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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.120】『アイダよ、何処へ?』

2021.09.17

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。おうちごはんが増え、毎日の献立作りに悩む! という声が以前にも増して寄せられます。毎日のことだから、本当に大変ですよね。同時に、その日何を食べようか考えられるって、どれだけ幸せなことなのかと、今作を見て改めて感じます。
食糧が不足し、パンの配給にむらがる人々。この映画は、1992年に勃発したボスニア紛争の末期である1995年に起こった実話がベースになっています。たった30数年前に、ヨーロッパで繰り広げられた惨劇。戦争の虚しさはもちろん、家族の愛や人間の尊厳、そして憎しみの連鎖を断ち切り赦す強さ。極限状態を生きる一人の女性の姿を通して、様々なメッセージが込められた作品です。


当時、ボスニア紛争のことはもちろん連日日本のニュースでも報道していたはずですが、正直あまり理解していませんでした……。複数の民族と宗教と言語が共存していたこの地域は、ユーゴスラビアから独立したことで民族間での対立が生まれてしまい、内戦に発展したんですね。1995年7月。セルビア人勢力によって包囲されたボスニアの町スレブレニツァ。ただしこの町は国連の「安全地帯」に指定されていて、攻撃してはならないルールになっていました。町はずれにある国連施設に押し寄せる市民(ボシュニャク人)の数は、実に2万人以上。国連保護軍であるオランダ部隊が管理するこの施設で通訳を務めるアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は、彼女もまたボシュニャク人で、混乱の中で職務を果たしながらも自分の家族を探しています。夫と2人の息子を何としても施設の中に入れたいのです。セルビア人勢力との交渉に民間人を派遣することになり、すぐに機転をきかせて知識人である夫を推薦するアイダ。狙いは成功し、夫と息子たちを首尾よく施設内に迎え入れることができます。交渉の結果、避難民を攻撃しないという約束を取り付け、安全な場所へと「移動」することになったのですが……。


避難民、ボシュニャク人。戦争は無機質な言葉や数字で語られてしまうことが多いですが、それぞれの人生があるという当たり前のことに、アイダという人物を見ていて気づかされました。この緊張感のある局面での通訳としての顔。そして、セルビア人勢力に連れて行かれないよう、職権を利用してでも夫と息子たちを助けようとする母としての顔。
「戦争は男の人たちのゲーム」この監督のヤスミラ・ジュバニッチさんが、インタビューでこんな風に語っているのが印象に残っています。もしそうだとして、ゲームのプレーヤーでないアイダのなんとたくましいことか。劣勢に立たされると男性は弱いものなのでしょうか、夫のニハド(イズディン・バイロヴィッチ)も2人の息子も、必死なアイダに比べるとどこか頼りなく感じました。今そこに迫っている危機をなんとか遠ざけようとするアイダですが、頼みの綱である国連保護軍の無力さといったら。役所仕事に徹する彼らに怒りを感じながらも、自分もまたその国連の職員であるというジレンマ……。


これまでも、ボスニア紛争をテーマに祖国の物語を描いてきたヤスミラ・ジュバニッチ監督。過去の作品では、紛争トラウマで苦しむ女性やカップルを通してその傷跡を表現していましたが、今作は紛争のまさに「その時」を題材にしています。
無益な争いに対しての怒りややるせなさ、そして国連への批判。ただし、それでもラストに希望を感じさせるんですよね、この監督の作品は。これだけ非人道的なことが行われて、どうして希望を描けるんだろう? と思いますが、多民族が共存する未来をこの監督は決してあきらめていないのでしょう。彼女の作品を初めて見る方は、ぜひ過去の作品も見てほしいし、過去作を見てから今作を見るのもおすすめ。明るい話ではないし、辛い気持ちにもなりますが、どれも見終わった後に必ず温かいもので心が満たされる作品ばかりです。

『アイダよ、何処へ?』9月17日(金)より Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、他 全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
©2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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