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けえけえくうくう くどう れいん

「けえけえ(食べな食べな)」「くうくう(食べる食べる)」盛岡在住の作家・くどうれいんさんが、おいしいもの好きなみなさんにお届けする、食エッセイです。

【くどうれいん食エッセイ連載】vol.12ざる中華

 「ざる中華」が東北を中心にした食文化で、全国的なものではないと知ったときの衝撃と言ったらない。ざる中華、あるいは中華ざると呼ばれる冷やし麺は夏の主な主食と言っても過言ではないほど食卓の定番だった。そうめんやひやむぎよりも登場回数が多かったので、どうしてみんな夏になるとそうめんの話ばかりしてざる中華の話はしないのだろうと思っていたほどだ。

 ざる中華とは、要するに、中華麺のざる蕎麦である。ラーメンや冷やし中華で食べるような黄色い中華麺を茹で、水で〆め、めんつゆでいただく。そうめんよりも食べ応えがあり、縮れた麺につゆがよく絡む。わたしはこのざる中華が幼いころから大好きだ。つゆと麺がセットになったものがスーパーに売られていることもあるけれど(もしや、それも東北だけだったらどうしよう!)、ラーメン用に売られている中華麺と家にあるめんつゆで十分に美味しい。

 鍋にぐらぐらと湯を沸かして中華麺を放つ。鍋の中はぱっと黄色く明るくなって、縮れ麺が躍るようにくるくると回る。氷水を用意しておいて、茹であがりの時間を迎えたらすぐに水を掛けて冷やす。ここ数年、夏の蛇口から出てくる水はぬるいままで心配になる。かつては水を少し出しているだけでひゃっと声が出るほどきんきんだったような気がするのだけれど、しばらく出してもぬるいままだ。地球のすべてが熱くなりすぎているのだろう。ざっと熱を取ったら氷水につけ、水を切ってざるの上に盛る。 

海苔や葱をトッピングしてもいいのだけれど、シンプルに麺だけで食べるのも大好きだ。めんつゆは規定の通りに希釈して、わたしはそこにチューブのわさびをちょっとだけ入れる(味変にラー油を入れたり、ごまだれで食べる人もいるらしいが、わたしは圧倒的にどこにでもよくあるめんつゆでいただくのがいちばんだと思う)。あとは奪い合うように麺をすすり、あっという間に食べきってしまう。さっと済ませたいお昼ご飯や、軽めの夜ご飯にもいい。もちもちした麺はかむとほんのり甘く、暑さにぐったりとした胃がげんきを取り戻す。

 食べたことがない人は、中華麺にめんつゆを? と、ぎょっとしたりするのだろうか。思った通りの味がするのだけれど、その思った通りの味が、思ったよりしみじみと美味しいのだ。冷やしラーメンや冷やし中華のように、うまみのあるスープや甘酸っぱいたれでいただく中華麺ももちろん美味しいのだけれど、わたしはざる中華を食べるたびに、中華麺とは本当はめんつゆですするために出来た麺なのではないかと感動してしまう。

 ざる中華はきっと東北の家庭では結構頻繁に食卓に上っているはずなのだけれど、あまりに家庭的なのか、ぐったりしながら適当に食べるものだからなのか、その話で盛り上がることはない。時折蕎麦屋さんや中華料理屋さんなどのメニューにしれっと紛れ込んでいるが、家で作るととびきり安いことがわかっているために、外食で食べるにはやや割高に感じてしまい頼んだためしがない。ハレとケならば、ケの麺。黄色いばかりでシンプルなのだけれど、そういうまっすぐなものを食べたくなるのが夏だろう。

著者プロフィール

くどうれいん
作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に『氷柱の声』(講談社)、『桃を煮るひと』(ミシマ社)など。エッセイ集『湯気を食べる』(小社)は、第12 回料理レシピ本大賞【料理部門】「入賞」を受賞。

文/くどう れいん イラスト/秋山 花 デザイン/広瀬 匡(FEZ)

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