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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.119】『テーラー 人生の仕立て屋』

2021.09.03

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。この間、ギリシャ料理を習う機会がありました。「ギリシャヨーグルト」が有名なだけあってヨーグルトを使うメニューが多く、どれも素材の味を引き出すおいしい料理ばかり! いつか行ってみたいな~と思っていたら、これまた素敵なギリシャ映画に出会いました。人生の崖っぷちに立たされた中年男性が、色々なことにチャレンジしながらどうにか活路を見出していく、とても爽やかなストーリー。先行きの見えない時代、ポジティブなメッセージに元気をもらえるはずですよ。


無口でひたむきな職人さん。技術だけでなくアピール力が求められる今の時代、生きづらい人たちかもしれません。ニコス(ディミトリス・イメロス)もその一人。アテネで高級紳士服の仕立て屋を長年父親とともに営んできた、彼の腕は確かなもの。しかしながら、不況のあおりを受けて高級スーツの需要は減り、ついに銀行から差し押さえを言い渡されてしまいます。父親曰く、イタリア製のスーツは3,000~4,000ユーロ、彼らの店で仕立てれば同じナポリ仕立てで1,200ユーロとのこと。しかしながら技術一本でやって来た彼らには、そういった内容をうまく宣伝するノウハウがないんでしょうね。
ついには父親が倒れてしまい、ここでニコスが取った打開策がなかなかユニーク。移動販売用の屋台を手作りし、路上マーケットでのスーツ販売に打って出るのです。ここまでは良いのですが、道端で高級スーツはなかなか売れず、せっかくやって来たお客さんには自分のこだわりを延々と語り、逃げられてしまう始末。見ていると不器用でもどかしく、でも空気を読まないそのひたむきさが憎めないんですよね。


ギリシャという国は地理上の理由から、東欧からの移民が多いそう。ニコスにとってよき相棒となる隣人女性のオルガ(タミラ・クリエヴァ)も、娘と外国語を話していることから分かるように移民のようです。ニコスは裁縫が好きなオルガの力を借り、女性服の作り方を学ぶことで活路を見出します。彼女もまた、自分が作った服を売ってもらえることで、新しい居場所を発見するのです。
廃れゆく業界で働くニコスと、支配的なギリシャ人の夫との生活にどこか窮屈さを感じているオルガ。いわば社会の周縁で生きる2人が心を通い合わせる姿は、切なく美しい。人と人のつながりが何かを生み出す、そんなシンプルな事実に心を打たれます。そんな大人の事情を気にせず、ニコスになついているオルガの娘がかわいい!


高級スーツを作り続けてきた職人が、戸惑いながらも女性服を仕上げていく姿は見どころの一つ。商売が軌道に乗ると思いきや、うまく値切られてしまったり、魚屋さんに現物払いされてしまったり、どこまでも不器用な主人公にいつの間にか感情移入してしまいます。
最後はニコスとオルガが結ばれて……とはいかず、ちょっぴりビターなハッピーエンド。確かな希望を感じさせつつも、ただ甘いだけじゃない、ほんのり苦味を残すその余韻が絶妙なのです。

『テーラー 人生の仕立て屋』9月3日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
©2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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