料理好き、そして玉子好きな小説家の井上荒野さんが、 気楽に作れておいしい「目玉焼きのせ」料理を紹介する連載エッセイ。今回は、喫茶店の鉄板ナポリタンの味をイメージしてフライパンで作るひと皿です。目玉焼きをのせるだけで、ナポリタンがちょっと豪華に変身します。
ナポリタンはレストランというより喫茶店で食べるもの、という認識は世代的なものだろうか。といって、私は喫茶店でそれを食べたことがなくて、ただ、ある種の喫茶店に行くといつでもナポリタンの匂いが漂っていた、という記憶だけがある。そのような喫茶店で二十一歳のクリスマスイブに、当時の恋人と待ち合わせしていたのだが、いつまで経っても彼はあらわれなくて、もしやと思って薄暗い店内を歩いてみたら、いちばん奥の席で椅子からずり落ちそうになって熟睡していた、ということがあった。今から思うと、あれが別れの兆しだったのかもしれない(遠い目)。
ナポリタンに入れるのはハムかソーセージかベーコンか、というのは巷でよく話題になることだけれど、私は断然ハム派。それも安い、「ペチッ」としたハムを短冊に切ってたくさん入れるのが好きだ。そして味つけはケチャップを主体に、ちょっとだけコンソメの素的なものを入れる。料理のプロではない喫茶店のマスター(痩せて長身でちょっと長髪で、鼻髭で、わりとパリッとしたデニムにくたびれた白いワイシャツの袖をまくり上げている、というのが私のイメージ)が、小腹を空かせた若者のためにちゃちゃっと作る、という感じをやはりかもしだしたいのである。
長野の洋食屋やカフェでは麺の下に溶いた玉子を敷いて鉄板の熱で半熟に火を通す、鉄板ナポリタンというメニューをよく見かける。私の家には適当な鉄板がないので、豪華にしたいときには目玉焼きをのせるわけだが、もちろんこれもおいしく、私の脳内マスターならばきっとこちらを作るだろう。
東京でも猫が
布団に入ってくる
気温になりました
東京の家の庭。
鳥が運んできた
一粒の実から
大きくなった
ピラカンサ
友人が作ってくれた
唐辛子のリース。
時々ひとつふたつ
抜いて料理にも
使っています
撮影/三原久明
文・写真・料理/井上荒野 構成/掛川ゆり
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