「おいしいね」と言い合うとき、幸福だけがそこにある
食べたいものがありすぎる。
わたしは毎晩ソファに横たわって、ほぼアザラシみたいな体勢で、それに反比例した働き者の指先がせっせとおいしいお店をリサーチする。
わたしのSNSはアルゴリズムにより「食」と「旅」の情報ばかりが流れてくる。毎日チェックしているのに、新たな店の情報ばかりが出現する東京という街が恐ろしい。どれだけおいしいものがあるんだろう。これじゃ死ぬまでに食べきれないよと頭を抱える幸せ者だ。
特に行きたい場所は、食べログとGoogleマップに保存する。チェックしすぎて、Googleマップに至っては「行きたい」欲望のチェックマークにより、東京は沈没中。

ひとりでも外食できるタイプだけど、ひとりだと胃袋が足りなくてぜんぜんメニューを食べきれないのがネックなところ。そういうときは、やっぱりみんなで食べるのがいい。みんながいれば、少しずついろんなものを食べられるから。

みんなで食べるとき、取り分けてくれる気のきく人が必ず一人はいるけれど、
ひとつのお皿をみんなで平等に箸でつつき合うのも好きだ。遠慮のかたまりが最後までポツンと残ってだれもとろうとしなかったり、好物だから多めにお皿によそう人がいたり、1皿目の餃子がまだ残っているのに、2皿目が運ばれてきたとき、できたてを瞬時にとる人がいたりする。そういう人間味がおもしろくて楽しい。(できたてを食べたい派)

食いしんぼうフレンズには年齢も職業も関係ない。
「おいしいね」と言い合うとき、縦とか横とかそういうしがらみが消え、幸福だけがそこにある。そんな
グルメな友人がいてうれしいことのひとつは、予約困難店ののれんをくぐるラッキーにめぐりあえたりしちゃうこと。昨今、数ヵ月から数年待ちのようなお店がざらにあり、手も足も出ずに、おいしそうだなぁと恋焦がれるなんてこともしばしばある。それに、行き当たりばったりに人生を過ごしたいわたしにとって、数ヵ月先の予定を確約することはむずかしい。だってもしかしたら、トルコやチェコに行きたくなって、ふらっと行っちゃったりするかもしれないし。そんなとき、「行く?」と声をかけてもらえるのは本当にうれしい。
先日、
大衆酒場の聖地、京成立石駅にある数年待ちの焼肉「幸泉」に連れていってもらった。友人の友人が1年前から貸し切り予約をしていたそうで、遠い親戚レベルのわたしにまで参加チャンスがめぐってきたのだ。

いつか行きたいお店リストのなかでもひときわ輝くそれだったので、
誘ってもらったとき「わたしの生き方、間違ってなかった!」と思ったりした。 のれんをくぐり席に着くと、無論友人以外、初めまして。でもテーブルを囲めばそんなことってどうってことない。わたしは、いちばん初めに出てきたアボカドのキムチでご飯1杯食べきるほどには心を開ききっていた。

たっぷりのたれでひたひたのタンやカルビ、分厚いお肉が次々に現れ、ほっぺたをさすりながら幸せをかみしめ、わたしはご飯を3杯食べた。
それぞれのお金で、それぞれの喜びを共有し、一致団結しながら焼き肉を食べる。それはさながら、これまでいっしょに長い旅路を航海してきた海賊の一味のようだった。
完璧でも立派でもなく、だれかに誘ってもらえる人でありたいと思う。
自分が誘うならどんな人だろうと考えたとき真っ先に思い浮かぶのは、軽やかで、楽しげな、気をつかわずにいられる人で、みんながそれを求めていなくても、少なくとも自分で自分を誘いたくなる人物ではありたいと、思っている。
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PROFILE
清水みさと(しみず・みさと)
1992年、奈良県生まれ。タレント、女優。サウナ好きとして知られ、サウナ・スパプロフェッショナル、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ。日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」のモデル、フィンランドサウナアンバサダー、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/Spotify)のパーソナリティとしても活躍中。
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@misatoshimizu35