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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.63】「はちどり」

2020.06.25


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
「おふくろの味」という表現がありますが、自分にとってのおふくろの味、パッと答えられますか?
映画『はちどり』では、お母さんがじゃがいものチヂミをよく作っています。主人公の少女にとっては、これがきっとおふくろの味になるのかなあと思いました。
中学二年生の女の子の不安定な心情を、同じく不安定だった90年代の韓国社会と重ねて描いた今作は、アカデミー賞を獲った『パラサイト 半地下の家族』と同様に韓国で大きな反響があったそう。
家庭や学校での閉塞感、急速に発展する国、信頼できる大人との出会い、そして社会を揺るがした大事件……一見バラバラに見えるそれぞれのピースが絶妙なバランスでつなぎ合わさり、不安と温かさが共存した不思議な雰囲気の作品です。


いきなり不思議なシーンで始まります。主人公のウニ(パク・ジフ)が自宅のドアをどんどんと叩くのですが、あいにく家族は不在。彼女は「お母さん!」と繰り返すも、その響きは空しく響くばかり……。
はっきりとした説明のないシーンがいくつかあって、それがこの映画自体の魅力につながっています。

ウニは中学二年生。学校では居眠りをしてクラスメイトから「あんな子は大学に行けずに家政婦になるしかないよ」と言われ、家では権威的な父親を内心蔑み、心を殺して生きている母親にやるせなさを感じている、そんな女の子。
お父さんやお兄さんに殴られる、とウニが友だちに相談している場面がありますが、その友だちも「私も」と言うくらいなので、もしかしたら当時の韓国ではそれくらい父権や長男主義の強い?社会だったのかもしれません。

当時というのは1994年。韓国という国は長らく軍事政権が権力を握っていて、それがようやく終わったのは92年のことでした。88年のソウルオリンピック開催で国際社会の仲間入りをした韓国が、新しい価値観と古い体制の間で揺れ動いている、それがウニが生きている時代です。
静かな絶望に包まれたウニの日常を少しだけ変えたのは、ある女性との出会い。漢文塾(というのがあるんですね)の講師としてやって来た、ヨンジ先生(キム・セビョク)のどこかひょうひょうとした、他の大人と少し違う雰囲気がウニの心をつかむのです。


ユンジ先生の人物像は詳しくは描かれていません。大学を休学中で、「だから少し年を取っている」と自分で語る程度。ただ、ちょっとした一言に彼女の人となりがにじみ出る場面があります。街の中にある「私たちは死んでも立ち退かない」という看板に不安を覚えるユニに、「むやみに同情はできない、知らないから」と少し寂しそうにユンジは語るのです。なんだかこの一言で、ユニが彼女に心を開いた理由が分かったような気がするんですよね。

いつもどこか宙を見ているようなユンジ先生が、兄によく殴られることを告白したウニに「誰かに殴られたら黙っていてはダメ」と力強く諭す場面が、とても印象的でした。

1994年は、韓国の人にとって忘れられない年。7月に北朝鮮の金日成主席が亡くなるというエポックメイキングな出来事があり、さらに10月、ソウル中心を流れる漢江にかかるソンス大橋が突然崩れ落ちるという大惨事が起こったのです。犠牲者は30人余りで、手抜き工事が原因だったとか。
翌年にも、ソウルにあるデパートが同じく欠陥工事が原因で崩落。当時の韓国社会を覆う不安定な空気が、14歳の少女の揺れ動く心情とシンクロして伝わってくるのです。


ボーイフレンドといざこざがあったり、後輩の女の子に好かれたり、家庭でのストレスが原因なのか耳にしこりが出来たり、とりとめがなく、それでいて全てがつながっているようにも思えるエピソードの数々。
説明や解釈はいくらでも出来るのですが、1994年、ソウルにユニという少女が確かにいて、こういう経験をしたのだろうと、それでいいのだと思いました。

はちどりは、世界一小さな鳥の一つ。生命や美、希望の象徴と言われています。監督にとって、小さな羽を懸命にはばたかせる姿はユニと重なるそう。26年たった今、ユニは今も韓国のどこかではばたいているのでしょうか。


「はちどり」  ユーロスペースほか 全国順次ロードショー
©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
提 供:アニモプロデュース、朝日新聞社 
配給:アニモプロデュース

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回7/3(金)は「カセットテープ・ダイアリーズ」です。お楽しみに!

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