お客さんの悩みや気持ちに寄り添う本を、ちょっと世話焼きな書店員たちが心をこめて選書いたします。どうか素敵な本との出会いがありますように。
【凄腕書店員が本気で選ぶ!】職場の人間関係や、世代間ギャップに役立つ一冊とは?

今月のお客様のご依頼は……
世代が違う上司や後輩と、話や価値観が合いません。
相手のことも理解したいのですが……。
今回の選書担当

書店員芸人 カモシダせぶんさん
芸人活動と並行し、2つの書店に勤める現役書店員。9 月19日には初小説『探偵はパシられる』(PHP研究所)発売予定。
公式X:@kamo_books

「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
書店勤務のかたわら、店舗も商品もない「エア本屋」・いか文庫を発足。リアル書店での選書やイベントを通じ、本との出会いを提供している。
紹介する本 一覧
書店員芸人 カモシダせぶんさん
「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
書店員芸人 カモシダせぶんさん
おすすめ3選
ランナーとテレビマン。2つの視点で駅伝を描く

俺たちの箱根駅伝 上・下/
著:池井戸 潤 文藝春秋 各1980円
若い世代の気持ちも、ベテランさんの気持ちも両方知りたい。そんなあなたにぴったりなのがこの小説! 群像劇にグッときます。池井戸作品なので、もちろんスカッとした大逆転あり。駅伝の話と聞くと、みなさん「大学生ランナーが主人公なんでしょ?」と考えると思います。もちろんランナーたちもですが、この話のもう一つの主人公が、箱根駅伝を放送する「テレビマン」たち。現場の先輩たちが何を大事にしてきたか、その意思が若手に伝わるさまを読むと、自分たちの上の世代への見方が変わりますよ! まず箱根駅伝自体が、世代を超えてみなが注目する大会。その駅伝の豆知識なんかもたくさん入っているので、この一冊をきっかけにいろんな世代の人としゃべれます!
箱根駅伝出場のラストチャンスに挑む、明誠学院大学陸上競技部・青葉隼斗。大会
の中継を担うテレビ局プロデューサー・徳重亮。2 人を中心に熱き群像劇を描く。
若年世代が紡ぐ歌集で感性をアップデート

新鋭短歌シリーズ59 老人ホームで死ぬほどモテたい/
著:上坂あゆ美 監修:東 直子 書肆侃侃房 1870円
若い人はどんなことを考えているんだろう……そう思っているあなたに読んでほしいのがこの短歌集。新進気鋭の歌人・上坂さんの歌に触れると、感性がアップデートされます。「お父さんお元気ですかフィリピンの女の乳首は何色ですか」。この歌、「フィリピンの」まではきれいな話なのかなーと思いきや、そこから一気に生臭さと深みが出てくる。母と別れ、外国に行った父に対して詠んだ歌。「『新人はいいから後ろで見ておきな』フリルの戦闘服の先輩」は、メイド喫茶で働いていた経験を歌に。若さやかわいさの中には強いしんがあるんだとわかります。むき出しの気持ちが小気味よく伝わってくるこの歌集を読めば、あなたの目も、現代育ちの人々と同じ景色を見られると思います。
1991 年生まれの歌人、エッセイスト・上坂あゆ美によるデビュー歌集。自身の家庭環境や10 代のころの体験を軸にした、生身の歌が紡がれる。
会話のたねに時代小説はいかが?

火喰鳥 羽州ぼろ鳶組/
著:今村翔吾 祥伝社文庫 814円
話す相手の世代がかなり上になると、共通の話題って見つけづらいですよね。たとえお互いの趣味が読書でも、こちらは現代的なエンタメ、向こうは時代小説とかだったら話しにくいし……。そんなときのために、若い世代でも入りやすい時代小説を読んでおくのはどうでしょう? 今村翔吾先生の本作は特におすすめ。舞台は江戸時代、元有名火消だった主人公が、新たに火消隊を結成するために人を探し、大火を消していく物語。この〈人の集まり方〉〈火事の消し方〉がすごくドラマチック。登場人物も個性派ぞろいで、まるでマンガ『ONE PIECE』と同じくらい読みやすくて、熱くなれる! 若いかたから年配のかたまで人気のあるシリーズなので、ぜひ!
「羽州ぼろ鳶組」シリーズ第1 巻。江戸随一と呼ばれた武家火消・松永源吾は、ある火事を機に浪人暮らしに。ある日、壊滅した藩の火消組織の再建を依頼され――。
「いか文庫」店主 粕川ゆきさん
おすすめ3選
無敵だったあのころの感覚を取り戻そう

女の園の星 既刊1~4 巻/
著:和山やま 祥伝社 748円〜
高校生の集団に出くわすと緊張します。若さからの無敵さを感じて。だからこのマンガに手がのびなかったのですが、おもしろいって評判だし、主人公は先生だしと読んでみたら……女子高生たちの最強っぷりに、クスクス笑いが止まりませんでした。学級日誌で「絵しりとり」をしたり、学校で飼っている犬に眉毛を描いたり。毎日ポロシャツを着ている先生に「ポロシャツアンバサダー」ってあだ名をつける発想力には驚愕。でもそうだ、私が高校生のとき、甘いマスク(顔)だから「あまま」と呼ばれる先生がいて、名づけた人天才! って感動したんだった。本当は、もう失った怖いもの知らずの感性がうらやましいのかも。笑いながら、あのころの感覚を取り戻してみては?
女子校教師・星先生と生徒たちとの、いい意味で「くだらない」日常を描く。第25 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門「ソーシャルインパクト賞」受賞。
問題の原因は本当に「世代」?

待ち遠しい/
著:柴崎友香 毎日文庫 990円
違いしかない3 人が、いっしょにごはんを食べたりしながら関係をつくる〈ご近所物語〉。正直、25 歳の沙希の話し方や、63 歳のゆかりのおせっかいには、身近にいたら困るなぁと思いました。でも、年齢も感覚も自分に近い39歳の春子の気持ちで読んだら、そもそも「世代の違いが問題なの?」という疑問が。寄り添ったり、距離をおいたりを繰り返して理解を深めようとする彼女たちを見るうちに、問題はそこではないという確信のようなものを得ました。「みんなそれぞれなのよね」「経験してるからってわからないことも、経験していなくてもわかることも、どっちもあると思うわ」。このゆかりの言葉を唱えながら、異なる価値観との接し方を少し変えてみませんか。
一人暮らしの北川春子39 歳、夫を亡くした青木ゆかり63 歳、新婚・遠藤沙希25 歳。世代も性格も違う3 人が出会い、微妙な距離感のご近所づきあいが始まる。
「同じ」会社の人々の「違う」視点をのぞく

御社のチャラ男/
著:絲山秋子 講談社文庫 869円
とある会社に勤めるさまざまな世代の社員が、仕事と自分のことを1 章ずつ語っていく物語なのですが、全員が全員、本当にまったく違う。いや、そりゃ当たり前なんだけれども。同じ職場で起きたちょっとずつ重なる出来事を語っているはずなのに、立場や世代によって異なる文体で語られるので、よりリアルな情景が浮かんで「そりゃ理解しあえるわけないわ!」と妙に納得してしまうんです。ただ、自分に似ている「41 歳・森」の、めんどくさい仕事のしかたしかできない世代は、「24 歳・樋口」の努力しなくても謝ればすむという感覚を少し身につけたら楽になるんだろうな、とも。その違いに触れるだけでも、何か変化は起こるかもしれない、そんな希望も与えてくれます。
地方の小さな会社・ジョルジュ食品でひそかに「チャラ男」と呼ばれる、どこか軽薄
な三芳部長。周囲の人々が彼について語ることで見えてくるものとは――。
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イラスト/河原奈苗