できないのが怖かった。5年ぶりの舞台で、サウナが起こした思考の変化【清水みさと連載】
「できない」は5年前と変わらず、そこらじゅうにころがっていた
1月、わたしは5年ぶりに演劇の舞台に立った。
特に避けていたわけではないけれど、流れに身をまかせがちなわたしは演劇となかなかタイミングが合わず、気づくと5年がたっていた。
この5年間、演じることにほぼ触れていなかったので、明らかにせりふ覚えが悪くなっていたし、上手(かみて)と下手(しもて)が左右どっちかなんて忘れてしまって、確かな感覚みたいなものはどこにもなかった。
稽古が始まる前から、「なんで舞台をやるなんて二つ返事をしてしまったんだろう」そう思ったり、忘れたりを繰り返す情緒が定まらないまま、新入生のような緊張と不安をないまぜにした青い心で稽古が始まるまでの日々を過ごした(1週間くらい)。

わたしは、稽古というものがずっと苦手だった。
「できない」それが怖かったのだ。できないからできるようにしていくのが稽古であって、失敗するなんて当たり前なのに、「なんでできないんだろう」って、できないことにぶち当たるたびにわたしはそう考えていた。
なんでの答えが見つかったことは一度もなくて、わからないまま本番が来て、わからなくても本番は楽しくて、わからないままそれらを乗り越えた。
だから稽古は苦悩するのが相場だと脳みそにすり込まれていて、感覚といっしょにすっかり忘れられたらよかったのにそういう記憶だけはタトゥーのように刻まれてるんですよね、不思議なもんで。

でもひょっとしたらわたしだって、まぁほら、だてに年も重ねていないし? なんか突然できるようになっていたりするかもしれないじゃん? って一瞬でも淡い期待を胸に抱いたことをここに白状します。
そして当たり前だけどそんな甘っちょろいわけもなく、「できない」は5年前と変わらずそこらじゅうにころがっていた。そもそも「できない」ってなんだ? と、わたしはむんずとつかんだその「できない」をじっと見つめて考えた。
「どうやったらできるんだろう」
わたしの「なんでできないんだろう」が「どうやったらできるんだろう」になっていた。びっくりした。

5年ぶりの稽古は、苦しいよりも楽しいが勝った。
どうやったらいいんだろうという前向きな攻略を携えたわたしは、葛藤しても、逡巡しても、大丈夫でいられる心を、5年前には間違いなく持ち合わせてなんかいなかったその心を、手にしていたのだ。
迎えた本番の舞台上で、わたしは以前にも増して自由をまとった感触がわかって、楽しさも喜びも倍の倍にふくらんでいた。そして、演劇から離れていたこの5年もの間に出会った友人たちがドキドキしながら見に来てくれたのも、「待ってたよ」ってわくわくしてくれていた人たちがいたのも、本当にうれしかった。

わたしはこの5年という月日に、相も変わらずあきれるほどサウナに行き、サウナが接点となって年齢も職業も異なるたくさんの人に出会った。
モデルをしたり、テレビに出たり、ナレーションをしたり、ラジオのパーソナリティを務めたり、もの書きをしたり、世界中を旅しまくったり、主たる仕事が定まらないまま節操なくさまざまなことに首を突っ込んだ5年間が、「どうやったらできるんだろう」の思考に変えてくれたんだと思った。

点と点は思わぬ形でつながり線となる。
なにかに関係がなくても、無駄に思えても、自分がやりたいのなら絶対にやったほうがいい。わたしの人生という宇宙にサウナがビッグバンを起こし、世界がぐんと広がったのと同時に、度量も大きくなっているんだとしたら、こんなにうれしいことはない。
これからもわたしは、いろんな人と出会い、いろんなことをしながら、たくさんのきらめく星をかき集めようと思う。バラバラでもチグハグでもそれらの星々は見上げればきっと、星座のようにつながっている。
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PROFILE
清水みさと(しみず・みさと)
1992年、奈良県生まれ。タレント、女優。サウナ好きとして知られ、サウナ・スパプロフェッショナル、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ。日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」のモデル、フィンランドサウナアンバサダー、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/Spotify)のパーソナリティとしても活躍中。
Instagram @misatoshimizu35

文・写真/清水みさと バナー・プロフィール画像/大辻隆広