死以外にそれぞれ対峙すべき課題を抱えています。恋人との結婚に踏み切れないユーシュー、お互いを思いながらも母親と傷つけあってしまうルージー。そしてルーグオは、自分のことを心配するあまり結婚相手を見つけようとする祖母との関係がギクシャクしています。生きてきた環境も性格もまったく違いながらも、お互いを労わりながら一歩を踏み出す彼女たちを応援したい気持ちになるんです。
色々な香辛料やスパイスの組み合わせの妙で、味が完成する火鍋。父の味を受け継ぎながらも、きっとユーシューは自分自身のスタイルをこれから築き上げていくのだと思います。きっちりとしながら、人一倍愛情深い彼女が作る火鍋はどんな味わいなのか、想像がふくらんでしまいますね。
『
花椒(ホアジャオ)の味』11月5日(金)より新宿武蔵野館他全国順次公開
配給:武蔵野エンタテインメント株式会社
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